孤独の島 エラリイ・クイーン 1969年
ハヤカワ文庫 1979年
ニュー・ブラッドフォードの町の製紙工場を襲った三人組の強盗は、当初仲間に引き入れた帳簿係を裏切って彼を射殺して、社員の全給与2万4千ドルを強奪して逃走するが、思いがけず事件が早く発覚して、街から出る道路が封鎖される。
そこで3人組の1人で唯一の女性であるゴールディのアイディアにより、彼女の妹がベビーシッターとして働いている警官の家に押し入り、ここの娘を人質に取り、ほとぼりが覚めるまで警官に現金が入った黒いバッグを預けることにする。
一方、子供の頃の貧しい生活から学校、軍隊生活を経て警察勤務までを孤独の中に過ごし、徹底した個人主義で人格を形成して来た警官マローンは、突然熊の仮面を被った男女3人組の強盗に娘を誘拐される。
推理と持ち前の機転でなんとか無事に娘を取り戻したマローンではあったが、犯人たちに再び娘は拐かされるのと同時に、何者かに現金の入ったバッグも奪われる。
何物にも頼ることのできない彼に救いはあるのか?再び家族3人で平凡に暮らすことのできる生活は戻ってくるのか?
ミステリーの巨匠エラリイ・クイーンの執筆活動40周年を記念して書かれた作品で、長きにわたる彼ら(クイーンは従兄弟同士の共作)にとって、別名義であるバーナビー・ロスのペンネームで書いたドルリー・レール4部作以外に、作者と同名の作家探偵エラリイ、クイーンが登場しない二つの作品のうちのひとつ。(もう一方は「ガラスの村」)
クイーンは本格謎解きミステリ黄金期からアガサ・クリスティ、ディクスン・カーと並び、その王道の謎解き小説をブレることなく書き続けて来たが、本人たちはぶれなくても、社会と読者の求めるものが変わって来た。
この小説はクイーンなりのハードボイルドに対する回答であろう。
確かに暴力犯罪と孤独なヒーローとを描くストーリーはそれまでの作者と読者の知恵比べ的な謎解き小説ではないが、相手の裏をかく手法と目まぐるしく変わる展開はさすが事件を書き慣れたクイーンの物であることを実感した。
クイーンファン以外には知られざる作品であり
すでに絶版ではあるが、優れたクライム・ノベルであることは間違いない。