『In Stars and Time』の再プレイが終わったので、改めて感想を書くのです。
いつまでもこの世界に浸っていたいなぁと思う程度に、まだ離れがたいです。
前回の記事はこちら↓
2周目はあとで読み返すためにテキストを書き写しながらプレイして、
個人的な楽しみとして全編一人称の小説にまとめました。楽しかった~!
前記事の末尾に貼った文章の続きを最後まで書いた感じです。
274000文字くらいになりました(笑)。
好きすぎて、なにしてんのコイツって感じです。
読み返して「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉ!(T-T)」
と感動の再確認をしています(もう興奮しすぎてわけわからん)
この作業で日本語版テキストができあがったので(笑)、
英語版でプレイして読み比べています。
チェンジハウス→ウツロイの館 とか、
日本語版の翻訳のセンスが素晴らしすぎてときめきます。
本当にいい翻訳だからこそ物語を楽しめたのですよね。
ウツロイの館 House of Change
ウツロイの神 Change God
侍祭 Housemaiden
哀し身 Sadness
英語はほとんどわからない私ですが、
主人公シフランの一人称が「You」なのが???なのでした。
例)「僕は目を閉じた」→ You close your eyes.
↓頭の中で思っている表現と、それを発言する時も違う。
「僕だ!」
思考 It’s you!
発言 It’s me!
「僕と、僕の友達だ!」
思考 It’s you and your frends!
発言 It’s me and my frends!
あー、もしかして思考部分はプレイヤーのことを表現しているとか?
↓あとこの言葉。
カニったれ You Crab
やったぜカニったれ! Crab yeah!
作中「カニったれ」という個性的な罵り言葉がよく出てきます。
カニ野郎! ってニュアンスだよね?
クソ野郎、クソったれ、みたいな意味なのだろうか。
しかし嬉しいときでもカニったれと叫ぶし、
どういった状況で使われる言葉なのかつかみにくい(笑)。
どうしてカニがそんなに嫌われているのかも謎。
カニはおいしいのに……と思っているシフランのことは、
ヴォーガルド人には受け入れがたいのではないでしようか。
音楽もとてもいいです。
敢えてPSG表現になっている曲も多々あり。スキ。
町のBGMがちょっぴりドラクエっぽいような。
演出としてのサウンドも秀逸。
プレイ二周目は見逃した会話をかなり拾いつつやりましたが、
それでもまだいくつか取り逃しているようなんです……orz
途中からまたやり直しているところです。
隅から隅まで確認するのはかなり大変。
Switch版って実績解除システムがそもそもないので、
実績を確認できるsteam版でプレイしたほうが気づきやすいのかも。
追記・steam版を購入したけど、
実績がけっこう隠されているので自分で発見しなきゃならないみたいです。
せっかくだしsteamで「In Stars and Time」と「START AGAIN:a prologue」
と、それにバンドルされているアートブックやサントラも
ひっくるめて購入したんですが……
アートブック! アートブックがあぁぁぁ!
ツボるカットが多くてきゃあ~と軽く興奮したりして、
あと私はどうして英語読めないんだorzと落ち込んだりしています。
アートブックなのに文章多めなのよね。
日本語対応してくれないかなー……文字が手書き多めだから難しいか……
いやあれ手書き風のフォントなのか?
あとsteamからアートブックを直接開けないのは何故。
PDFファイルを開けて見られたからいいけどさ。
その方法を日本語で書いてないから混乱したわ。
ものすごく分かりにくかったのでアートブック閲覧方法を書いておきます。
◆ISATアートブックの閲覧方法
steamライブラリのゲームタイトル右クリック
↓
プロパティ
↓
インストール済みファイル
↓
参照
↓
エクスプローラが開く
↓
ISATArtbookフォルダ内
ISAT_ArtBook.pdf→開く
◆START AGAIN:a prologueアートブック閲覧方法
steamライブラリのゲームタイトル右クリック
↓
プロパティ
↓
一般
言語を English(英語) にする
↓
インストール済みファイル
↓
参照
↓
エクスプローラが開く
↓
START AGAIN_a prologueフォルダ内
(言語を英語にしないと出現しない)
↓
START AGAIN_a prologue.pdf→開く
購入、ダウンロード後、
私はこの方法で見られました。
これ以降はネタバレありの感想なので、
今後プレイする予定の方はご注意ください。
内容を知らないまま作品に触れた方が絶対にいいので!
