経済対策として1人当たり4万円の税負担を減らす定額減税が2024年6月にスタートします。
日経クロステックによると、制度の実務が明らかになるにつれて、実務関係者からは「複雑すぎる」と事務負担やミスの多発を心配する指摘が上がり始めているようです。
減税は所得税(国税)と住民税(地方税)に分けて実施しますが、年収額や扶養親族の人数によっては減税のタイミングが異なってくるケースがあります。
減税と給付を組み合わせる、年末調整で残った減税分を一括で処理するなど、様々なパターンが出てくるからです。
最も人口が多い給与所得者の世帯では、その実務を担うのは税金を源泉徴収している企業です。
企業などに住民税額を通知している自治体も負担が大きいと見られています。
企業を支援する税理士や、企業に人事給与パッケージソフトなどの業務システムを供給しているIT(情報技術)ベンダーからは「実務が複雑すぎて顧客企業にどう説明するかを思案している」との声が出ているようです。
岸田文雄政権が物価高対策として打ち出した定額減税は、現在のところ2024年度に実施して終わります。
しかしながら、一度限りの措置のために業務システムに対して複雑な改修対応や事務負担を求める政策は賢明とはいえないでしょう。
減税と給付のどちらが政策効果として有効かについては様々な意見もあります。
手続きの簡便さや効果を迅速に国民に行き渡らせる点では給付が優れているとこの記事の筆者は考えているそうです。
給付の方法では、マイナンバーと個人の銀行口座をひも付けた公金受取口座の登録制度が2022年に始まりました。
新型コロナウイルス禍以降、全国民的な施策に初めて活用できる機会でもありました。
2024年2〜3月にかけて財務省や国税庁、総務省が段階的に定額減税の実務情報を発信しています。
ただし、不明な点も残されており、今後も実務の疑問に答える情報が更新されていく見通しです。
2024年3月末から5月には全国で、企業などの実務担当者に向けた説明会も予定しているようです。
定額減税は1人当たり4万円で、このうち3万円を国が徴収する所得税から、1万円を地方の財源である住民税から差し引きます。
後述しますが、所得税と住民税で減税を反映させる方法が異なることに注意が必要です。
扶養親族や配偶者がいる世帯は人数分の減税を受けられます。
例えば「生計を同一にする」配偶者が1人、扶養する親と子供が1人ずついる4人家族ならば減税額は16万円になります。
減税対象になる配偶者は収入などの条件があります。
なお、給与所得2,000万円超や、合計所得1,805万円超などの高所得者は対象外です。
年金受給者や非課税世帯などには減税の代わりに給付金を支払います。
4人家族を例に所得税に関する減税の例を示しています。
給与所得者である世帯主の年間所得税が12万円(月当たり1万円)、住民税が18万円(月当たり1万5,000円)とします。
減税額合計が16万円で、このうち12万円を所得税から、4万円を住民税から差し引きます。
定額減税は2024年6月からの給与・賞与支払いに反映させます。
この例では、世帯主が天引きされる所得税は2024年6月以降1万円からゼロ円へと減り、2024年11月まで続きます。
しかし2024年11月時点で、減税分12万円のうち6万円が残ってしまいます。
そこで2024年12月は年末調整によって、12月の給与支払い後に残った減税額を集計し、居住する自治体から給付金を支払うのです。
給付額の計算は、自治体の事務を簡略化するために1万円単位で切り上げることになっています。
例えば、2024年12月までの給与支払いで2万1,000円の減税分が残った場合は、3万円を給付するのです。
複雑なのは実際には給付が2回になるケースが多いことです。
年収と家族構成から給付が発生する可能性が高い人は、先行して想定される給付額を計算して2024年6月の時点で給付を行うようです。
計算は自治体が担うと見られます。
このように減税と給付とを組み合わせる必要がある納税者は、国の見積もりでは全国で2,000万人ほどが該当するそうです。
ただし、子供が生まれて扶養親族が増えるなど、減税額はずれが生じる可能性があります。
2024年12月の年末調整では実際の減税額を集計して、給付を含めて過不足を調整するのです。
