ボリス・ゴドゥノフ! | あなたに,も一度恋をする

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ムソルグスキーのオペラ「ボリス・ゴドゥノフ」を観た!
作曲は、アダジの大好きなムソルグスキーちゃん★

実は数週間前に、このオペラのDVDを購入して途中まで観たのだが、
問題があって、途中で観るのをやめた。
理由は、字幕がなかったから。輸入版はあかんよね。(語学まるきしあかんねん。)

そしてigaさんからお借りしたDVD。
1993年11月21日、NHKホール。
キーロフ・オペラ管弦楽団による日本公演。
指揮は、ワレリー・ゲルギエフ
演出は、アンドレイ・タルコフスキー

あまりの素晴らしさに、文字では書ききれない。
昨日観たヘンデルオペラの、女性を殴ったり蹴ったりするのとは違い、
壮大で重厚なオペラ。
こんなすばらしいオペラが、日本で公演されていたんですねぇ。

ロシアの皇帝・ボリス・ゴドゥノフは、先帝の皇子(7歳)を殺害し、皇帝の座に着いた。
それから13年後、この過去を知る修道院の僧侶から事実を聞かされた若い僧侶は、
権力に憧れるあまり修道院を抜け出し、殺害を逃れた皇子として、姿を現す。
ボリスは、自分が殺害を企てたはずの皇子が生きていると思い、錯乱状態となり、死を迎える。
そんな物語。

この話、実は実在する皇帝をモデルにしているのだとか・・。
幼くして亡くなった先帝の皇子の名を語り、次々と、ニセ皇子が名乗りでた記録が歴史上あるらしい。

このオペラには、異教の問題も、弾圧されていた人民も描いてる。
忠実な僕も登場するし、預言者も登場する。
修道院の老齢の賢者も登場し、美しく威圧的な異国の姫も登場する。
過去の過ちに苛まれ悔やむボリスと、無垢なボリスの息子。
こうしたさまざまに異なる人間像を描いたリアリズム。
壮大なスペクタルオペラというべきか・・。

このオペラのみどころは、実にさまざまだけれど、
修道院の老齢の僧侶がボリスの前に現れて語る場面。
感動で泣いてしまうオペラは、そうあるもんじゃないけれど、
ここで泣いてしまった。


老齢の僧侶はボリスに向かって静かに語る。

「殺された皇子は、目の見えなくなった羊飼いの夢に現れてこう言ったというのです。
『僕は今、天国で、天使の仲間に入れてもらえたんだ。
だから力を与えられたから、何でもできるよ。
僕の墓に来て。必ず。』
この夢をみた羊飼いの男は、孫に手をとってもらい、遠い皇子の墓へ向かい、
そして墓に着くと、不思議なことに涙がとめどなく溢れ出て、
そして、見えなかった目が見えるようになったというのです。」

恐れおののくボリス。
僧侶は、ボリスが皇子を殺した全貌を知っている。
この場面はすばらしい場面だった。
殺された皇子が可哀相でたまらなかった。

このオペラでは、さまざまな人間のタイプが、実にリアルに描かれてる。
音楽が鳴る。恐ろしい恐怖感や寒さが伝わってくる。
管弦が歌の伴奏に留まらず、人間の感情を見事に表現してる。

モーツアルトなどでは、悲しい台詞も楽しい台詞も、長調で同時に歌う。
だから、言葉がわからないと伝わらないのだけれど、
ムソルグスキーでは、音楽が、いわば映像音楽の萌芽というべきか。
ハリウッド映画を連想してしまう。

注目すべきところは、オペラは音楽で物語を描いていくけれど、
そのオペラのなかに、独立した「歌」が実にさまざまに織り込まれている点。
これはちょうどハムレットの芝居のなかで、登場人物が芝居を観るシーンが組み込まれているのと同じじゃないかな。

酔っ払いの浮浪者が酒によって歌うロシア民謡調の歌、
いいなずけを失った姫を励ますために弟と乳母が歌う童謡調の歌。
さらに舞踏会での音楽、ボリスが息をひきとるときに流れる教会音楽。
こうした音楽による多重的演出は、注目すべき構成。

音楽が、もはや歌の伴奏から抜け出た演出効果をもたらし、時には管弦楽だけで語る。
そしてそれが映像音楽、時には音響効果となる。
すごいです!ここまでオペラは発展したんですね。

ムソルグスキーは、記譜がムチャクチャだったというけれど、
そんな書法知識なんて論外なほどの才能があったから、
さまざまな大物作曲家が、こぞって編曲したんだろうな。
ムソルグスキー、やっぱ、突出した逸材ですたい★