ラブアンドピース16(U) | Fragment

Fragment

ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

言いたいことを言ってしまえた道徳の時間以降、互いに流れるものが少し変わったような気がした。
内側できちんと信頼できるから、落ち着いた目で互いを見られるとういうか、ね。

チャンミンは教育者ではない。
けれど、子供たちに伝えるべきことの本質を捉えている人なんだと思ったんだ。
下手な同業者よりずっと素質とセンスがあると思った。
偏った言葉を使わない人だ。
その場で必要な言葉と態度を、きちんと選ぶことができる人だ。
大人にも、子供にも。
それってなかなか出来るとこじゃないと思うんだ。

けれど、チャンミンの中には激しい程の個性があった。
人を愛するという点で、とても熱く、とても深く、とても強くなれる人だった。

愛した人に、自分が一番愛されていると、身体中で感じたい人だった。
そしていつだって、愛した人へ心を送り続けることができる人だった。

俺とチャンミンの熱すぎる個性の相性がよかったようで、俺は今、チャンミンとの将来を真っ直ぐに考えなくてはいけないと思っている。

愛を持って。





『あのね、』

『うん、』

俺の部屋で遅い夕飯をとっている時だった。
チャンミンが考えながら口を開いた。
焼いてくれた肉を箸でつつきながらまた黙る。

『…、学校辞めるかも。』

『は?』

『うん、僕は支援員の担当者として本来の仕事に戻って、学校には支援員が入ることになるかなって。』

『、』

そう言えば、前の支援員には突然辞められて、後任者がいなかったから自分が配属されたと言っていたっけ。
来るべき時が来たのか。

嫌だな。

運動会の準備もいよいよで、疲労が思考をネガティブにさせていく。

『元々そういう流れだったんだけど、やっぱりそういうことになるかなって話が出て来て。』

『うん。』

ふたりの箸を持つ手が、いよいよ止まる。
少しの間沈黙が流れる。
それほどに俺は静かな衝撃を感じていた。
チャンミンと出会って数ヶ月も経っていない。
春が来て夏に向けているところでしかない。
それなのに、もうチャンミンがあの学校の図書室から居なくなる。
これからチャンミンがどんな風に子供たちと関係を深めていくのだろうって楽しみにしていたところだったのだが。

嫌だな。

半端なヤツが後任で来ても、嬉しくない。
今まで大して支援員を意識したことなんてなかったくせに。

あの道徳の時間だって図書室にチャンミンがいてくれたから子供たちに伝わったものがあったのだ。
あれはチャンミンでなければ出来なかった授業だった。

チャンミンは教育者ではない。
指導をする権限はない。
してはいけない。
そういう弱い立場の人間でもある。
持っている本質は、それ以上のものなのに。

胸一杯にモヤモヤした何かが広がった。


『…、ユノと離れるのが、なんだか怖くて。』

『え?』

チャンミンはまた食べるでもない肉をつつき出した。

『僕が学校の中で4時間働いたところで、あなたのそばにいられる瞬間なんてほとんどなかったりもするけど、』

『うん、』

そうなんだ。
見かけることもない日だってあるんだ。
だからそういう時とこそ、俺たちはどちらかの部屋で会うことにしている。
自然と出来た流れだった。

『それでも、僕とあなたが同じ場所にいるというだけで、同じ景色を見ているというだけで、色んな力になっていたの。』

それは俺だってそうだ。
チャンミンの力を借りて、チャンミンの仕事で俺の仕事を助けて貰いたいと思う。
これからもずっと。
もっともっと、中身が濃いものを子供たちに与えてやれる時間を作りたい。
チャンミンと一緒に。

『学校の仕事って、こんなに激しくて素敵なものなんだって、今凄く感じていて。』

『うん、わかるヨ。』

『うん、だから、今離れるのは惜しいなって、仕事としても思うの。』

それなら、居ればいいじゃないか。
納得いくまで、この現場を見ていたらいいんだ。

『あなたがいない仕事に戻ることで、僕は全てのやる気を放棄してしまいそうだ。』

『大袈裟だな、』

『そうだよね、ああ、うん、』

チャンミンは思いを飲み込むように、視線を下げた。

大袈裟なんかじゃない。
俺がチャンミンだったら、きっと同じように悩んだだろうから。
俺だって、一緒にやりたいと思っていた仕事が出来なくなってしまったら、途方に暮れるだろう。
俺だって、ようやく新しい世界を見たのだから。
子供たちに伝えるためのツールが増えたばかりだというのに、それを手伝ってくれる存在が今いなくなるのはとても困る。