つまり、2024年6月時点で給付を受けたにもかかわらず、状況が変わって減税額が足りなかった人には2回目の給付を行うわけです。
一方、過剰に給付・減税した人には所得税を増やすなど何らかの方法で還付してもらうと見られます。
このように、今回の減税ではかなり複雑な対応が要求されます。
企業は給与明細に減税額や累計額を新たに記載するなど、帳票を改修する必要もあります。
人事給与システムのパッケージソフトを提供するITベンダーは制度対応を進めており、各社ともリリースを間に合わせる構えです。
それでも企業の人事担当が短期間で混乱なく実務に活用するハードルは決して低くありません。
一方、主に自治体が担当する住民税の減税は、まず2024年6月に原則として全国民の住民税をゼロ円にします。
関係者によれば、1カ月限りとはいえ年収や家族構成によらず住民税をゼロにするのは極めて異例だそうです。
関係者の説明を総合すると、国民に減税の効果を実感してもらうほか、2024年6月は給付も含めて制度対応に忙しい自治体の負担をなくし、7月以降の実務準備に充ててもらう狙いがあるそうです。
その上で減税額を反映した地方税の計算や通知は、2024年7月〜2025年5月の11か月間で行います。
通常の年の住民税は、前の年の収入実績から税額を計算し、12等分した金額をその年の6月から翌年5月までの12か月間で天引きしています。
例えば、2024年の税額は2023年の収入を基に計算し、2024年6月〜2025年5月の給与・賞与支払いに反映しているのです。
今回の減税措置は期間を11か月間に短縮して行います。
先述した家族の例でいえば、年間地方税18万円から減税額4万円を引いた14万円を11等分し、月当たりの地方税を1万2,727円とするのです。
天引きされる毎月の住民税が1万5,000円から2,273円減る計算です。
従業員の税金を天引きしている企業にとって、定額減税は様々な追加業務を生じさせる存です。
最初に必要な業務は、2024年6月1日時点での減税対象者を特定し、対象者ごとの減税額、特に減税対象となる扶養親族を把握することです。
このために企業の人事担当は従業員から5月までに「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」を集める必要があるのです。
通年の源泉徴収票に近いですが、配偶者の扱いが異なる点などに注意が必要だそうです。
年末調整では年収1,000万円超の所得者に配偶者控除が認められません。
しかし、今回の定額減税では、その限りではありません。
また、配偶者の収入には給与所得のみの場合で103万円以下などの条件があり、源泉徴収の配偶者控除と扱いも異なります。
こうした今回の制度に合わせた世帯情報を把握する必要があるのです。
給与年収2,000万円超などの高額所得者の扱いも注意が必要です。
定額減税の対象外ですが、実務では2024年6〜11月は年収2,000万円以下の従業員と同じく所得減税の処理を行うことが必要と定められているからです。
年末調整により所得税を増やすことで減税分を相殺するそうです。
見かけ上の減税と増税がある該当者にすれば家計管理が面倒になる仕組みです。
今回は定額減税を巡る複雑怪奇な制度の一部を紹介しています。
複雑な実務は他にも多くあるようです。
自治体に対してはデジタル庁が税計算などのツールを提供して支援する予定など、備える動きはあります。
それでも企業や自治体で実務に混乱が起こらないか、心配は尽きません。
会社等にとっても、会計事務所にとっても、手間がかなり増えるのは明らかです。
それも1年間のみの制度です。
引ききれなかったら、所得税と住民税を合わせて、市町村から1万円単位に切り上げて支給するということですから、市町村の手間も格段に増加することでしょう。
僕には何の意味があるのかよく分かりません。
給付にすればいいのではないかと思います。
マイナンバーカードを普及させたいのであれば、マイナンバーカードの口座を紐づけした人から優先的に支給するということにすれば良いのではないかと以前から感じています。
企業等や会計事務所の手間は増えるわけですから、一人いくらとか税額控除とかをしてくれてもいいのではないかと思いますね。
人手不足が叫ばれている中、どうして手間がかかることをするんですかね?
複雑怪奇な「4万円定額減税」で企業の給与事務に募る不安について、あなたはどう思われましたか?