昨日、2週間の猶予を与えても条件が変わらないならアメリカの空爆は避けられないだろうと書いたらトランプ大統領はまだ2日しか経っていないのにイランを空爆してしまいました。

 

イスラエルがイランを空爆を始める時にネタニヤフ首相はこの戦争は先制攻撃(preemptive defence)であり国際法的には合法みたいなことを言っていましたが、ブッシュ(息子)大統領がイラク戦争をする時も全く同じレトリックを使っていました。

 

先制攻撃は仮にイランがイスラエルを何らかの形で攻撃しようとしており、それを防ぐためにイスラエルが先にイランを攻撃することで、それは国際法で認められています。

 

今回のイスラエルのイランに対する一方的な攻撃は予防戦争(preventive defence)と呼ばれて、国際法違反の戦争なのです。

 

そんな非合法の戦争にアメリカが加担したのですから、イランには「自衛の権利」があるというアラグチ外相の発言は全く正しい。

 

あれだけプーチン大統領のウクライナ侵略を批判していたアメリカがイスラエルの侵略に加担するのを見て何がルールに基づく世界秩序だと本当に腹が立ってきました。

 

さて今回のアメリカの空爆に対して我が国の石破首相は「事態を早期に沈静化することが何よりも重要だ。同時にイランの核兵器開発は阻止されなければならない」と言っていますがどうも本質的な問題を理解しているようには見えません。

 

アメリカの情報機関もIAEAもイランが核兵器を開発しているとの認識はしておらず、今回のアメリカのイランに対する要求は一切の核物質の開発を認めない、いわゆるゼロ・エンリッチメントと呼ばれるものです。

 

ところがイランも加盟している核拡散禁止条約の第4条では条約のいかなる規定も、締約国が原子力の研究、開発、生産及び利用を、核兵器その他の爆発装置を製造することなく、平和目的のために行う権利を奪うものではないと規定されています。

 

つまりイスラエルとアメリカは両国とも核兵器を持っているくせにイランに対しては核拡散禁止条約で認められる権利も放棄させようとしたのです。トランプ大統領が語った無条件降伏が適切な言葉でイランが受け入れないのは当然です。

 

石破総理はアメリカを指示するかはまだ決めていないようですが、不法のイラク戦争に賛成した小泉総理と同じような事態になることは避けてほしい。多分無理でしょうが。

 

いずれにせよ私にとって今回のイランに対する空爆はアメリカがならずもの国家(rougue states)の一員になってしまった大変残念な事件でした。

すぐにでもイランに対する空爆にアメリカが加わると思っていたのですが、土壇場になってトランプ大統領が2週間の猶予を与えると発表しました。

 

この発表が行われる直前にトランプ大統領はイランとの戦争に反対するスティーブ・バノンらと会っていたそうです。

 

これで何かが変わるのではないかと思っている人がいるかもしれませんが、私は全然期待していません。

 

というのも相変わらずトランプの条件は民生用の核開発も許されない、ゼロ・エンリッチメントというものだからです。

 

核拡散条約でも民生用の核開発は許されているわけで、ゼロ・エンリッチメントなど認めようなら、それだけで要求は終わることは無く、次は弾道ミサイルの禁止だと次から次へとイランに対する要求がおそってくるだけです。

 

さらにオバマ大統領時代に結ばれたJCPOAにおいてもイランは民生用の核開発は絶対に放棄しないと主張し、それを実現してきました。ここで変な妥協をしたらイランのインテグリティーが疑われる事態になってきます。

 

現在イランはフランスやドイツなどのヨーロッパ諸国と交渉しています。彼らは以前にイランと結ばれていたJCPOAの当事者だったわけで、その時の合意はイランに対して民生用の核開発は許されていたので、それに戻ることができたら合意は可能なのですが、フランスなどもどうもゼロ・エンリッチメントに後退したようでさらに弾道ミサイルも議題にあげると言っているので、それをイランが認めることはあり得ないでしょう。

 

ヨーロッパがアメリカのカウンター・バランスにならず、アメリカの言いなりなのが本当に残念です。これもアメリカの一極主義の弊害なのでしょう。

 

トランプ大統領も問題の根源であるゼロ・エンリッチメントを放棄することもないでしょう。彼はオバマ大統領がうまくやっていた核合意を破棄したのはそれ以上の条件を引き出せると思ったからで、オバマの合意の条件に戻ることは許されないのです。

 

というわけで、アメリカの空爆は2週間伸びただけになるようです。

アメリカのヴァンス副大統領はアメリカがイランとの戦争に向かう中で明らかに歯止めになる人物だと思っていたのですが、彼のXに「トランプ大統領はイランがウランの濃縮を一切認めない立場を明らかにしている」と書いているように彼もイランのウラン濃縮を一切認めない立場を表明しており、以前からイランは医療用のウラン濃縮などは放棄しないと言っているので、このままでは確実にアメリカがイランに対する戦争に参加することになるでしょう。

 

結局トランプ大統領の一期目の時にオバマ大統領が結んだJCPOAを破棄したときに今回のようになるのは当然だったのではないかと思うようになってきた。あの合意でもイランは民生用の核開発は許されており、核兵器に転用できる核物質に対しては厳しい監視の目を光らせて、イランはその合意をきちんと履行していたのである。

 

JCPOAで問題があるとすれば、合意の期限が設定されておりその期限を過ぎるとイランが自由に核開発を行うのではないかと言われていたが、その問題を修正するのに合意を破棄する必要はなかったのである。

 

イラク戦争の時にはアメリカは情報機関にサダム・フセインが核兵器を開発しているという全く出鱈目の報告をでっちあげたのだが、今回トランプ大統領はギャバード国家情報長官がイランは核兵器を開発していないとの報告を「知らない」と言っている。

 

いずれにせよ日本においてトランプ大統領は戦争をしない大統領と歴史家の渡辺惣樹さんなどもおっしゃっていたが、おそらくそれは間違いなのだろう。

 

私はトランプ大統領の歴史的な役割はアメリカ帝国の墓掘り人だと思っており、今回のイラン戦争もその一部であるような気がしています