鈴木義昭「桃色じかけのフィルム 失われた映画を探せ」読む 映画に貴賤はない 成人映画の歴史と遺産
ランク Aの下~Bの上1962年に、女性の裸とセックスを描いた 18禁のピンク(成人)映画が製作された。この本は、ピンク映画に関わった監督 女優などを取材、調査し、 急激に失われつつある裏日本映画史を 記録した貴重な本です。成人映画専門の映画館は 全国で数えるほどしか残っていません。 (ネットのエロサイトなどにより 地方都市は絶滅し、東京、大阪などの 大都市に、ひっそりといくつか残っているだけです)1962年(昭和37)には、TVの普及により 映画全盛期は過ぎて、映画の斜陽化が 急速に始まりました。 (新東宝は、B級お色気、キワモノ映画で 活路を見出しますが、倒産します) 映画界の不況と映画製作本数の減少により、 映画人は、TV業界と、18禁成人映画界へ 流れていきます。成人映画は、劇場映画の 十分の一、百分の一の低予算、 短期間撮影で撮影され、 裸とセックスを中心に 粗製乱造?されます。客足が減った映画館が 成人映画専門の映画館へと 看板をかけ替えていきます。根強い成人映画人気にあやかろうと 日活、東映などもロマンポルノ路線で 参入してきます。著者は、成人映画の初期?の頃から 成人映画にのめり込み、 成人映画専門の映画評論家として 活動を続けています。この本で著者は、 陽が当たる劇場映画は、大切に記録されるが 日陰物のB級成人映画は 忘れられ、記録がどんどん失われていく 現状をどうにか残したいという 強い思いがあります。古くなった成人映画フィルムは 処分され、多くが残っていません。成人映画に関わった監督、女優、男優、ポスター カメラマンなどの記録も失われています。1962年(昭和37)から始まった成人映画ですが 60年以上経た現在、風前の灯火となっています。著者は、日本の映画裏面史である 成人映画の記憶と記録を求めて 書き記した執念が、この本です。著者は、成人・ピンク映画界史で エポックとなる作品、監督、女優などに 焦点を絞って、成人映画とは 何だったのかを、描いています。解説ではなく、ドキュメントを描いているのが この本の一番の魅力です。例えば、黒澤明の無二の親友で、 初期作品の名プロデューサーだった 本木荘二郎です。 (「羅生門」「七人の侍」などのプロデューサー をする・・・) 金銭、女性問題などで 東宝と黒澤明に断絶され 成人映画界へ飛び込み、 名を変えて監督し、 数多くの作品を制作します。 本木荘二郎の最後が、どうだったかは 是非、この本を読んで下さい)ストリッパーに恋した名家の医師が ストリッパーと結婚し、 その女優が出演した 成人映画フィルムのエピソードなどは 純愛映画そのものです。大映画会社では、制作本数が減り、 監督するチャンスが無くなった若い映画人が 成人映画に流れ、数々の伝説的な 実験的な、名作成人映画を監督します。ブルーフィルムと成人映画の関わり合いも 語られます。 ブルーフィルム:非合法な本番フィルムで 温泉街、個人愛好家などで 密かに流通した短編映画成人映画界からは、メジャー映画へと、 羽ばたいた若い監督が多く生まれました。映倫と成人映画との共存と戦い、 官憲との表現の自由闘争、猥褻裁判も 語られます。女優、男優も、俳優としてのプロ意識と 心意気で、成人映画に取り組みます。これらのエピソードが、インタビューなどを 通して、語られます。 「映画に貴賤はない」これが著者の信条だと思いました。この本を読めば、 著者の成人映画「愛」を 理解できると思います。大劇場映画フィルムは、デジタル化などで 永久的に保存されますが、 成人映画のようなB級映画は ほとんどデジタル化されません。 (優先順位が低すぎる?のと 費用と手間がかかるからです)ゆえに、成人映画のようなB級映画フィルムは ただでさえ、残っているフィルムが少ないのに 自然劣化で失われていっています。著者は、成人映画フィルムや資料等の保存を 強くこの本で主張しています。 (私が、大金持ちなら、 出資するのだけれども・・・嗚呼、トホホ)日本映画界は、 大劇場映画と成人映画の両輪だったことを 教えてくれる本です。この本を読めば、 あなたが成人映画を観たくなるのは 間違いないです。 (でも、観るチャンスは ほとんど無いと思います・・・嗚呼、トホホ)成人映画は、現在のAV業界に 駆逐されました。見えそうで見えない猥褻な映像に 心をときめかせる時代では ないのかもしれません。違法すれすれの表現こそ 成人映画の魅力かもしれません。是非、お読みください。高尚な芸術論だけが 映画史、映画論ではありません。人間の欲望(男対象でしたが・・・)を 表現したのが成人ピンクポルノ映画です。この本を読めば、新しい世界が広がるはずです。最後に、私の成人映画の思い出を・・・私の生まれた地方都市には、 繁華街の入り口に、成人映画館がありました。高校時代です。ある日、級友の一人が曰く。級友 「昨日、○○映画館へ行ったんじゃ」 (18禁の成人映画館です)私たち 「!!!!!!?????」 (小さな地方都市です。 知り合いに見られること危険性が 目茶苦茶、高いです。 ゆえに、高校生がこの映画館へ入るなんて あり得ないし、この時、 級友の誰も、成人映画を観たことは ありません)級友 「売り場で、学生1枚と言うたんじゃ」窓口 「学生証を見せて下さい」級友 「困ったけんど、 高校の学生証でいいですか? と言うたんじゃ」私たち 「いけたんか????!!!!!」級友 「ほれが、いけたんじゃ!」私たち 「見たんか!!!!????」級友 「3本観たけんな!」このあと、1ヶ月間、彼は、クラスの英雄でした。なお、その後、彼に続く勇気ある級友は 1人も出なかったです・・・トホホ、嗚呼。大学生になって、帰省した時、 高校の級友と成人映画へ 行くことにしました。町はずれの小さな成人映画館でした。大学生でしたが、 少し人目を気にしながら 映画館へ入りました。映画館へ入ると、 10歳位の三つ編みの女の子が 切符のモギリをしていました!モギリが終わると、弟、妹たちと ロビーで走りまわっていました。カオスな世界に目が眩みました。この家族経営の映画館は、 この後、すぐに廃業しました。最後に、私の通った小学校と 家までの通学路から 道を隔てた途中には 成人映画館がありました。時々、この映画館の前を通る時は 看板を見ないように、目を伏せて歩きました。私が生まれる前ですが 私の一家が山奥から引越ししてきた頃です。母は、背中に兄を背負い、 4人の子供(私を含めて6人兄弟姉妹)の 手を引いて、この映画館で 「風と共に去りぬ」 を観ました。 (客足が減って、私が小学生の頃には 成人映画館になっていました)母は、「風と共に去りぬ」が大好きでした。 (後年、リバイバル上映を観ています)ヒロインのタラと、自分の人生を 重ねたのかもしれません。