以下ネタバレ感想↓
*********************************
ACT1
オープニング~最初のループまで
物語の背景を説明し、キャラクター紹介会話があり、
バトルを練習するチュートリアルパート。
主人公が岩に潰されて死んで巻き戻ることでループの始まりが描かれる。
シフランが死ぬとループして仲間にはその記憶が残らないけど、
死の瞬間自体は目の当たりにすることになるわけで。
目の前で仲間が大岩に潰されて取り乱さない奴はいないだろう……とか、
シフランが死んだ後の仲間の心情を想像してしまうのでした。
このあと出てくる様々な死も、仲間の心情を思うと、もうね。
しかし前日あの願掛けをしていなければ、
シフランはここで本当に死んでしまうのですよね。なかなかきわどい。
ACT2
初ループ起点~初めて王を討伐するまで
パイナップルを食べるとシフランは死ぬ。
自分が用意した食べ物がシフランを死に追いやった、
という事実に直面したボニーの心情は想像するだけでキツいですね。
王を倒すとクライマックス感がすごいので、
その後無情にもループした時のシフランの絶望感が際立ちます。
この辺からプレイヤーである私が
主人公の感情にじわじわシンクロしていきます。
ACT3
みんなの手伝い開始~王がボニーを殺害するまで
みんなのお手伝いイベントは心温まるハートフルエピソードで、
仲間との絆の深まりをじっくり体験できるので、とても充実しています。
ミラベルの本音、オディールの捜し物、ボニーが気にしていたこと、
イザボーと星を見る……どれもエモーショナルなお話。スキ。
が、どんなにイイ話でも、延々と繰り返していると次第に飽きてきます。
どのエピソードも長尺だしね。
既読スキップはできますが、台詞が少し変わっていたりもするので、
それを見逃すのも惜しい……
みんなとのイベントアリと、みんなとのイベントナシで、
館の中のリアクションや台詞も変わってくるし、うわぁ悩ましい。
記憶やサイドクエスト回収ができるのはACT3と4までなので、攻略も忙しい。
頭の中が混乱してくるなか頑張って獲得条件を満たす作業をして疲れました。
ACT4
願いのクラフトのことを侍祭長に聞くところまで
ボニーを王に殺されたことでシフランの心がだいぶ不安定になってくる。
僕は平気だ、と繰り返し自分に言い聞かせるシフランが痛々しい。
全然平気じゃないのよもう。
王と対面すると怯えてスピードが遅くなるのも厄介(初回だけ)。
そして心をざわざわさせながらも
サイドクエストや記憶の回収にいそしむプレイヤー。
回収することでエピローグの会話が増えるので見逃したくないのです。
といっても初見ではかなり見逃しまくっていましたね……(泣)
既プレイヤーさんの記事や英語wikiを読んでヒントを得ながら回収しました。
『会話が増える条件と思われる記憶』
エピローグは通常会話の他に、
各キャラ三つずつ会話があるっぽい。
もとからある会話に加え、ゲーム上のイベントをこなして
条件をそろえると発生するやりとりがある。
全部読みたいので再プレイでがんばってみたよ(疲)。
初見であったものに関しては勘違いがあるかも。すみません。
イザボー
おめでとう。ようやく言えたね。←「ふれあいの記憶」入手で台詞が追加
イザ、きみは賢いな!
ジョークを言ってもいいかな?←「ダジャレの記憶」入手で増える
ミラベル
王を倒してすごかったね!
その、ウツロイの信仰についてだけど…←「ウツロイの神の記憶」入手で増える
きみも講義で先生役をしたって聞いたよ!←「学習の記憶」入手で増える
ボニー
おやつリーダーさん…
ボンボン、僕の目だけど…
ボニー…
初見から全部あったから、何がどう増えるのか分からないけど
「おやつの記憶」は必要かと思う。
それと遺体処理の話について会話済でも増えてそう。
オディール
オディールの仮説を聞かせて
「だ」から始まる恐ろしい言葉って何?
オディールは一度、すべてを見抜いてたよね。←「ある秘密の記憶」入手で増える
ループ
銀貨についての記憶を思い出す
それについてループとの会話発生
特にループのエピソードは重要だった……
初回プレイ時、条件自体は満たしていたというのに、
ドーモントに戻れることに気づかずエンディングに行ってしまいました。
終わってから「あれ? ループどうなった!?」と気づいたのです。わーん。
ACT5
シフラン自暴自棄~ラストバトルまで
仲間を単なる登場人物としてしか見られなくなってきて、
雑に応対してみんなに拒絶されまくる展開がもう
バッドエンドにまっしぐらな印象。
どうせループすればみんな忘れてしまうんだと思いつつ、
もう繰り返しには堪えられないとも感じているシフランは
思考の矛盾に気づいていない。
みんなに拒絶される流れがプレイヤーとしても嫌な体験でしたね。
時計台でのみんなの話を部屋の外で聞いてしまう状況も悲しい。
そのあと単騎特攻する展開は、音楽でも絶望感を盛り上げられてキツい。
これまでのプレイに関係なくシフランがレベルカンストしているので、
ここから先は経験値も得られないイベント戦闘なのでザコからは逃げるが勝ち。
うなされるようにおかしな迷宮を進み、王と戦って自壊寸前……
プレイしながら「早くシフランを楽にしてやって~(T-T)」と思っていました。
どん底に墜ちたところで仲間が助けに来る!……というのはお約束ですが、
初回プレイ時はあのままバッドエンドだろうなと思っていたので、
みんなが来たのは本当に意外で驚喜しました。
この嬉しい展開のあと、シフラン巨大化イベントがあってアツい。
時間を巻き戻そうとするシフランをオディールが阻止するシーンがシビれました!
ACT6
エピローグ
全て終わってからの、キャラクター達との会話がたっぷり。エモい!
物語的に告白はラストなんだろうなと察することは容易でしたが、
ここでやっとイザボーが告白できて「ようやく言えたね!」と安心感を得ました。
オディール同様、あいついつコクるんだとやきもきしていたのでね!
シフランが控えめに彼の手を握ったというのが大きい決断に繋がったね。よきよき。
シフランのループの原因はオディールの考察でほぼ正解なのでしょう。
複雑に入り乱れてこじれていたものを、よく解決できたなぁと思います。
ループとの最後の戦いはシフランが負けるパターンのほうが好き。
けれど、結局ループだけが幸せでなく、救われてもいないのです……悲しい。
クリアしたあとニューゲームを選択すると「まだ大団円を見ていない」と
ウツロイ様に言われるんですが……
あれはループも幸せになれるエンディングがあると解釈していいのかなぁ。
どうすれば大団円を見られるのか。わからないのがもどかしい。
メインキャラに感情移入すればするほどハマれる作品だと思います。
キャラクターの詳しいプロフがアートブックに載っているので、
興味ある方は見て~♪
年齢や誕生日や名前(明かされていないものも)等しっかり書かれていて嬉しい。
【シフラン】
ノンバイナリー。男性寄りの中間。
英語版の表記は(he/they)になっている。
20代前半らしいけど本人は自分の本当の年齢を覚えているのかな?
