新潮流
近年世界的にお手軽な価格帯の機械式時計メーカーが増えています。彼らの際立つ個性は何れも非常に魅力的なんです。
Model 2 / ANORDAIN
Ref:-
ケース径:36.0mmケース厚:11.0mm
重量:-
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:ステンレス・スティール
ベルト素材:コードバン
バックル:ピンバックル
防水性:5気圧(50m)
価格:£950.- (ex VAT, 約13万円)
anOrdainはスコットランドのグラスゴーで創業したウォッチ・ブランド。工業デザイナーであったルイス・ヒースが複数のクリエイターと共に立ち上げた新興メーカーです。
2018年にファースト・クリエイションとなるモデル1を発表し、続けて2019年にモデル2を市場に投入しました。
このモデル2がすこぶる秀作だと私は思うのです。
anOrdain の作品の最大の特徴はグランフー・エナメル文字盤です。以前にも破格のエナメル・ダイアルを提供するランディ・ブルー(#69)という気鋭のブランドを紹介しましたが、トータルのパッケージングに関しては私はanOrdain を推します。
エナメルの質感は実物を見てみないと何とも言えないのですが、画像を見る限りでは平滑な表面を持つダイアルに仕上がっています。
飛び石のアラビアン・インデックスはポップなフォントで、針も独特の形状です。この辺りはデザイナーズ・ブランドならではのセンスです。
ポリッシュ仕上げのケースに角の取れた柔らかいRを描くラグを合わせたシルエットも、トラディショナルな時計では見られないものです。
リューズガードを持たせるなど、カジュアルな仕立てである点も、この時計のキャラクターです。
2針というフォーマルな構成でありながら、デザインに関してはカジュアルで若々しいセンスに溢れていて、既存の機械式時計とは違う新鮮さが目を惹きますね。
型番:SELLITA SW 210-1
ベース:ETA 2801-2
巻上方式:手巻き
直径:25.6mm
厚さ:3.35mm
振動:28,800vph
石数:19石
機能:2針
精度:-
PR:42時間
搭載するのは手巻きの薄型キャリバーSW 210-1。セリタが供給するETA 2801-2のジェネリック版です。
エタクロン緩急装置を持ち、8振動/秒で42時間パワーリザーブという旧世代型のスペックですが、シンプルな機械なのでメンテナンスに困る事はないでしょう。
今のセリタであれば品質も信頼に値します。
このモデル2はソリッドバックなのでその姿を鑑賞することはできませんが、機械に関しては価格に対しても適切なエボーシュを選択していると言えるでしょう。
カラーやストラップのバリエーションも豊富で、自分らしさを大切にする若者を意識したラインナップです。
豊富なカラーバリエーションも全てエナメルダイアルで提供されます。決して生産効率の良いやり方ではないですが、選ぶ楽しさを提供するというブランドの価値観が窺えます。
価格は税抜13万円程度です。恐らく国内に代理店は存在しないと思いますが、Web経由で日本からの注文も出来そうです。
この価格は先のランディブルーをも凌ぐ抵価格で、エナメル文字盤としてはセイコー・プレザージュ(#21)並みの良心価格です。
このモデル2はサイズも素晴らしいです。36 x 11mm というのは文句のつけようがありません。
ムーブメントの薄さを考えれば、ケース厚は9mmぐらいに出来たのでは?と思うのですが、エナメルダイアルですから、ある程度厚さが必要にはなるでしょう。
画像を見ても分かる通り、ケース面の歪みはかなりあります。より高級な価格帯になると水面の様な揺らぎはなくなり、平滑な鏡面に近付きます。
またケースのエッジも相当甘いです。ただそれが敢えてやっている様にも見える柔らかなデザインが秀逸です。
パッケージングとしては文字盤を除けばフィールドウォッチのような構成ですが、エナメルを使う事で独自のキャラクターを獲得しています。
エナメル文字盤の入門機としては面白い存在だと思います。今後anOrdain がどのような成長曲線を描くのか楽しみですね。
Lander II / FARER
Ref:-
ケース径:39.5mm
ケース厚:10.0mm
