7SEEDS

テーマ:

7SEEDS
田村由美
小学館 フラワーコミックス(途中でアルファに)
全35巻+外伝
1巻発行日 2002/4/20

 

石清水ナツ(16)が目覚めたのは、嵐に翻弄される小舟(らしきもの)の中だった。昨夜は両親の気まぐれなのか、夕食に好物がズラリとならんでいて、「何かのお祝い?」と疑ったほどだった。母親は「たまにはナッちゃんの好きなものをいっぱい作ろうと思って」と言っただった。そして、そのまま自室で眠りについたはずなのだが。もちろんパジャマに着替えていたし、靴なんかも履いていない。なのに、今は。手元には見覚えのあるリュックまである。間違いなく自分のものだ。しかし、そんなものを用意した記憶はない。

 

沈みそうな船の中で揺られている自分。切羽詰まった声で避難を呼びかけるのは知らない人。乗り移ったのはゴムボートで、さっきまで居た船は、海に引きずり込まれていくところだった。

 

そこにいたのは自分とさほど年齢の変わらないであろう男子が2人と、少し年上らしき女性が1人(後に、早乙女牡丹と名乗った)。自分を含めて計4人。ゴムボートでどうにか無人島に辿り着いたものの、状況はどうみても船旅中の遭難。無人島でのサバイバルが強いられる状況だ。

 

客船の事故ならすぐに救助隊が来るだろう。地面に枝で「HELP」と大きな字を書いておく。だが、飛行機もヘリコプターも来ないし、鳥さえ姿を見せない。他に船から放り出されたであろう人との出会いがあり、合計で8人。全員が揃ったと口にした早乙女牡丹は、事態の説明を始めた。


 

近い将来、地球上の生物が絶滅するような厄災が起こる。それは巨大隕石の衝突。過去においても巨大隕石(あるいは小さな小惑星)の衝突で地球上で大量絶滅が発生した証拠は残っているし、恐竜が絶滅した原因もそれだとされている。砕け散った破片と埃などが空中に舞い上がり太陽光線を遮絶、噴火による噴煙が拍車をかけ、急激に地球は寒くなってゆく。地殻変動や大津波なども起こり、文明は音を立てて崩壊してゆく。

 

そんな未来を間近に、各国は秘密裡に対策を立てる。例えばシェルター。ただし、全員がそこに入れるわけはなく、選別が行われるのは自明だ。目的は人類を絶やさないこと。

 

しかしそれで生き残れる保証はない。対策はいくつもとられた。そのひとつが「7SEEDS計画」である。選ばれた人間を冷凍保存し、地球上が再び生物の生息が可能な状態になったとコンピューターが判断したら、解凍して放出。日本でもそれは行われ、7人構成の5チームが編成された。チーム名は、春・夏・秋・冬。夏だけAとBの2チームが作られた。石清水ナツや早乙女牡丹が所属するのは夏のBチームである。保護者に1億円が支払われ、メンバーに選ばれた若者は親元から引き離されて冷凍保存された。

 

メンバーの選別は非情に行われた。健康で遺伝的病気が無く、身内に犯罪者等もおらず、生殖能力があり、性格的にも適格、豊かで問題の無い家庭で育った、頭も良くてできればある分野に秀でており、容姿端麗。それだけでは絞り切れず、それぞれのチームである春夏秋冬にちなんだ名前を持つ者、などという基準も加えられた。しかし、そうした「良い」要素だけでは逆境に耐えられないかもしれないということで、保険として設けられたのが夏のBチームだ。すなわち、問題児の集まりである。一人、百舌という謎めいた男(年齢も他のメンバーより高そう)がいる。

 

加えて、事情を知った大人が1名、ガイドとしてつく。夏のBチームのガイドが牡丹である。元警察官で、ガイドとしての訓練を受けて来ていた。

ただし、彼女にもわからないことがある。それは、今がいつなのか、である。厄災の半年後なのか、10年後なのか、100年後なのか。夏Bメンバーの青田嵐は、これを知って絶望する。彼には花という恋人がいて、厄災を逃れて生き残っていればいつか会えると希望をつないでいたのだが、仮に生き延びることができていたとしても、今が100年後ではもう会えないからである。

 

今がいつなのかは不明だが、眠らされていたのが九州だということはわかっており、九州の西の海上に放出されたと予想して、大きな筏を作って居住区となるゴムボートを上に載せ、九州本島に向けて一行は無人島を出発する。

 

夏のBチームに続いて登場するのが、春のチーム。

彼ら彼女らも、無人島に拠点をおいていた。ただし、巨大なカマキリのような生物に島が支配されており、上陸して1分たつと、人を襲って来る。だから海上での筏とボートでの生活を余儀なくされている。

 

水や食べ物の調達は上陸する必要があった。しかし、制限時間は1分。その範囲内でなんとかなる場所はあらかたとりつくしてしまっている。事態を打破する必要に迫られた春のチーム。

 

そして、アクシデントが起こる。ガイド役の柳が巨大な虫に刺され、それが原因で死に至る。横暴な専制君主として振る舞っていたため、メンバーからは嫌われていたが、それでも事情を知る大人を失ったのはチームとしては大きい。春のチームは関東の南に放出されていたらしく、ガイド無しで本土にむけて筏で出発をする。

 

夏のBチームは長崎に上陸。メンバーの中に関東出身者がいるので、一部はそのまま関東に向かい、残るメンバーが拠点を整えることになる。

 