誰からも忘れられている北の島出身だが、本人自身も忘却しているので、
どんな人生を送ってきたのは謎に包まれている。信仰対象は宇宙(星)。
シフランの出身国民はクラフト使いにたけているようで、
宇宙の力を借りて大きなクラフトを無意識にでも使えてしまう。
魔法使いのようなマントと帽子はおそらく親から与えられている。
サトイモのフリットは親が作ってくれた好物。
くせっ毛の身内(妹とか?)がいるかもしれない。
家出してボートで海へ繰り出した。
北の島が忘れられるような事件があったらしいが、詳細は不明。
彼の仲間への愛情と執着心が、そもそもの元凶というかなんというか。
大好きなみんなに嫌われたくなくて隠し事だらけで、
しまいには巨大化して暴れまくる駄々っ子主人公です。かわいい。
巨大化バトル時の音楽がすごく好き。
時間が巻き戻る事を最初は喜んでいたのに、
ラスボスを倒してもループが終わらず、
何をやってもループが終わらず、ループから抜け出す方法もわからず、
主人公が苦しんでだんだん精神を病んで
正気と狂気を行ったり来たりする過程を体験するわけで、
それがなかなかにじわじわくるものがあります。
油断しているとこっちも不安定になるような没入感でした。
どう考えてもバッドエンドにまっしぐらな展開だったから特にACT5はキツかった。
それゆえにみんなが助けに来てくれたシーンで涙腺崩壊なのですが。
画面より先に音楽が流れるので、急に明るい曲が始まって「何事!?」と思ったけど。
プレイヤー側としては、
ループの過程で館(ダンジョン)を行ったり来たりする作業を
何度も何度もやらなくてはならないため、だんだん飽きて面倒になり、
しまいにはウンザリしてきて無感情になって雑に死んだりし始めます。
そのへんの神経のすり減らし状態がシフランと同調してしまう理由なのかな。
チュートリアルエネミー惨殺事件なんか、「毎回チュートリアル邪魔だな~」
と思っていたプレイヤーの思いを反映したエピソードでしたね。
ヤバい表情の絵まであり、みんなにドン引きされていてカワイソウでした。
RPGの主人公は無個性になりがちですが、
シフランはしっかり個性派で色々な思考をするのがイイ。
彼に寄り添いながら「どんな結果になっても最後まで見届ける」
という気持ちになっていました。
しかしシフランは仲間に嫌われたくなくてずっとループを秘密にしていたけど、
困難な状況に陥ったら、私ならすぐ仲間に相談するなー。
オディールとかいい知恵を出してくれそうだし。
私としてはシフランと同期しつつ、同時に客観的な視点でも見ていました。
苦しみつつループを体験するシフランの気持ちに寄り添いながらも、
奮闘するシフラン可哀想可愛い♪とか思いながら割と無情に楽しんでもいました。
シフランは表情差分が豊富で、どれも大変かわいいのです。
フィールドキャラもかわいいのです。
帽子を取った姿もかわいいのです。
オディールの気持ちがよくわかってしまうのです(笑)。
イザボーに対する感情は、初回プレイでは
「まんざらでもない?」くらいにしか感じませんでしたが、
周回プレイでふれあいイベントを経て、これはループを重ねるうちに
思いが育まれて大きくなってしまったんだろうなぁと感じましたね。
最初はイザが何を言いたいのかまったく気づいてなかった子がねぇ。ふふっ。
温かい目で見守りたい存在です。
【イザボー】
20代前半、シフやミラより少し年上。
初期の段階ですでにシフランに気があるんだな~と分かったので、
コイツいつ告白するんだ!?と期待して見ていました。
作中ことあるごとにシフランを気遣う台詞があったりしてニヤニヤしていました。
しかし恋する感情を抱いたままシフランと同じベッドに寝ていて、
手を出したりしたくはならなかったのかな?と下世話な事も考えてしまいます。
彼だけがシフランを「シファルーニ」と言うんですが、あれは愛称なの?
オディールとともに深酒して色々アレな感じになったことがあるらしい。
その話kwsk!
作中で何をどう選択しようが最終的にシフランとはああなるので、
彼に好感を抱けるか否かでこの作品の印象が随分変わるのでは、と思います。
【ミラベル】
20代前半、ウツロイの館の侍祭。
神に選ばれた(ということになっている)パーティーメンバーの要。
彼女についてはあまり思い入れがなく、書くことは少ないです。
興味のある事に関して急に饒舌になるのはオタク気質なので、親近感はある。
シフランに酷いことを言われた時の容赦のない反撃は見事でしたね。
ウツロイ様のしゃべりが独特すぎィ。顔文字うざっ。
【ボニー】
この子もノンバイナリー。良くも悪くも存在感がある。
作中10歳にも満たないという台詞があった気がするが
プリティーン(10~12歳)とも言われているし、年齢は10歳前後ってことか。
ゲーム的な休息として3回もスナックタイムがあるんですが、
おやつリーダーとしての任務を一身に引き受けるパワフルなお子様。
最終決戦の食事として魚のカマ焼きをチョイスする辺り、タダ者ではない。
絵的には兜焼きなのでは? とも思いますが。
バトルでは2ターンごとに何らかの行動をするけど、
攻撃をハズす結果になることが多かったです。回復はありがたい。
子どもなので感情の制御がうまくできず、シフランが対応に苦慮している。
シフランとボニーのハグイベントは何度見てもじんわりくる。スキ。
【オディール】
日本がモデルなのかもしれないカ・ビューからの異邦人。
最初にオディールのイラストを見てこのゲームに興味を持ったのが始まり。
独特な髪型。メガネ。目つきが鋭い。
性格がクセつよで、頭脳派なのがいい。
翻訳の男性的な口調も彼女のイメージに合っていて良いですね。
ボニーにおばあちゃんと言われるほどにマジで年寄りっぽい。
ゲームのパーティーメンバーに「おばさん」がいるのは珍しいのではないか?
