それぞれの理由で安楽死を望み、廃病院の密室に集まった12人の少年少女は、そこで死体を見つける。死体が何者で自殺なのか他殺なのか、集まった12人の中に殺人犯がいるのか。やがて、12人の死にたい理由が明らかになっていく。
いわずと知れた1950年代のテレビドラマ『十二人の怒れる男』を踏襲。
のちに映画化&舞台化されたこの作品は、密室劇の金字塔です。
ほとんどの出来事がたった一つの部屋を中心に繰り広げられており「物語は脚本が面白ければ場所など関係ない」という説を体現する作品として高く評価されています。
舞台を見慣れている人には、面白さが分かってもらえると思うのですが、エンタテインメントとしての映画を期待していると、少し物足りなく感じるかもしれません。
この映画も、舞台となるのは廃病院の一室。
自殺サイトに応募して選ばれた12人の自殺願望のある10代の若者が集まってきます。
彼らの目的は「集団安楽死」。
廃病院というのが非常に不気味で、「リアルタイム型・密室ゲームがスタート!」なんて書いてあるから、この12人の中に1人サイコパスがいて全員惨殺されるとか、バトルロワイヤルのようにみんなで殺し合いをするとか、そういう展開なのかと心配しましたが大丈夫でした。!
三々五々、約束の部屋に集まってきた面々。
さぁ12人揃った!というところに、主催者である男の子がやってきます。
なぜ13人?!
部屋には最初から死体?が眠っていたのです。
実は約束の集合時間よりもかなり早く病院に到着していたメンバーが何人かいて、すでにそこから物語は始まっていたのでした。
集団安楽死は12人全員の意思が揃わないと実行できません。
そのため「決をとる」のですが、「まず、この死体がなぜここにあるのか解明してからでないと実行できない」と言い出す者が現われます。
取りあえず、横たわっている少年を0番として、それぞれ12人が入ってきた順番、その時なにか気になることがあったかどうかをみんなで確認し、推理を始めるます。
そうこうしているうちに、死体だと思っていた少年は息を吹き返すのですが意識はありません。
彼も自殺願望者であれば良いのですが、彼が外部から連れてこられたのであれば、一緒に安楽死をしてしまうと、「殺人」になってしまう。
「それは主旨に反する」と自殺の決行に反する者、早く死んでしまいたい者とで対立が起こり、徹底的に話し合い、自分たちの境遇を告白していきます。
各々、死にたい理由はそれぞれです。
外から見れば「そんなことで?」と思うかもしれませんが、死にたい理由に優劣はありません。
その人にとっては、自分の命を懸けるほどの理由なのですから。
「推しのアイドルが死んでしまった」
「援交のおじさんにヘルペスを移された」
一見くだらない理由のようにも思えますが、そこまでアイドルに入れ込むのも、援助交際をしているのも、最終的にそこに逃げ込んだのであって、実生活で自分を受け入れてくれる場所、心の支えとなる人がいない、ということです。
学生の頃は、学校と家庭が世界の全て。
だからそこで行き詰ってしまうと他に逃げ場所がありません。
人生で最も輝いているはずの10代なのに「生まれてこなければ良かった」と思い詰めている子供たち。
自分の思いを声に出せず、声に出しても届かず、もう死ぬことでしか世間に自分の存在を知らしめる方法がない。
病気や事故の後遺症で、生きるのに疲れてしまった子もいますが、ほとんどが「いじめ」と「親との確執」が問題。
死ぬことによって「親に復讐してやる」という子もいます。
お前の思い通りになんかさせない
私の死が一生心の傷になればいい
とまで思い詰めているのは、本当に辛いですね。
親子と言っても性格や考え方が同じとは限りません。
分かり合えないこともたくさんあります。
それをどこまで受け入れるべきか、正してあげるべきか、親の存在の難しさを突き付けられます。
人間は1人では生きていけません。
存在価値を否定され、自分の居場所がない状況に追い込まれたら、大人でも生きていく意味を見出せなくなります。
職場や家庭で大きなストレスを抱え、そこから逃れられず、残念ながら死を選んでしまう人もいます。
年を重ね、たった一人で孤独死を迎えてしまう人も。
この映画は子供たちが主人公で、演じているのも若い役者さんたちなので、それほど重苦しい話にはなっていませんが、根はみんな優しくて真面目な子ばかりです。
本当に死にたい子なんていません。
1人で死ぬのは辛すぎるから、心細いから、せめて誰かと一緒に死にたいと集まったのです。
身内や友達といった近い存在ではなく、他人同士だから本音で話ができた。
みんな「死にたい」という思いと真剣に向き合ったからこそ分かり合えた。
その結果、お互いを支え合う気持ちが目覚め、今までと違う道を歩いてみようと思えるようになったのでしょう。
土砂降りの雨から一夜明けた朝日の中、清々しい表情で病院を出ていく彼らのまぶしい笑顔が救いでした。
このサイトの主催者であるサトシ役、高杉真宙くん。
キャリアの面でも一日の長というか、落ち着いた演技でよく全体をまとめていたと思います。
最後のネタバレも「そうだよね」って感じで納得。
アンリ役の杉咲花さん。このところちょっとエキセントリックな役が多いかな?華やかさはあったけれどもう少しクールダウンして欲しかった感じ。
シンジロウ役の新田真剣祐君。推理力抜群ということでストーリーを引っ張っていく力はありましたけど、余命いくばくもない、という割にはガタイが良すぎるのがネックかな。
ノブオ役の北村匠海君。印象に残ったのは「勝手にふるえてろ」のイチ役。
今クール「グッドワイフ」でも新進弁護士役頑張ってますね。
これから伸びそうだなと注目しています。
リョウコ役の橋本環奈さん。オーラは問題なし、というかちょっともったいなかったかも。
その他のキャストも、CMやドラマで見かけたことあるかな?という子たちで、それぞれに個性がよく出ていて好感が持てました。