傾奇者の代表ともいわれる慶次の話です。
慶次は当時の城主”前田利久”の養子として前田家へ来ました。
本来であれば、利久の後継は慶次であったのですが、
前田家の主君”織田信長”の命により、
家督は”前田利家”へと継がれることになってしまいました。
この後、利久・慶次親子は城を出て十数年別の場所で過ごしたのですが、
利家が金沢城主になった頃前田家へ戻っています。
しかし、利久がいるからこそ前田家にいるだけであって、
慶次にとってはどちらでもよかったのではないでしょうか。
利久が亡くなってから後、慶次は前田家を出奔しています。
その出奔する直前ですが、慶次は利家を招き茶を馳走しました。
傾奇者で有名な慶次ですから、利家にも迷惑をかけたでしょう。
利家も”少しは改心したか”という思いで慶次の屋敷へ赴いたようです。
しかし、屋敷は中はずいぶんと寒い!
それもそのはず冬にもかかわらず利家が来る直前まで、
慶次は部屋の障子を開け冷やしていたのです。
茶を馳走した後、温かい風呂を勧めました。
当時は温かい風呂も客へのもてなしの一つでした。
冷え切った体の利家は有無を言わさず、慶次の勧めを受け、
風呂へ入ることにしました。事前に慶次が、
「熱からず、冷たからず、春の陽気のような湯加減です。」
と湯加減を確認すると、利家は飛び込んで湯に入ったのです。
しかし、それは上が熱いだけで中はキンキンに冷えた水風呂でした。
「慶次!」
と利家が叫んだ時には時遅く、
慶次は利家の愛馬”松風”に跨り悠々と前田家を出奔してしまいました。
なんとも傾奇者の慶次らしいエピソードです。