(他ゲーでおじさんは結構いるけど、おばさんはあまり見ないような)
かつてストーカーがいたらしい。その話もkwsk!!
ボニーのことをボニファスというのは彼女だけ。
オディールは仲間達全員を子どもだと感じていますね。
オディールの母国での名前が思いっきり日本名だったのにびっくりです。
オディール最っ高に格好いい! とシビれたのは
シフランの時間のループを阻止したシーン。
バーンと一枚絵も出てきてシビれる!
ここどうやって止めたの?と思いましたが、おそらく
独自に強化して準備していたクラフトブレイクを使ったんだろうな、
と受け取りました(レベル云々はスルーで)。
客観的な視点では「シフランここでループしちゃだめー!」と思っていたので
止めてくれてマジで神!と感じました。
台詞も格好いいんだよな……もう惚れるわ。
このシーンを描写したくてオディール視点のSS(二次創作)を書き上げたので、
下に貼っときます。
【ループ】
もう一人のシフラン。
でもどうしてああなったのか作中で一応語られてはいるが、
シフランのループに閉じ込められた詳細がよくわからない。
パラレルワールドのシフランなのか、彼自身の過去のシフランなのか?
シフランはループのコピーなのか? そのへんも曖昧。
ループの過去は「START AGAIN:a prologue」で語られているエピソードが
そうなのかな? そのうちやってみるつもりです。
そういえばオープニングで星を食ってたのはループだよね?
以下、二次創作SS(といっても一万文字以上あります)
オディール視点のACT5~ACT6
すごくネタバレなのでお気をつけて!
既プレイの方には解釈違いとかあると思いますがすみません。
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寝起きが悪いのは自覚している。体のあちこちが痛い。膝と腰の痛みを忌々しく思いながら、私はゆっくりと起き上がった。この歳になると、身を起こすのも一苦労だ。
薄暗い室内を見回す。皆はもう起きているようで、目に入ったのは空のベッドだけ。
(予定より起きるのが早くないか……?)
しっかり睡眠を取るのも大事なことだというのに。
建物の中に人がいる気配がない。違和感を覚えた私は手早く着替え、時計台の外に出て周囲を見渡した。
朝の陽光が容赦なく降り注ぐ。イライラするほどの晴れやかな、夏の空だ。
「マダム!」
町の方から只ならぬ表情を浮かべたミラベルが駆けてくる。はぁはぁと息を荒げて近づいてきた彼女の口から、厄介な事案が飛び出した。
「シフランが昨晩から帰ってこなくて……町のどこにもいないの!」
ウツロイの館の侍祭ミラベル。
彼女と行動を共にする戦士イザボー。
この国、ヴォーガルドに呪いをかけた王を倒すため二人旅をしていた彼らに出会ったのは、半年ほど前だったか。異国から訪れた旅人――つまり余所者だった私だが、そんな重大案件をこの二人だけに任せてはおけないと自ら同行を申し出た。もとより彼等が戦力不足だったからだが、十中八九死地に赴くことになる健気な若い二人をここで見捨てたら後悔すると思ったのも事実だ。
その後陽気なシフランと幼子であるボニファスが加わり、現在は五人で行動している。
私たちは首尾良く事を運び、王が居座る異形の館へ突撃するすべも得た。
しかし、いよいよそれを実行するという前日に――問題が起きたのだ。
先頭に立ち仲間を導く役を担うシフランの変調。
確かに昨日の彼(表現上は彼と言っておく)の様子は異様だった。
知るはずのない事を知り、突如仲間達を罵倒した。出会ってからこれまでの彼の態度からは考えられないような残酷な言葉を使って、皆の心を傷つけた。
私自身もいきなり投げかけられた言葉に狼狽し、怒りのあまり彼の襟首をつかんで殴りかかりそうになった。すんでのところで感情を押しとどめてその場を離れ――それ以来、彼の姿を見ていない。
団結して王に挑むという重要なタイミングであの態度は何のつもりなのか。私はシフランを信頼していいのか分からなくなってしまった。しかし――タチの悪い冗談で皆を怒らせたことを悔やみながら、バツの悪い顔をしつつ戻ってくるだろうと、どこか期待して楽観視していたのも事実だ。甘かったか。事態は思っていたよりも深刻そうだ。
彼が一体どこへ行ったのか見当もつかない。
「今イザボーとボニーがあちこち回って探してる……ああ、どうしよう」
ミラベルは激しく動揺している。昨日一番激怒していた彼女だが、仲間思いなのは変わらない。失踪したシフランの事を本気で心配しているのが窺えた。
「落ち着け、ミラベル。呪いはもうすぐ、確実にこの町を飲み込むだろう。時間が無いんだ。シフランがいなくとも私たちは館へ向かわねばならない。決断を……」
時には冷酷な判断をしなければならない。私が感情を抑えてそう言ったとき。
「ミラ! オディール! 今すぐに、ついて来てくれ!」
全速力で走ってきたイザボーがそう叫んだ。
願いの木、その前に奇妙な姿をした生物がいた。
光る頭部に闇色の体、胸には星形の印。彼は自らを『ループ』と名乗り、シフランについて信じ難い事実を私たちに語った。
彼曰くシフランは、昨日と今日を繰り返すループに囚われているのだという。死を迎える度にループする二日間を、永久にも感じられる長い間体験してきたシフランの精神はもう瓦解寸前で、遂に変調をきたし、私たちに酷い言葉を投げかけた事が原因で見限られたと思い込み、絶望したまま単独で王のもとへ向かったというのだ。
「そんな……」
話を聞いたミラベルが混乱して涙ぐむ。荒唐無稽な話に全員が言葉を失った。私たちには何の記憶も残らず、シフランだけが時間のループを繰り返していたという。そんなことがあり得るのか?