重量:-
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:サファイア・クリスタル
ベルト素材:各種(レザー、ラバー等)
バックル:ピンバックル
防水性:10気圧(100m)
価格:$1,450.- (約16万円)
Farer は2015年創業の英国ブランドです。英国らしい洗練されたスタイリッシュな作風が特徴の新興ブランドですが、彼等の時計のクオリティは中々良さげです。
今回取り上げるLander Ⅱ はGMTウォッチですが、そのデザイン性の高さはファッション・ウォッチの様。
有名ブランドの機械式時計ってどうしてもパテックやロレックスの様な保守的なデザインか、リシャールミルやジェイコブようにエキセントリック(正直カッコ悪い)になってしまいがちです。
ファッショニスタが手に取りそうな機械式時計って本当に少ないと思うのですが、Farer の時計はその点かなりお洒落です。
Lander Ⅱ に関して言えばそのカラーリングのセンスが違います。
コバルトブルーのような碧に白のアラビアン・インデックス、オレンジの秒針に、赤のGMT針という色彩感覚は、オッサンを主な顧客とする既存メーカーからは逆立ちしても出てきません。
ケースはホーン型ラグを合わせたオーソドックスなシルエットですが、ベゼルをブロンズ色にするなど、芸細です。
ストラップは複数のカラー/素材から選択可能ですが、いずれも中間色系で、センスの良さが滲み出ています。
若々しく垢抜けたデザインの時計は数万円のクオーツ時計なら幾らでもありますが、10万円超の機械式になると天然記念物並みに希少です。
既存大手ブランドではノモスやユンハンス等のバウハウス系くらいでしょう。
型番:ETA 2893-2 (top grade)
ベース:ETA 2892-A2
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm
厚さ:4.10mm
振動:28,800vph
石数:21石
機能:センター3針GMT
精度:日差 -8/+8秒
PR:42時間
エタブリスールであるFarer はLander ⅡではETA 2893-2を搭載しています。
2893-2は汎用3針の上位機種である2892-A2をベースとする機械である上に、クロノメーター級の精度が出せるトップグレードを採用しています。
そしてこれを日差 -8/+8秒以内に調整するという念の入れようであり、並みのエタブリスールとは機械や精度に対する姿勢が違います。
エントリー価格帯とお洒落な見た目だけのナンパな機械式時計メーカーではないんだ、という意志が感じられて好感です。
SSケースにサファイア風防、夜光たっぷりに10気圧防水なので実用性は高いです。加えて精度も良好となれば、その使い勝手の良さはかなりのモノ。
39.5 x 10.0mm というサイズ感も良いです。直径は38mm以下なら言うことありませんでしたが、これでも装着感は充分良好でしょう。
このパッケージングで約16万円というのは、それなりにバリューが高いといえます。
セイコー・プレザージュと同等のレンジですが、ムーブメントの性能はやや上ですし、(好みの問題ですが)デザイン性は遥かに上です。
気になるのは細部の仕上げで、ポップなカラーリングの秒針とGMT針の塗りはちょっと甘い様な気もします。それでも価格以上の満足度はあるように見受けられますが。
このコストパフォーマンスは、通常の流通経路を経ていない事に起因していると思われます。
つまり実店舗を持つ販売代理店などを介さない、Web経由の直売によって中間コストを削減しているという事です。
こうした手法は近年の新興ブランドでは普通に見られますが、代理店が担うクオリティコントロールを経ないうえに試着できないという欠点もあります。
Farer はこの問題に30日間の返品保証と5年間の動作保証期間を設ける事で対応しようとしています。私はこれは納得感のある対応だと思います。
このLander Ⅱ 以外にも魅力的なデザインのモデルを複数持つFarer は個人的にかなり注目しているというか一本買おうかなと検討しているブランドです。
でも他にもそんなブランドが結構あるんですよね。また機会をみてそうした新鋭をご紹介出来たらと思います。