ビューティフル・ボーイ | akaneの鑑賞記録

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歌舞伎や演劇、映画、TVドラマなど鑑賞作品の覚書

 


 「君の名前で僕を呼んで」のティモシー・シャラメ主演。
 デヴィッド(スティーヴ・カレル)の息子ニック(ティモシー・シャラメ)は、成績優秀でスポーツも万能。父子の仲も良い“理想的な息子”だった。

しかし、ニックは深刻なドラッグ依存に陥っていた。

「あんなに美しく、可愛かった息子がなぜ?」。

デヴィッドは息子をなんとか救おうとするのだが……。


ともかくティモシー・シャラメが凄い!
 

 

いや~ちょっとびっくりしたわ!
名前は知っていましたが「僕の名前で君を呼んで」は、あまりストーリーに惹かれず観なかったんです。
これはDVDチェックしなきゃ!

もうまさしくニックそのもの。
憑依型の演技のようでありながら、かなりリサーチして緻密に演じていることもわかります。
繊細かつ、強烈な存在感。
素晴らしい俳優さんですね。これからが楽しみです。
ちょっと菅田将暉くんに通じる感もあるかなぁ



そして父親役がなんとスティーヴ・カレル。
「バイス」のラムズフェルドさんですよ!!
まぁこちらも全く違う役作りで、とても同じ人とは思えない。
凄い役者さんだな。

「もうドラッグはやらない」と言っては、同じ過ちを繰り返す息子にどう手を差し伸べればいいのか。
本人の苦しみと同時に、父親のもがきと苦しみが胸に迫ります。

 


両親はニックが小さいころに離婚しています。
普段は父親と共に暮らし、年に数度、飛行機で母親に会いに行っていましたが、今は疎遠になってしまって、母親には新しいパートナーが。
そして父親も再婚して2人の幼い義弟と義妹がいます。

 

 

この2人の子供がまたあどけなく可愛らしくて、父親は「このぐらいの時は本当に素直で可愛かったのに…どうしてこんなことになってしまったんだろう」と落ち込むんです。

 


「複雑な家庭に育ったから」を理由にするのは嫌なのですが、小さいころから、空港で父親と別れて母親に会いに行くシーンが何度か回想されているので、本人としては辛い思い出だったのかもしれません。
「ボクがいい子じゃないと一人ぼっちになってしまう」という恐怖心がずっとあったのかも。

薬物摂取でボロボロになるたびに、何度も何度も「僕のこと嫌いになった?こんな僕は嫌いだよね?」って父親に確かめるんです。

成績優秀でスポーツも万能、容姿端麗。

パーフェクトな自分でいないと愛されないんじゃないかという不安。
再婚して新しい母親と小さな弟と妹もいる中で、さらに良いお兄ちゃんでいなくてはならないプレッシャー。

ドラッグも最初はほんの出来心なんですよね。高校生時代に。
それがあっという間にエスカレートしていってしまう。

 


父親はフリーのジャーナリスト。

 

息子のニックを本当に心から愛しているんだけど、微妙に距離を感じさせるところ
父親が思い描く良い息子でなくてはならない、という無言の圧力をそこはかとなく感じさせるところ

 

その具合がとてもよく演じられていて、「うん…なんかちょっと…わかる」って感じなんですよ。
親(大人)からの一番嫌な言葉「あなたのためを思って」って言われるときの気持ちっていうのかな。
父親と息子、お互いを思う気持ちはあるんだけど、それぞれの考えていることや精神状態が理解し合えなくて平行線をたどるばかり。

 

離婚した母親も、一旦はニックを引き取きとるのですが、結局は「24時間見張ってなんかいられない!」とギブアップしてしまう。

一緒に住んでいる義理の母親カレンは、車で逃げ出したニックとその彼女を追うのですが、途中であきらめてしまいます。
「自分の本当の子供だったら、ひっぱたいてでも連れ戻すのに…!」そんなもどかしさが溢れ、追うのをためらってしまったことがまた悔しくて涙を流すカレンの気持ちも痛いほどよくわかります。
 

 


私はお酒もタバコも嗜みませんので、禁断症状の辛さみたいなものは分かりませんが、甘いものを我慢してダイエット!程度でも、すぐ心折れちゃいますよね。
薬物中毒となるともう脳が破壊されてしまう訳ですから、意思や根性だけで更生することは無理でしょう。


私が月に5~6本映画を見るのも、普通の人からみると異常かもしれません。
普通ってなに?ってことにもなりますが、私も以前は、映画館に行くのはよほど大画面で見たい作品を年に数本程度、あとはレンタルDVDがほとんどでした。
でも暗闇の中で、ステージやスクリーンに集中することで、辛い仕事のストレスから解放されるのです。
そして年に1つか2つ、魂が震え涙がとめどなく溢れるような衝撃的な作品に出逢ってしまう。
その高揚感を味わいたいがために、また劇場に、映画館に足を運ぶ。

 


これって程度の差はあれど、依存症患者の精神状態と同じですよね?


そうして昨年出逢ってしまったのが「ボヘミアン・ラプソディ」であり「クイーン」な訳です。
どんどんDVDも買ってしまいます。金銭感覚がマヒします。

 


微笑ましい趣味。

「推し」がいる幸せな毎日。

 


でもそこから地獄に堕ちてしまうのは、本当に紙一重なんじゃないだろうか。




薬物やアルコールだけでなく、ギャンブル、恋愛、投資、芸能人…依存症になる可能性のある対象は様々です。
そしてその渦中にいる人は、全然危険だと思っていません。

 

このぐらい、みんなやってる。

 

その「このぐらい」を決めるのも自分ですから、どんどん自分の都合のよいように境界線を書き換えていってしまう。

 

自分は大丈夫。

自分はちゃんとコントロールできている。

もう放っておいて。


あるいは

 

このままじゃダメだ。止めなきゃ。でも止められない。

そういう精神状態のなかでグルグル出口を探している人。
 

 

 

沼の浅い深いにかかわらず、ハマってしまった人を引きずり出すことは不可能です。
何かきっかけを与えることはできるかもしれませんが、本人が自分で「立ち上がろう」としない限り、人が人を救うことなんかできないんです。

 


自分の愛する人が、子供が、こんな事態になってしまったら、本当にどうして良いかわかりません。
自分自身も壊れてしまって共倒れになってしまうかも。


ニックの純粋さが際立つがゆえに、観ている方も父親と一緒になって彼の再生を信じ、裏切られ、落胆を繰り返します。
苦しみは簡単に終わらないし、劇的な解決も映画の中では訪れません。
そこはやはりもどかしいですね。
また編集としてもう少しスッキリまとめられたのではないかな、と思う部分はありました。

 


現在の彼の状況は、エンドロールに文字のみにて表示。
「生きているのが奇跡」と言われるほどの摂取量だったにも関わらず、以後8年間、薬物を絶ち、脚本家などの仕事で活躍しているとのことで、それが何よりの救いです。