「お願いだみんな、星くず君を……シフランを助けてよ! あいつは自分の手だけで王を倒さなきゃいけないと思い込んでる! だけどそれじゃダメなんだ。また巻き戻るだけ……いや、最悪、王の精神攻撃を受けた挙げ句、永遠に静止させられてしまうかもしれない。そんなの……」
「そんなことはさせない。行こう、みんな!」
こういうとき迷いなく立ち上がるのは常にイザボーだ。自分が鼓舞すれば皆の勇気に繋がると理解しているのだろう。私自身は半信半疑だったが、館へ向かわなければならない事に違いはない。頭の中に直接語りかける術を知っているという星の生き物『ループ』は、館に入ってからも我々をサポートすると約束した。
彼が語った事柄について真偽を確定するのは早計だ。まずシフランと会って話をしなければ。
「すぐに向かおう」
もう出発の準備は昨日のうちに済ませている。私たちは即座に行動を開始した。
シフランが「時間のループ」というクラフトをもし本当に使ってくるのなら、対策が必要になるだろう。私はそのための準備も怠らない。
「……」
道中「マダム、いつにも増して目つきが怖いな」とイザボーに恐れられたが、知ったことではない。私はもともとそういう顔だ。
私は考える。
星の生き物の話が事実なら、私たちは何度となくシフランのループを体験しつつも、それを記憶に残せていない事になる。繰り返す時間に囚われたシフランが何を考え、どのように行動したか知る術はないが、ある程度推測することはできる。
死ぬとループするということであれば、最初のうちこそ翻弄されていたのだろうが、回を重ねるにつれ心が麻痺して慣れてくる。そのうち無自覚に、最終的には自分の意志でループさせることも可能になった筈。となれば――臆病者の彼は、おそらく自分にとって都合の悪い結末に辿り着く度にループさせていたに違いない。時間のクラフトの事が仲間内の誰かに発覚しても同様だ。その場合、真っ先に気づくのは恐らく私かイザボーだった事だろう。
しかし――そもそも、彼の時間が巻き戻る原因はなんだ? 星の生き物は、シフラン自身どうしてループするのか分かっていないという。だからこそループから抜け出せないのだと。
その理由が明らかにならない限り、問題は解決しない。そう思う。
館内の死の罠を避け、施錠された扉の鍵を発見し、迷うことなく王の間に辿り着けたのは、ひとえに星の生き物のおかげだろう。彼のサポートがなければ全員あっさりと死んで終わっていた。
今――私たちは、膝を突いて床に伏したシフランと王の間に立って、最後の戦いを終えた。王は自らが放った凍結の呪縛をその身に浴びて凍り付き、動きを止めたのだ。おそらくは永遠に。
「ミラ、今のクラフトは……さっき書庫で覚えた反射のシールドか!」
「すっげー!」
若人が大はしゃぎだ。確かに、あの短い時間で難解なクラフトを理解したミラベルの能力には驚嘆する。
イザボーとボニファスは「倒した! 倒したぞ!」と驚喜してクルクル踊っている。まったくもって子どもだな。
「やったぜ、このカニったれ!」
「やったぜ、このカニったれーーー!」
二人で喜びのダンスを踊ってから、イザボーがくるりとシフランの方を向いた。
「だがな、シフラン」
「どうしてわたしたちに、あんな酷いことを言ったの、シフラン!」
ミラベルの怒りも収まってはいなかった。シフランを見て怒りの感情が再燃したのだろうか。
「いけないんだぞ。いーけないんだぞー!」ボニファスがはやし立てる。
「あれはカニもどきみたいにひどかった」イザボーも口を尖らせている。
私もつい咎める口調になってしまった。
「どうして一人で行ったんだ? 館を単独で進むなんて……愚か者のすることだ、シフラン。それに、あんな風に酷い態度をとるなんて、きみらしくもない」
皆に囲まれたシフランは、わかりやすく満身創痍だった。単独で王と戦った結果がこれだ。言葉を発することもできず、どうやら立ち上がることすらできないらしい。私たちは手を貸そうとして彼の体に触れる。熱い。
「この先に侍祭長がいるのがわかるよ……! わたし、助けてもらえるよう先に行って知らせてくる!」
ミラベルが奥の間へ向けて、慌てて駆けだした。
「シフ、歩けるか……?」
イザボーがやっとの思いで立ち上がったシフランの体を支えて、寄り添いながら歩き出す。
侍祭長は体の大きい美しい女性だった。
彼女は私たちを快く招き入れ、救国の英雄として讃えてくれた。しかし――何かがおかしかった。用意された台本を淡々と読み上げているだけのような違和感。会話になっているようでなっていない異様さ。しまいにはまともな文脈にすらなっていない言葉の羅列になり、侍祭長は誰が声をかけても反応しない奇妙な存在になり果てた。
「なあ、侍祭長さん……俺たちの声が聞こえるか?」
なんか怖いな、とボニーがイザボーの後ろに隠れる。
「オホホホ! ……もうすぐ皆さんは日常生活に戻れるでしょう。闘争に別れを告げられます。ようやく、故郷に帰ることができるのです!」
壊れた侍祭長がそう言った途端。シフランの体がびくんと跳ね上がって、その小さな体が闇色に染まり――いや、小さな体がどんどん肥大化して……王のような巨体へと変貌した。
何だこれは。これこそタチの悪い冗談と言えるのではないか?
