先日イランで前大統領のライシ氏がヘリコプターの墜落事故で亡くなったために急遽大統領選挙が行われ、決選投票の結果穏健派の元保健省であり元心臓外科医のペゼシュキアン氏が選ばれました。

 

大統領選挙での決選投票はそれまでの選挙と比べて投票率が10%も伸び、そのことがペゼシュキアン氏の当選に結びついたようです。

 

この選挙の結果でイラン国民が戦争では無く、国際協調の意向を持っていることが確認できたわけですが、果たしてその希望は叶うのでしょうか。

 

以前から述べているように現在のイランの国家体制は明治憲法や明治憲法が手本にしたドイツのビスマルク憲法に酷似しており、選挙で選ばれた大統領に軍隊(革命防衛隊)の指揮権が存在しないのです。

 

つまり新たに選挙で選ばれたペゼシュキアン大統領においては、大統領に就任してからも冒険主義的な革命防衛隊がシリアやイラク、レバノンにおいて何をやっているかはさっぱりわからないという危険な事実は変わらないのです。

 

革命防衛隊を指揮することができるのは国家元首であるハネメイ氏だけなのですが、どうも今回のイランの大統領選挙においてはハネメイ氏も革命防衛隊について不信を持っているのではないかと私は想像しています。

 

イランの大統領は選挙で選ばれますが、誰でも自由に立候補できるわけではなく、ガーディアン・カウンシルという機関で大統領候補は選別されます。

 

このガーディアン・カウンシルは宗教指導者であるハネメイ氏が選ぶ6人の宗教家と最高裁判所長官が選ぶ6人の法律家(最高裁判所長官はハネメイ氏が任命するものの選挙で選ばれる議員からなる国会での承認が必要)から構成されるものでハネメイ氏の完全な独裁とは言えないが、彼の意向が十分に反映される仕組みになっています。

 

ではなぜハネメイ氏は穏健派のペゼシュキアン氏の立候補を容認したのでしょうか。

 

前回の大統領選挙はアメリカのトランプ大統領が一方的にイランとの核合意を破棄して再び厳しい経済制裁をかけた後で行われた大統領選挙でした。

 

当然イラン国内において国際協調派は大打撃を受けて、ガーディアン・カウンシルでは国際協調派は事前審査でことごとくはねられて、前大統領のロウハニ氏さえも議員になる資格を失ったのでした。慶應大学の田中教授もイランでは国際協調派が全滅したとテレビで嘆いておられました。そこで当選したのが事故で亡くなった強硬派のライシ氏だったのです。

 

国家元首のハネメイ氏が強硬路線でいくなら大統領候補に穏健派を加える必要は無いのですが、今回の選挙で穏健派の候補者を認めたのは、おそらくは強行路線一本やりで行けばイスラエルやアメリカと戦争になることを危惧したからに違いありません。

 

ライシ氏が選ばれた前回の大統領選挙と今回の大統領選挙の大きな違いは、現在においてイスラエルがガザで戦争を拡大させ、それがレバノンに移っていく可能性が大きくなっており、いつイランが巻き込まれてもおかしくない状況になっているのです。

 

その危険性を重要視していたハネメイ氏は穏健派をそっと大統領候補に容認してみたら、それにうまくイラン国民が応えて見事に大統領に当選させたのですが、果たして本当にそれがうまくいくのかは全くわかりません。