我が家が霊道だった話 | 埴生の宿

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 故郷にいる中学時代からの友達Mは、数年前に最愛の旦那さんを突然、病気で亡くした。その辺りからMはスピリチュアルなことに関して興味が向くようになり、心霊的なことを信じている私に、亡き旦那さんが関わる不思議なエピソードをLINEや電話で話してくるようになった。そんな彼女の職場に半年ぐらい前、新しく同年代ぐらいの女性が入社してきた。その方は霊感が非常に強い方だそうで友達も、その女性Oさんと知り合ってから影響されてきた様子で以来、M自身の霊力が強まっているようだった。


 話は変わるが、私は築40年以上、11階建ての古いワンルームマンションの2階に13年、住んでいる。そこで一昨年の秋、私の真上に住んでいた独り暮らしの高齢男性が亡くなった。水道が24時間出っ放しなのを管理会社の人が気づき、鍵が掛かっているドアの郵便受けから呼びかけても返事がなく、警察や消防車が来てハシゴを掛けてベランダから突入、遺体を発見したのだった。たまたま夜勤明けで帰って来ていた私は、その現場に遭遇し、近隣から野次馬も集まって結構な騒ぎだった。ただ、どういう亡くなり方をしたのか詳細は不明で(現場にいた消防署や警察の人達は自分達の口からは言えない決まりになっている、と言っていたし)てっきり孤独死だと思っていた私が、後に近所の鍼灸院に行った折、そこの店主からアレは自殺だったらしい…と、聞いた時は結構、衝撃的だった。

 それから不思議なことが起こり始めた。真夜中に全く火の気のない窓を締め切っている室内で焦げ臭い臭いが漂ってきたり、何故か室内で男性のイビキが聞こえたり、天井の辺り、目の端にやたら黒い塊のようなものが見えたり。勿論、私には彼氏は居ないし、煙草も吸わない。個人主義の私は友達を部屋に呼ぶことも一切ない。私は元々、若い頃は多少なりとも霊感があったものの加齢と共に、そういうチカラも薄れてきた…と、思っていた。だから気のせいだと、思うようにしていた。ただ亡くなった母方の祖母が霊感が非常に強い人で、若い頃は巫女のようなこともしていたらしく、母や妹にも結構、強い霊感がある。

 ところで現在、就活中の私は宵っ張りで真夜中まで起きていることが多く、そろそろ寝ようかなという時には部屋の灯りは消して(真っ暗は怖いので)外からくるコンビニの光だけ入るよう、ベランダ側の分厚いカーテンは半分だけ開けて、眠くなるまでスマホをいじってから寝る癖があった。とはいえレースカーテン越しに見える暗いベランダに時々、何故か人の気配というか、嫌な感じがした。もしかしたら真夜中に男が侵入してくるのではないか…という想像力というか…何かしら漠然とした恐怖がありつつ、それでもカーテンを開けて寝ていた。理由は昼近くになってもカーテンが閉まっていることに、近隣に対する羞恥心があったからだった。

 一昨日の土曜日、故郷で、私から友達Mを介して妹がOさんと会う機会があった。妹は今、義両親と夫との4人暮らしだが、10年前に住んでいたコーポから引っ越した時に大事な写真を失くし、その在処をOさんに相談したい、というのが事の発端だった。

 それよりも前、昨年末に私の部屋で時折、真夜中に物が焦げる臭いがしていたのを、やはり友達Mを介してOさんに相談したら漏電の疑いがありそうだと言われた。念の為に管理会社の方に来て頂き、室内をみて頂いたところ、果たしてバスルームの裸電灯が剥き出しのまま使われていることを指摘された。本来ならば電灯カバーが付いて使用されるものが、この部屋のバスルームには入居当初からカバーなど無く、私も知らずに裸電球のまま使用していたのだ。危うく漏電するところでしたよ、と管理会社の方がカバーを持ってきて直してくれて、一連の漏電疑惑は完結した。

 さて、話が交錯して恐縮だが、妹とOさんのカウンセリング?の最中、私の話題も出たらしい。これ以降は友達Mと私がLINE電話で話した内容である。Mは私の室内で聞こえる謎のイビキの話をしたことを、Oさんに相談してくれたらしい。

 すると、Oさん曰く

 ベランダに居る、と。

 高齢男性がベランダから身を乗り出すように室内を覗いているらしい。しかも友達Mにも、その瞬間に傍に居たOさんの思念が伝わり、その姿かたちの映像がハッキリ視えたそうだ。それはメガネを掛けていて頭は薄く、緑色のカーディガンを羽織っていた、と。私は直感的に、亡くなった階上の老人だと思った。私は遠くから、一度だけ向かいのコンビニからベランダに立っていた生前の老人を見たことがあるが、多分そうだと直感的にそう思った。