「ダメだ!」とシフランは叫んだ――「故郷になんて帰さない!」
どうしたんだシフラン、と皆が巨大な彼を見上げる。
これは非常事態だ。なんとかしなければならない。シフランが腕を振り上げて侍祭長を弾き飛ばした。明確な攻撃の意志だ――このままでは皆が危険にさらされる。
(それは許されない、許さないぞ、シフラン)
私は魔導書を開き、有無を言わさず先制攻撃を加えた。シフランの巨体が仰け反る。
「オディール!? どうしてシフを攻撃する!?」
「あいつは私たちの脅威だ! これは自己防衛だ!」
しかしイザボーとミラベル、ボニファスも駄目だと強い口調で私を止めた。
「やめてよ! フランを攻撃するなんて――友達なんだよ! 友達には攻撃しちゃダメっ!!」
「しかし……」
異形の存在に変貌しても仲間は仲間。戦いたくないという皆の気持ちは分からないでもない。だが、このままでは。
躊躇いつつも次の攻撃を繰り出そうとして、私は気づいた。シフランが反撃をしてこないことに。それどころか自身を傷つけている。どういうことだ。
「シフラン!」
強い口調で彼の名を呼ぶ。
「――故郷に帰るなんて許さない! 許せない、絶対に!」
そんな叫びが返ってきた。皆がどういうことなのかと口々に問いかける。王を倒して旅を終えることこそが目的だったはずなのに、何故、と。しかしシフランは故郷に帰さないと繰り返すばかり。
「シフラン……訳が分からないぞ! きみは帰りたくないのか? 自分の故郷に帰りたいと思わないのか? どうしてミラベルの旅についてきたんだ。王を倒して故郷に帰りたいと思っていないなら、なぜ!?」
「帰れないんだ! みんなにも、帰ってほしくない!」
帰れないだと?
「帰る場所がない。みんなも同じだ! 帰さない! 行かせないからな!!」
シフランは帰れない、帰さないと繰り返しながら自傷を続ける。このままでは埒があかない。一体どうすれば――どうしろというんだ。
「ようやく、手に入れたんだ! 完璧な結末だ! 僕たちは勝って、みんながここにいる! 今は帰さない! 何度も何度も、僕は繰り返してきたんだ! 僕は帰らないし、きみたちを帰さない。ここにいるんだから! 幸せになれるんだから! みんながそれぞれの帰路について……故郷に帰るなんて……そんなの僕が願ったことじゃない!!」
――――これだ。
「『完璧な結末』……?」
「『僕が願ったことじゃない』……」
つまり――
「『何度も、繰り返してきた』……つまり、あの星の……ループが言ったことは本当だったんだな」
時間のクラフトと、願いのクラフトは実在した。そういうことだ。
「シフラン……昨日の態度……きみの言葉。本気だったのか、そうじゃなかったのか。両方なのかもしれないな」
ミラベルの書類の中身。服のデザイナーになるというイザボーの夢。戦闘中にわざと転び、ボニファスを追い込んで哀し身を倒させたこと。シフランは全てを識っていた。
「そして、私が一族の物語を探していたことも……更に本のありかも知っていた。王と戦ったときのきみの振る舞いも……それに、今言ったこと。さっきの言葉だ。『何度も何度も、繰り返してきた』……」
どうやら、あの星の生き物の言ったことは全て真実だったらしい。
「ハハ……大げさに言ってるだけだと思ったが……シフラン、きみは……ずっと、時間のループの中にいたんだな?」
………………!! イザボーの言葉を聞いたシフランが息を呑むのが伝わってくる。知られたくない事を仲間に知られてしまった彼が、この後取る行動はおそらく――
私は魔導書を開いたまま身構える。
「……っ!」
視界がぶれ、頭痛が襲ってきて、砂糖を焦がしたような匂いが纏わりつく――私はその不快な感覚を強引に振り払い、弾き飛ばすように消し去った。
「ああ、それはできないぞ。若者よ、きみはここにいるんだ。話が終わるまで、どこにも行かせない!」
ぶっつけ本番だが、時間のループの阻止に成功した。対策を考えておいて正解だった。私は誰にも気取られないようホッと息をつく。
巻き戻りを封じられたシフランは驚愕し、怯えているようだ。
「うっわああああ……ヘンな感じがした」
「今のって……あれが時間のクラフト? シフランは今、時間を巻き戻そうとしたの!?」
「ヤな感じ! 何時間も焦がしたカラメルみたいなにおいがしたよ! うえぇっ!」
「確かに不快だ……ここにいるだけで、頭痛がしてきた」
皆も私と同様の感覚に襲われたようだ。私はシフランに向かって咎める口調で言葉を叩きつける。駄々っ子にはキツい物言いでなければならない。
「シフラン! どうやって、どういう理由で時間のループが起きているのか知らないが、きみを逃しはしない。ここに留まれ。そして私たちと話をするんだ!」
「そうだよ! ディールがオマエを離さないからな、バーカ!」
「オディール、やれ、オディール、やっちまえ!」
同時に、星の生き物に聞いた話とシフランの行動や言動をもとに、仲間達が考察を始める。
時間のクラフト――絶大な力が必要――願いのクラフトの話――願いの木への願掛け――シフランの願い――人々の願い――『僕が願ったことじゃない』――
そう。シフランが願った内容が『鍵』だ。
「シフラン……シフランはもう分かっているはずだ。きみ一人がその力を手に入れた理由。王と戦おうとしていたのは、私たちも同じなのに……きみに関わりがあることなんだろう? きみが願ったことが関係しているのではないか?」
