④ちい子の亡骸を抱いて | あなたに,も一度恋をする

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ちい子を火葬場まで連れていくまで、残り2時間となった午後12時。
ダァーと3人で大仙公園に行くことにした。
ちい子が大好きだった大仙公園。
いつもちい子のマットになっていた母の手作りのキルトタペストリーにちい子の亡骸を包み、
赤ちゃんを抱くように車に乗った。
「最後の大仙公園だよ。」そう言って、固く抱いた。

大仙公園まで車で10分。
いつも同じところで、ちいは窓の外から顔を出し、風を頬にあてて
「だいしぇんこうえんや!におう!におう!だいしぇんこうえんや!」
と歓んだ。
その場所に来た時、嗚咽した。

「ダァーさん、公園の花を摘んでくれない?」
ダァーが、車を止め、咲いてる紫と白の花を摘んでくれる。

「一周してから帰ろう。」

腕のなかのちい子は、まるで生きているようだった。
まだ背中のあたりが温かい。
車を走らせると、側道に黄色い花が見えた。
目を疑った。

「たんぽぽや!たんぽぽや!」

「何が?」

「たんぽぽが咲いてる!たんぽぽが・・・。」

「たんぽぽ?」

「たんぽぽ・・・。信じられない。たんぽぽが・・・。
本当は、たんぽぽの花を摘みにきたくて、来た。
でも、こんな時期にたんぽぽなんて咲いてないと思って、
せめて、公園の花を・・・そう思って。
たんぽぽは、ちいが見た最初の花。
あれ以来、たんぽぽは、アタシには、ちいを花にしたようなお花なんだよ。
たんぽぽを柩に入れたくて・・・。たった一つでいいから・・・。」

涙でつまりながら言う。

「よし!もう通り過ぎたから、もう1周するぞ!」

そうして元の場所にきて、車を止め、
ダァーが道路を渡って、たんぽぽを摘んでくれた。
秋に咲いた一輪の、か細い、たんぽぽ。
腕のなかのちいに見せた。


ダァーさんとちいと私と3人で、よく来たね、ここに。
ちいが歓ぶ顔を見るのが好きだったダァーさん。
そして、そんなダァーを、ちいは大好きだった。
あるとき、
「なんでそんなにダァーが好きなのか?」と聞くと、ちいは
「公園に連れていってくれるから。」と言った。

テレビ出演させたいほど、若い頃のちいは笑う犬だった。
耳が後ろに、口角があがり、目を細め、ほんとに笑う表情をする犬だった。
ダァーが帰ってくると、ことのほか、嬉しい顔をした。

「ちい・・。ちいがいなくなると、どぼちゃんは寂しいよ。
ちい・・お別れじゃないよ。向こうで待ってて!
どぼちゃんとダァーちゃんが、後で行くから!それまで待っとくんだよ。」

私の腕に抱かれているちいに顔を伏して、強く抱きしめた。