 ところで、こうした未来に送り込まれたチームには、残された物資があった。それらは「7つの富士」と呼ばれていた。日本各地にある「○○富士」のうちの7つに、物質のシェルターが作られ、そこに種子や道具やハウツー本などが保管されているのである。米や缶詰や調味料などもあるようだが、時間の経過がわからないので、食べて安全かどうかまではわからない。

 

しかもガイドだって「7つの富士」と教えられているだけで、どの○○富士がそれにあたるのかは知らされていない模様。

 

ここで読者として疑問が沸く。そのような物資シェルターを残すなら、冷凍保存とセットで同じ場所にしておけばよかったのでは? 未来においてそこが生存に適さない場所になってしまっていたらという危惧もあるが、バラけてあちこちに設置するなら、7ヶ所は少なすぎないか? 7つの富士の存在をガイドに教えているのなら、場所だって正確に記録を残すべきでは?

 

未来へ送り込まれた若者たちの目的はサバイバルであり、物資を探しての旅になれば本末転倒になるからとガイドからは説明がなされており、ちょっとだけ「なるほど」と思ったのだが、後で冷静に考えるとやはり腑に落ちない。しかし、圧倒的なスケール感と物語の力強さで、そんなことはすぐに忘れるほど物語に引き込まれてしまうのは、さすが田村先生だ。

 

冬のチームは、北海道で目覚める。いきなり3人がミイラになっており、冷凍保存か解凍に失敗したようだ。その後も、狼らしい野生動物に襲われたり寒さに凍えたりで、新巻鷹弘だけになってしまう。彼はたった一人、犬達を連れて7つの富士のひとつ、雌阿寒岳を目指す。冬のチームは、夏のBチームより15年ほど早く地表に放出されたことが後にわかる。

 

 そして、秋のチームは、神戸富士の物資シェルターのある場所に村を築き、定住していた。そこへ、東を目指している夏のBチームの一部が通りかかる。最初は小さいながらも小屋を建て、畑を耕していた十六夜(いざよい)で、秋のチームから追い出されたガイドだった。そのような事態になっているのは、理由があったからだが。

 

 

 

秋のチームの本隊はごく近所で立派な村を造営していた。この世界に放り出されて3年が経過していた。お互い自分達のチーム以外の人間と会うのは初めてである。放浪している夏Bと異なり、定住している秋は外部からの侵入に強い警戒心を抱いており、岩清水ナツが囚われの身となってしまう。助けに行ったはずの青田嵐と浅井蝉丸も縛り上げられる。そこで見たのは、ガイドに代わって稲架秋ヲと猪垣蘭が恐怖政治でチームを支配する様だった。夏Bの3人は「東には物理的に行けない」と聞かされて解放される。彼らが見るのは、フォッサマグナで分断された日本だった。十六夜の協力でなんとか海を渡ることはできたのだが、そこにあったのは砂漠と廃墟だった。

 

神奈川の物資シェルターの近くにいた冬のチーム唯一の生き残り新巻と夏Bチームは顔を会わすが、秋チームとのいざこざで警戒心が強くなっておりすぐに離散、その後さらに新巻は春チームと出会い、今度は合流。15年を生き抜いた実績を持つ新巻が、新参者の春チームに、天候や環境のことを教えるという体で、読者にも未来世界の実態が示される。曰く、四季がなくなり、乾期と雨期に大別されるようになった。雨期にはそれまで地面だったところが池や川になるので、そういうところに畑や家を作ってはいけない。干からびて活動を停止していた恐竜に似た狂暴な動物たちが動き始める、など。雨期は人間にとっても必要な恵みだが、動物にとっても活動期なのである。そして、この世界では人間は捕食連鎖の頂点にはいない。

 

旅を続ける夏Bチームは、仙台付近の地方富士のシェルターにたどり着き、さらに、海から続く洞窟の中で朽ちていないクルーザーを発見した。ようやく文明の残り香を感じることができた。

 

ここで物語は大きく遡る。これまで未登場だった夏のAチームのエピソードになる。夏Aは他のチームとは異なる。最初から優秀な者が集められ、サバイバルエリートを養成するための寄宿舎学校にいれられていた。エリアは閉鎖されており、外部との接触は持てない。ここで厳しい訓練を受け、選抜された7人だけが未来への切符を手に入れる。途中で脱落する者、あるいは学校側から排除される者もいて、ある日突然、学校からいなくなる。外の世界で普通の暮らしをする一般人になるのだとみんなは理解していたのだが、やがて殺処分されるのだと知ることになる。

 

また、7SEEDS計画以外の「人類生き残り」計画も出てくる。日本各地に巨大なシェルターがいくつか作られ、ここでも騙されるようにして招待された人間が中で厄災をやり過ごす。そして、事実を知らされ、当面の間、シェルター内で社会生活を送ることを余儀なくされる。だが、人同士のいざこざや機器のトラブル、想定外の事態などにより、シェルター計画は失敗する。崩壊までのプロセスが詳細に描写される。それは残酷でもあり、美しくもあった。

 

このあとも、人間関係とサバイバルを中心に物語は展開してゆき、最終的には一か所に集まる。そして、生活基盤がどうやら整えられそうだという所で完結。全35巻。その後の話を描いた「外伝」が1冊。外伝でもまだ生活基盤は整っていない。今後、どのようにして行こうかといった役割分担の案が出され、その方向に動き始めたかどうか、というところまでが描かれている。

 

1740