日経ビジネスによると、大和ハウス工業のPBRが低い要因として、成長期待の低さが挙げられます。
企業価値の向上に苦しむ中、中期経営計画の進捗を数値で示すと、株価が動いたのです。
「PBRが1倍を切っている状況につきましては、忸怩(じくじ)たる思いです」と、大和ハウス工業は、2023年6月29日に公開した有価証券報告書に、自らの経営を恥じ、悔しさをにじませた一文を記しました。
2022年3月末時点のPBR(株価純資産倍率)は0.9倍と、1倍を下回りました。
冒頭は、芳井敬一社長が中期経営計画の初年度を振り返り、PBR1倍割れの状況について語った言葉です。
2023年3月、東京証券取引所が上場企業の経営者に「PBR1倍超」を要請しました。
企業は今回、この要請を受けて初めての有価証券報告書の提出となりました。
PBR1倍が、経営者の評価基準として注目されているのです。
大和ハウス工業は、2022年5月に2022年度から2026年度をターゲットとする第7次中計を策定し、売上高5兆5,000億円、営業利益5,000億円という目標の達成に向けて走っています。
大和ハウス工業のPBRは、長い間1倍を超えて推移していました。
しかしながら、2017年度をピークに下落傾向に転じ、2022年度に1倍を割ったのです。
この原因について大和ハウス工業の財務部長でIR室長の山田裕次氏は、「経営戦略が将来の収益につながるということが市場に十分に伝わっておらず、中計で掲げた目標の実現が信じられていない可能性がある」と分析しています。
PBRは、資本の効率性を示すROE(自己資本利益率)と、投資家の期待を示すPER(株価収益率)の掛け算で示されます。
それぞれを見てみましょう。
大和ハウス工業の2022年度末のROEは14.3%でした。
新型コロナウイルス感染症の影響からの回復が、利益率の改善につながりました。
ウクライナ戦争の開始後に原材料や労務費の高騰に見舞われましたが、販売価格への転嫁やグループでの集中購買などを進め、こうした施策が高いROEにつながりました。
一方のPERは、6.6倍でした。
東証プライム市場に上場する建設業83社の2023年8月時点の平均PERは14.7倍で、市場平均と比べると大きく見劣りします。
PERは、株価が1株当たりの当期純利益の何倍かを表しており、企業の成長期待を表します。
つまり、この成長期待の低さがPERの低さにつながっており、それがPBR1倍割れの要因となっているのです。
内需が中心となる住宅・建設業の先行きは、決して明るいとは言えません。
国内の人口減少は続き、需要の先細りが予想されるからです。
特に、大和ハウス工業の主力である戸建住宅事業が苦戦しています。
2013年度に1万戸を超えていた戸建・分譲住宅の販売戸数は、2022年度は5,762戸に落ち込んでいます。
比較的安い価格で分譲住宅を大量に販売する飯田グループホールディングスやオープンハウスグループなどの競合との争いが激化しており、苦戦を強いられています。
そこで大和ハウス工業は、事業ポートフォリオの変革を進めています。
戸建住宅は、人口増加が進む海外で伸ばします。
国内は、物流施設やデータセンターなど、商業施設事業や事業施設事業に力を入れます。
これらは利益率が高く、社会課題の解決と長期的な需要増が見込める事業と位置付けて、経営資源を集中させます。
その一方で、2022年12月にはリゾートホテル事業の売却を決めました。
ただし、大和ハウス工業に対する投資家の目は厳しいようです。
大和ハウス工業は2019年に、中国の合弁会社による不正会計、国の認定を取得していない物件の販売、工事監督資格の不正取得などの不祥事が続きました。
その不信感が拭い切れていない可能性もあり、中計の発表後も株価の低迷が続いていました。
こうした中、これまで3,000~3,500円付近で推移していた株価が、2023年5月に入った頃から上昇傾向に転じてきました。
2023年9月19日時点の株価は4,200円を超えました。
日経会社情報の予想PERは11倍に上昇し、PBRは1.2倍となって1倍を超えたのです。
要因の1つが、大和ハウス工業が2023年5月15日の経営説明会で示した中計の進捗です。
2022年度の売上高は4兆9,081億円、営業利益は4,653億円と、いずれも過去最高を記録しました。
2021年度に261億円だった海外事業の営業利益は、2022年度に529億円に倍増し、2026年度に1,000億円とする目標の達成に現実味が出てきました。
商業施設と事業施設の売上高は共に1兆円を超えて戸建住宅を抜き、大和ハウス工業の主力事業になってきました。
さらに、より高い利益率を確保するため、投資の判断基準となる内部収益率(IRR)を従来の8.5%から10%に引き上げました。
CO2排出をコストとみなすインターナルカーボンプライシング(社内炭素価格)も導入し、リスクへの備えもアピールします。
国内は、競争が激化している戸建住宅から、利益率の高い商業施設や事業施設の建築・運用に力を入れます。
PBRの向上には自社株買いや増配などの株主還元策がありますが、やはり王道は、成長の実現可能性を実績で示していくことです。
それがさらに成長期待を生み出す好循環につながる。ESGの取り組みの成果も、実績で示していく必要があります。
高松では、最近は、商業施設はほとんど大和ハウス工業が建てていますし、過去最高利益とか出しているのに、株価はイマイチだと思っていましたが、こういうことだったんですね。
やはり、きちんと投資家や株主に説明を行うことが必要ということでしょう。
大和ハウスがPBR1倍割れを反省し芳井社長が有報に「忸怩たる思い」と記載したことについて、どう思われましたか?