「シフラン……あなたが願ったことを、わたしたちに教えて。言いなさい! それが、あなたを解放する鍵になるかもしれない! これ以上、時間のループを繰り返さずに済むかもしれない!」
私とミラベルが詰問する。しかしシフランは激しく頭を振り、イヤだイヤだと繰り返すばかり。皆が自分の願いを彼に伝えて、教えてよと懇願する。子ども相手に優しいばかりでは駄目だ。時には厳しく接しなければ。
「言うんだ!」
「わたしたちに言いなさい、シフラン!」
「「「「何を願ったのか言ってよ!!!」」」」
渾身の力を込めて皆がシフランに詰め寄った途端――周囲が光に包まれた。
シフランの帽子が強い風に煽られ、虚空に舞う。
いつの間にか、シフランの体はもとの大きさに戻っており、私たちは手を繋いで円になり、ふんわりと空を飛んでいた。現実主義者である私には正直このファンタジーな状況は受け入れ難いものがあったが、そんなことを気にしている場合ではない。
皆が穏やかな口調で彼に問いかける。
「何を願ったのか言ってくれ。なあ」イザボーが優しい目でシフランを見つめる。
「言って」ミラベルは穏やかだが厳しい目を彼に向ける。
「言ってよ。言ってってば。ねえ。言って言って言って言って言って言って――」
ボニファスが言って言ってと執拗に繰り返す。
「さっさと言うんだ」
そして私はやはり厳しく命令する。
「だけど……言いたくないんだ。言うのが怖い」
喉から絞り出すように答えるシフラン。何を恐れているのか。
オイラたち知りたいんだよとボニファスが言う。またおしりペンペンして言わせようか?と続け、イザボーとミラベル、そして私もその流れに乗った。
そんな風に責められたシフランはぎこちない笑みを浮かべてから、息を大きく吸って、吐いた。もう一度吸って、吐く。これが彼の、心を落ち着けるための儀式なのだ。
「僕、その……」
もの凄く小さな消え入るような声で、シフランは言った。
「……イザボーが作った服を着ること」
小さく告白した彼の言葉を聞いて、イザボーの顔が嬉しそうに綻んだ。
「それが願い……って、ほ、ホントか? きみが、着てくれるのか? ぜひお願いするよ、シフ! きみのための服を作りたい!」
でも、とシフランは続ける。願ったのはそれだけじゃないと。
「あのとき願った、僕の願いは――み……みんなとずっと一緒にいることだ……!」
「な……?」
………………
…………
「王に勝ったら、僕たちの旅は終わりだろ? ミラベルは館に、イザボーはジュヴァンテに戻る……オディールはカ・ビューへ、ボニーはお姉さんのもとへ! みんな、故郷に帰ってしまう!」
「……」
「勝ったら、みんないなくなるんだ! 僕は――僕はそんなのいやだ! みんなと一緒にいたいんだ!」
これがシフランの本音。彼の願い。
ごめんなさいごめんなさい、と彼は涙混じりに謝罪する。皆が故郷に帰っても平気でいなければならないと本当は分かっているのだと。けれど独りになりたくないと。でも皆を時間のループに閉じ込めるつもりではなかったと。
ミラベルが彼の言葉をぴしゃりと止めた。
「シフラン、そんな風に思ってたの……? 旅が終わったらすぐにでも、あなたのことを忘れてしまうって!? わたしは、みんなで過ごした時間のことを忘れたくない。それに、旅が終わったらみんなと二度と話せなくなるなんてイヤだよ!」
わたしはみんなと旅を続けたいと彼女は言った。ボニファスも、そしてイザボーも同意する。それは、しばらく前から私自身も考えていたことだった。
「……さすがに、分からなかったよ。皆同じ気持ちだったんだな。そのうち、皆に聞いてみようと思っていたんだ。もう少しだけ、旅を続けたくないかと……王のことを心配することなく旅を続けられるなんて、良いと思わないか?」
だが、私にはそれを聞く勇気がなかった。しかし今ようやく自分の気持ちに素直になれる。
「……それに、私は……この旅が楽しいんだ。皆との旅が。皆との会話が。まだ……まだ、皆との旅を終わりにしたくはない!」
「シフラン! わたしたちも、あなたと一緒にいたいと思ってる。あなただけじゃないんだよ!」
「この旅はまだ終わらない。話したいことがある限り終わらないんだ!」
「それに、旅が終わっても、それで終わりじゃない。お互いの人生の中に、お互いの存在がずっとあり続けるだろう」
「そうだよ! だからバカはやめて、オイラたちがフランを忘れるなんて思うなよ。忘れるわけないだろ、バカフラン!」
「シフ!」
「シフラン!」
「シフラン!」
皆が彼の名前を呼ぶ。
シフランは泣いて――笑った。
全てが元に戻ってから、ボニファスは現状を端的に表現した。
「それじゃ、結局……フランはオイラたちのことが好きすぎて、ずっと一緒にいたかったから、もう少しで世界を壊しちゃうところだったのか?」
ダメだぞ、そんなことしちゃ。そう言ってボニーはシフランに「めっ!」と言った。
言われた当人はあーあーあーあーと呻いて、真っ赤になった顔を両手で覆ってしまった。
私は手近な椅子に腰を下ろす。
ああ、全身が痛い。目は霞むし、眩暈はするし、首と肩が凝っているし、そろそろ腰もやばい。館をさんざん歩き回って足もガタガタだ。明日は筋肉痛で立てないな。美味しいモノでも食べて、温泉につかって、しばらくゆっくりと休みたい。年寄りに無理をさせるとこういうことになると、シフランに思い知らせてやらないと。
