東京地裁で総則6項を巡る事件で国が敗訴! | 体脂肪率4.4%の公認会計士 國村 年のブログ

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税務通信によると、東京地方裁判所(民事第51部:岡田幸人裁判長)は、先日、非上場株式の相続税評価に係る「総則6項」を巡る事件で、総則6項の適用を認めず、国の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消しました。

裁判で総則6項の適用が認められなかった事件は初めてとみられます。

不動産に係る総則6項の適用を巡る令和4年の最高裁判決以降、初めての総則6項に係る判決で、その適用解釈を示しています。

2024年1月24日現在、国は控訴していません。

<事件の概要>
本件被相続人の子である法定相続人の原告AとBが、その相続で取得した非上場株式(本件被相続人が代表取締役の会社(X社)の株式)について、X社は「大会社」(評基通178)に該当するため、評価通達に基づき、「類似業種比準価額」(評基通180)によって1株当たり約8千円(本件通達評価額)と評価して相続税の申告をしました。

しかしながら、国側は、評価通達の定めにより評価することが著しく不適当として、国税庁長官指示により評価する総則6項に基づき、類似業種比準価額とは異なる株式価値の算定金額に基づき1株当たり約8万円(本件算定報告額)と評価したうえで、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件各更正処分等)を行ったのです。

本件では、「本件相続株式を総則6項により評価することの適否」が争点となっています。

<裁判所の判断>
●通達評価額と算定報告額の大きなかい離のみで公平に反するとはいえない
東京地裁はまず、令和4年の最高裁判決に基づき、本件通達評価額と本件算定報告額との間に大きなかい離があることのみをもって直ちに、評価通達の定めによる画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるとはいえないとしています。
そのうえで、「本件では類似業種比準価額による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情(特段の事情)」があるか否かを検討するとしました。

●X社株式の売却は租税回避目的と認めず
最高裁判決は、実質的には、「特段の事情」がある場合に総則6項を適用することを肯定しているものと解されると指摘しました。

ところが、特段の事情としてどのようなものが挙げられるか一般論として明示はしておらず、被相続人側の租税回避目的による租税回避行為がない場合について直接判示したものとは解されないとしました。

もっとも、租税回避行為をしなかった他の納税者との不均衡、租税負担の公平に言及している点に鑑みると、租税回避行為をしたことによって納税者が不当ないし不公平な利得を得ている点を問題にしていることがうかがえるとしています。
本件では、最高裁判決の事案とは異なり、本件被相続人及び本件相続人らが相続税の租税回避の目的でX社株式の売却を行ったとは認められないと判断しました。

そのため、本件更正処分等の適否は、本件相続開始日以前に本件通達評価額を大きく超える金額での売却予定があったX社株式について、実際に本件相続開始日直後に当該金額で予定どおり売却ができ、その代金を本件相続人らが得たことをもって、この事実を評価しなければ、「他の納税者と原告らとの間に看過しがたい不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反する」(最高裁判決)といえるかどうかによって判断すべきとしました。

●多額の借金で不動産購入などの租税回避行為なければ不均衡とはいえず
相続財産の一部を売却して現金化することは稀有な事情ではなく、評価通達の定めに基づく評価額よりも相当高額で現金化することができたとしても、その売却やそれに向けて交渉すること自体は何ら不当ないし不公平なことではないとしています。
相続税を軽減するために、被相続人の生前に多額の借金をした上であらかじめ不動産などを購入して、評価通達の定める方法における現金と不動産など他の財産に係る評価額の差異を利用する相続税の回避行為をしているような場合でない限り、他の納税者と比較してその租税負担に看過しがたい不均衡があるとまでいうことは困難と判断しました。

<本件の主な事実関係>
①平成26年5月29日、本件被相続人は、Y社との間で、X社株式をY社に対して売却・資本提携等を前提に、X社株式の譲渡に向けた協議を行うことの基本合意(本件基本合意)を締結した。本件被相続人は、X社株式の全部を取りまとめY社に譲渡するものとして、譲渡価格は1株当たり約10万5千円(譲渡予定価格)とされた。
②6月11日、本件被相続人は死亡。同18日、X社の取締役会により、本件被相続人の妻である法定相続人のCが代表取締役となり、X社株式の売却プロセスを進めることになった。
③7月8日、遺産分割協議が行われ、X社株式をA、B、C(本件相続人ら)がそれぞれ一定数を取得(本件相続株式)することを合意。原告らが保有するX社株式をそれぞれ譲渡予定価格と同じ1株当たり約10万5千円でCに譲渡する契約を締結した。
④7月14日、CがY社にX社の全株式を1株当たり約10万5千円(本件売却価格)の譲渡価格とする契約に基づき、譲渡した。
⑤平成27年2月27日、本件相続人らは類似業種比準価額により本件相続株式を1株当たり約8千円と評価するなどして、相続税を申告した。