困るな。

『…、チャンミン、俺はね、』

『はい、』

再び視線が上がる。
そのひとつひとつの動作がなんて美しい男なのだろう。

『チャンミンが元の仕事に戻っても、こうして俺を支えてくれる存在だっていうのは変わらないと思ってる。』

『はい、もちろんです。』

『だから、チャンミンが選ぶことが何より大事だと思うよ。』

『…、』

『子供たちにも毎日のように言うんだ。何をどうしたいのか、ちゃんと考えて先生に言ってごらんて。』

『、』

『だから、チャンミンも何をどうしたいのか、たくさん考えたらいいんだと思う。』

『ユンホ…、』

『自分の願望を並べてみて、自分が一番正直になれるものを見つけらたらいいんじゃないの。それから大人の事情を並べてまた考えてみると、新しい見方が見つかるかもしれないね。』

『…、はい、ありがとうございます。』

『いやいや、流されて後悔するってのは、チャンミンにもさせたくないし、俺だってしたくないしさ。』

『はい、そうですね。』

箸を動かす。
口を動かす。
チャンミンは野菜に肉を巻いて食べさせてくれる、いつもの彼氏の顔に戻った。

言っておいて、自分はどうなんだと問うてみる。

俺は、どうしたい?




それからまた、どちらからともなく求める夜を過ごした。
ねだって、ねだられて、与えて、与えられる。
甘えて、甘えられて、束縛し、束縛される。

鳴いて、泣かれて、疲れて、微睡む。

汚れた体のまま抱き合って、夕飯時の会話を思い出した。

何をどうしたいのか。

俺は、何を、どうしたいのか。

仕事を?
子供たちを?
チャンミンを?

チャンミンを。

どうしたい?

傍に置きたい。
愛したい。
愛されたい。
離したくない。
束縛したい。
俺だけを見ていて欲しい。
支えたい。
支えられたい。

夢を見たい。

チャンミンと、夢が見たい。

教育現場という聖域で出会った魂と、子供たちに夢と真実を与えられる仕事がしたい。


俺の答えは、見つかったようだ。


チャンミンの寝顔を見つめながら問いかける。

お前は見つかったのか?
いや、まだかな。
俺は見つかったんだ。
だからその話を、今度きちんと聞いて欲しい。

髪と額に口付ける。
起きる様子はなかった。

傍に置きたい。
俺とチャンミンの過去はほとんどない。
出会って間もない。
けれどふたりの未来は沢山ある。
無限だと思えば無限になる。
無限以上にもなる。

ふたりで仕事をするというのなら、そんなふうに思える。


まだ睡魔は少し遠いようだ。
もう少し考える。

では、チャンミン自身は、チャンミンの根本的な欲求はどこにあるのだろう。
働くこと以前に、人としてこれからを生きるために抱く欲求とは、どんなものなのか。

学校の中にいる時の顔と、俺に抱かれている時の顔を思い浮かべる。
そして俺の腕の中で眠る顔を見つめた。

お前はどんなふうに、生きたいのかな。

どんなふうに生きている上で、どんな仕事がしたいのかな。

眠る顔に問うてみる。

勿論返事はない。
穏やかな呼吸が聞こえるだけだった。



謙虚なくせに、俺を思う気持ちは、誰よりも熱くて激しい。
小さな幸せで喜び、大きな笑顔を見せる。
不思議な男だと思うんだ。

チャンミンは、どんなことで喜んでくれていたかな。

思い出す。
考える。

俺たちはまだ、お互いのたくさんのことを感じあわなくてはいけない。

チャンミンは俺に、どんなことを求めているのかな。


俺がくれてやれるものは、なんだってやるから。


明日が来たら、またきちんと話そう。


大丈夫。

何を選んでも、俺達は一緒だっていう明日がくることは、変わらないのだから。














次でラストです(´◉J ◉`)にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村