 ただ、この話を聞いた前日、金曜日の真夜中3時頃、私は何か酷く嫌な気配を感じて、灯りを消した真っ暗な部屋の中で、レースカーテン越しに気配を窺って10秒ほど、ベランダを凝視していたことを思い出した。誰かが居るような気配を感じたのだ。もしかしたら目が合っていたかもしれない…と思い出すと、全身が総毛立った。イビキの原因も、その老人だったらしく、LINE電話を切って直ぐ私はベランダに粗塩を撒いた。ちなみに亡き祖母が、その老人がこれ以上、部屋の中に入らないようにシャットアウトして私を護ってくれていたらしい。とはいえ私は夜、怖すぎて全く眠れなかった。

 朝になり(昨日の話)友達Mに、このままでは怖くて寝られない、どうしたらいいだろう、とLINEを送った。すると改めてOさんに相談してみるから室内の写真を送ってよと言われ、彼女と話しながら室内をiPhoneでアチコチ撮影して直ぐに送信した。

 昼になり、彼女から電話が掛かってきた。結果、恐ろしいことを聞かされる。アンタの住んでいる、そのマンションそのものが霊道であり、幽霊マンションだと。『多分さ、ベランダ側に花を飾ったり育てたりしても、直ぐに枯れたりしてない?ベランダ側から色々入って来るみたいよ、そこに住んでる部屋、全部』…確かに入居して数年経った頃に花屋の店先で気に入って買った盆栽が、ベランダに置いて数日で直ぐに枯れたことを思い出した。

 実はこのマンションは不思議な作りになっていて、横は4部屋並びの筈が、2階から11階まで両端にしか人が住めない。本来なら真ん中2部屋も使える筈が建物が出来上がった際に『法律上、人が住んではいけない、無視出来ないミスが露見した』為に、ドアノブは外され、郵便受けは外から溶接されてしまった。なかなか異様な光景ではある。外観から見てもそうは見えないが、2階から11階までは床が無く(1階は店舗)吹き抜けになっている…と、入居時に不動産屋から聞いていた。そういえば物件の内覧の際、私は多少薄暗いマンションだなぁと思ったけれど、水道代が家賃込みという誘惑には勝てなかったのだ。ちなみに、くだんの老人は私が住み始めて5年後ぐらいに空き部屋だった上階に入居してきたが(私が直ぐに枯らした盆栽を買った数年後)生活音が酷く(DIYでもしていたのか、ノコギリや金槌の音なんかが頻繁にしていて)良く私は苦情を入れた。今、その部屋には(老人が亡くなって半年後)シンママが子供2人と住んでいる。

 さて、霊道である。
私自身は視えないし、命の危機に関わるような体験はなかったものの、そう言われて住み続けるのは抵抗があり、さりとて引っ越す経済的な余裕もない。するとOさんがリモートで霊道を塞げる、というので仰天した。力のある人は、そんなことまで出来るのか…。但し、これ以上は悪いけど、お金を貰うことになりそうだけど大丈夫か?と。恐る恐る幾らなのか尋ねると三千円だという。随分安い。余り高価な請求をすると、売名行為に繋がって能力を失う危険性がある、みたいな話を私もどこかで聞いたことがある。私は承諾し、直ぐに振り込みに行かなきゃならないな…と、同時に数日は我慢しなければならないことを覚悟した。

 夕方になり、友達Mから『もう(霊道は)塞いだ、って〜』と、LINEが来た。エッ?まだ、お金払ってないのに?…多分、それは友達Mと古くからの付き合いだという信用からくるものなのかもしれない。確かに室内の空気が軽くなったと感じた。夜は外音がうるさくて耳栓をして寝ていたけれど、その耳栓の中でもザワザワ、ザワザワと内容が全く聞こえない人の話し声(まるでテレビやラジオの音みたいな感じ)が、するのも不思議だったが、それもなくなった。もう目の端に黒い塊も見えない。

 『もう大丈夫だって。部屋の空気が明るくなったんじゃない?』…全くその通り。しかし我が家の霊道を塞いでも、他の住人のところは出入り自由なんだよね?と、聞くとMは『まぁ、被害がなかったらいいと思うしかないよ。信じる信じないもあるし、感じる感じないの違いもあるしね』と、言われて納得した。スピリチュアルなことを鼻で嗤うような人には私の体験など、とんでもなくバカバカしい話なのかもしれない。M自身は、Oさんという力のある方と出会わせてくれたのも亡くなった夫の采配なのかもしれないわ〜、と言っている。誰でもが信じない世界の存在を、誰よりも知っている人間の近くに居るということは心強いことなんだと思う。

 私は、念の為に暫くはベランダに撒き塩をしようと思う。暗かった私の気持ちも、それこそ憑き物が取れたように明るくなって幸いである。






※注⚠️  これは、あくまでも私の体験談であり、Oさんを紹介して欲しいとか、場所の特定も一切お伝え出来ませんので、予めご了承ください。