<X社株式の1株当たりの各価額>
・Y社への譲渡予定価格(①)
・原告からCへの譲渡価格(③)
・CからY社への本件売却価格(④)

  ①③④ 1株当たり約10万5千円

・原告側の類似業種比準価額による本件通達評価額(⑤)

  ⑤1株当たり約8千円

・国側の本件算定報告額

  1株当たり約8万円
※①③④⑤は上記「本件の主な事実関係」の番号を指す

 

●相続開始前のX社株式の譲渡価格の合意は特段の事情とはいえない
本件相続開始日直後に評価通達の定める方法による評価額を大幅に上回る高値で本件相続株式を売却できたという事情に加え、本件相続開始日以前から本件被相続人がX社株式の売却の交渉をしており、譲渡予定価格まで基本合意していた事情があるとしました。

しかしながら、この場合でも、最終的に本件相続株式の売却が成立し、本件相続人らが本件通達評価額を大幅に上回る代金を現に取得したという事情がなければ、およそ本件算定報告額をもって課税しなければ他の納税者との間に看過しがたい不均衡が生じるとはいえないとしています。
こうした点から、本件相続の開始前からX社株式の譲渡予定価格が事実上合意されていたという事情をもって、特段の事情(の一部)ということはできないとしました。

●相続開始前に税額を軽減させる積極的行為をしていた程度の事情が必要
本件のように、相続財産となるべき株式売却に向けた交渉が相続開始前から進行しており、相続開始後において実際に相続開始前に合意されていた価格で売却することができ、かつ、当該価格が評価通達の定める方法による評価額を著しく超えていたという事実をもってしても、直ちに納税者側に不当ないし不公平な利得があると評価することは相当でないと指摘しています。
総則6項を納税者の不利に適用するには、一定の納税者側の事情が必要と解すべきとして、例えば、【参考】のような事情が特段の事情として必要なものと解されるとしました。

●本件の総則6項の適用は最高裁判決の判断枠組みに照らして違法
本件被相続人が本件相続開始日以前に行った行為は、本件基本合意等にとどまり、これらの行為は、本件相続開始日以降に行われた本件相続株式の売却の結果を含めて評価したとしても、それがなかった場合と比べて相続税の金額を軽減する効果を持つものではないと指摘しています。
本件において特段の事情はないものというほかなく、本件相続株式の価額は本件通達評価額によって評価すべきであり、総則6項を適用し本件算定報告額を用いて本件相続株式を評価した本件各更正処分等は、最高裁判決の判断枠組みに照らして、平等原則の観点から違法としました。
そのため、本件相続株式の価額は、本件通達評価額によって定められるべきと判断しています。

【参考】本件で特段の事情として必要と解されると例示した内容
被相続人の生前に実質的に売却の合意が整っており、売却手続を完了することができたにもかかわらず、相続税の負担を回避する目的で、他に合理的理由もなく、殊更に売却手続を相続開始後まで遅らせたり、売却時期を被相続人の死後に設定しておいたりした場合など、最高裁判決の事例のように、納税者側が、それがなかった場合と比較して相続税額が相当程度軽減される効果を持つ多額の借入れやそれによる不動産等の購入といった積極的な行為を相続開始前にしていたという程度の事情


<ポイント>
令和4年の最高裁判決後に、総則6項の適否がどのように判断されるか注目されていました。
本件では、X社株式の原告側の通達評価額と国側の算定価額が約10倍と大きくかい離していますが、総則6項の対象と解される「特段の事情」として相続開始前に税軽減効果を持つ積極的な行為をしていたという程度の事情が必要であるとし(【参考】)、X社株式の譲渡の合意に至っているという事情は特段の事情に当たらないと判断しました。

【参考】では、本件において特段の事情に当たるような状況も例示しています。

 

近年、課税当局が安易に総則6項を発動している事案が増えてきていますので、素晴らしい判決のように思います。

総則6項は、『伝家の宝刀』と巷では呼ばれており、何がO.K.で、何がN.G.か分からない中で、課税当局がN.G.と言ってくる可能性があるというものであり、安易にこれが発動されると、納税者も税理士も安心して申告ができないのではないかと思います。

もっと、総則6項を発動する基準を明確にしてほしいですね。

 

東京地裁で総則6項を巡る事件で国が敗訴したことについて、あなたはどう思われましたか?