そんな彼は小さな体を更に縮こませて申し訳なさを前面に押し出し、ひとりひとりに謝りはじめた。何をどれだけ謝罪すればいいのか彼自身も分かっておらず、たどたどしく言葉を紡いでいる。皆もそれを笑って受け入れている。そんな若者たちの姿が眩しくて愛おしい。
誰一人欠けることなく彼等が元気に生きているだけで、私は満足だ。
ところで戦闘中に弾き飛ばされた侍祭長は怪我一つなく無事で、シフランは心底安堵したようだった。侍祭長自身も正気を取り戻しているようで何よりだ。
しぱらく皆と話していたシフランが、よろよろとこちらへやってきた。
「ああ、シフラン……熱は下がったか?」
彼は頷く。
「よかった。それを聞いてうれしいよ。ああ、そうだ、もう一度言っておこう。良心に従ってきみを許す。つまり謝罪は必要ない」
「……」
「どうした?」
「みんな、僕のしたことを良い方に解釈しすぎだよ」
「なんだと? 時間のループのことや、きみが忌々しいカニったれだったことをか?」
「……」
心配ないと言っても彼は納得していないようだ。自分自身が許せないのだろう。
「確かに、きみには昨日、ひどいことを言われた。私たちは嫌な気分だったし、腹を立てた。だがその後で、きみが一人で館に向かい、単独で奮闘していたことを知った。それに、きみがした酷いことは……ひどく落ち込んで、正気を失っていたのが原因だということも分かった」
同情の余地は大いにある。
「きみは、私たちとずっと一緒にいたいと願うあまり、無意識のうちにかどうか分からないが、自分自身を時間のループに閉じ込めてしまったのだ。それを知って、私たちがどんな気持ちだったか、分かるか?」
シフランは少し考えて、上目遣いに恐る恐る問うてくる。
「気分が悪かった?」
「うーーーん。みんなが同じ気持ちかどうかは分からないが……私の知る限りでは、断トツにかわいいことだと思うぞ」
「かわいい!?」
何を言われたか理解できないのか目を白黒させているシフランの頭を、私はスリスリと撫でた。手入れをしていないようなのに、ふわっふわだなこいつの髪。ああ可愛い。
私を慕い離れないでと縋りついてくる子どもや小動物ほど愛らしい存在はない。可愛くない訳がないじゃないか。
「シフラン、シフラン、シフラン。きみは私たちを愛するあまり、忘れられたクラフトの力を使って、私たちとずっと一緒にいようとしたのだぞ。かわいいだろ?」
「かわいくないよ、そんなの――」
「かわいいぞ」
「違うって!!」
「私の気持ちは変わらないぞ」
「オディール、きみ――」
それまでこわばっていた彼の顔が、ついに綻んだ。
「ほう」
(ますます可愛いじゃないか)
「かわいくないってば。あれは……」
「すっごくかわいい」
いかん、彼の反応が可愛くてニヤニヤが止まらない。しかし言うべきことは言っておかなければならないな。
「……シフラン。もちろんきみは、昨日マズいことをしたと思っているだろう。実際、そうなのかもしれない。だが……私も昨日はマズいことをしたと感じている」
彼と話をしなかった。何が起きているのか、知ろうとしなかった。明らかに何かがおかしかったのに。
「あの時ちゃんと確かめていれば、きみを助けるために、もっと早くから色々なことができたはずなのだ」
いやそれは、とシフランは視線を彷徨わせる。
「ふん! そうは思わないという顔だな。それでいい。私たちはお互いに罪悪感を感じていてもいい。それがいつか相殺しあうことを願おう。だが、これだけは覚えていてほしい。私たちも、きみともう少し一緒にいたいと思っているよ。なぜなら、私たちもきみと同じ気持ちだからだ」
きみを大切に思っている。きみに幸せでいてほしい。きみともっと時間を過ごしたい。
普段なら絶対に言わないであろう言葉を、私ははっきりと口に出した。そのほうが彼も理解しやすいだろう。
「これから私たちが始める新しい旅も、いつかは終わる。最終的にそれぞれの道を歩み始めるのは、避けられないことだ。だが、一緒にいなくても……それぞれがまったく別の場所にいるとしても……一緒に過ごした時間を忘れることはない。きみのことはけして忘れないよ、シフラン。四人とも、きみを忘れることはない。きみがまだ信じられないと言うなら『だ』から始まる恐ろしいあの言葉を言ってやってもいい。だが、きみを調子に乗らせる必要もないしな。いいな?」
彼は頷いた。
「よかった。それにな、シフラン。たかが『子ども』が私にいじわるするたび腹を立てていたら、私は常に腹を立てていなきゃならなくなる。心配しなくていい。さっきも言った通り、きみのことは許した。何が起きているのかもっと真剣に探ろうとしなかった私を、きみが許してくれることを願っている」
「……分かった」
シフランは帽子を下げて照れた顔を隠そうとした。けれど――もう彼の帽子はない。
「ハハ、帽子がなくちゃ顔は隠せないな?」
私たちは同時に笑い声をあげた。
「よし。ここはもういいから、若者同士でもっと話してこい。きみが話しかけてくれるのをずっと待っているあいつの視線が痛いしな。それに、感情的な会話をして私は疲れてしまった」
「戦いすぎたせいじゃなくて?」
「当たり前だ、愚か者め。私の身体は最高の状態だぞ。さあ行け、シフラン」
人をおちょくる余裕が出てきたならもう大丈夫だろう。私はシフランの髪をくしゃくしゃと撫でると、笑って彼の背中を押した。
柔らかな微笑みが返ってきた。