犬猫さんでよく処方されるウルソというお薬についての記事です。
全記事も併せてお読みください。
結論から言うと
犬や猫における有効性を証明した報告は少ない。です。
当院があまりウルソを使わないのはこれが理由です。
もっと詳しく最後の部分に書きます。
あるケースレポートでは特発性慢性肝炎の犬に対してウルソ単独で治療が行われ
7ヶ月の投与で、肝酵素、コレステロール、ビリルビン(要は血液検査の肝臓に関わる値)が低下した。
という報告があります。
他のケースレポートだと、その他薬剤も併せて投与されていて(ウルソ単独ではない)
ウルソ単独の評価をするのは困難です。
アメリカ獣医内科学会でも慢性肝炎に対して使用するコンセンサスが出ています。
慢性肝炎に関しては基礎疾患の治療が最重要ですが
血液検査上あるいは組織学的に胆汁鬱滞所見が強い症例に対しては補助的治療でウルソはアリだということです。
甲状腺機能低下症を伴う胆嚢粘液嚢腫の犬において
甲状腺ホルモン補填とウルソ投与により
胆嚢粘液嚢腫が寛解したという2例の報告があります。
(この報告ではエコー画像を見る限り、胆嚢粘液嚢腫はかなり軽度と思われる)
また、甲状腺ホルモン単独でももしかしたらよくなったかもしれないので
ウルソ単独での評価はできません。
胆嚢粘液嚢腫は診断が微妙で
ポイなーということがよくあります。
無症状だと介入しにくいので、消極的にウルソという方法は一つです。
因みに胆嚢粘液嚢腫に対する早期の外科的介入が
様々な内科的治療と比較して予後良好であるという論文があります。
つまり胆嚢粘液嚢腫に対しては外科>内科?という感じです。
難しいですが。
細菌性胆嚢炎に対する治療として
長期間の抗菌薬投与と併せてウルソによる治療が行われることがあります。
猫の胆管炎・胆管肝炎症候群における大規模研究でも
抗菌薬やその他治療と併せてウルソが使用されています。
併せてなので、ウルソ単独での評価は中々難しいです。
獣医学領域で胆嚢炎、胆管炎に対するウルソの有効性を検討した比較対照研究は存在しません。
人の急性胆嚢炎のガイドラインでは細菌性胆嚢炎においては
胆嚢摘出などで感染源のコントロールをすることの重要性が述べられています。
ここでも外科>内科?的な議論です。
獣医学領域でやられている消極的な内科的治療でかえって治る可能性を削っているかもしれません。
難しい。
人の胆石症ではコレステロール胆石が8割以上です。
状況によってはウルソの有効性が報告されています。
犬の胆石はビリルビン由来でないのでウルソは理論的に有効ではありません。
近年の報告では胆嚢内のみに欠席が認められた症例に対してウルソによる内科的治療を行い
50パーセントで胆石の消失が認められたということです。
(因みにこれは溶解したというよりは結石が十二指腸へ流れたのでは?と推測されます)
医学領域では5mm以下ならウルソ有効と考えられています。
犬でも小型の胆石で総胆管内に結石が認められない個体であれば
ウルソ治療が有効かもしれません。
ここまで読んでいただいてどうでしょうか?
なんだか効くか効かないかわからないんすよね。
しかもそもそも、〜という診断がつくことが少ない。
肝酵素が高い、胆嚢に泥が溜まってる
けど無症状みたいな子にウルソをずっと飲んでもらう必要があるのかないのかという判断は難しいです。
これが当院でウルソをあまり使わない理由です。
ウルソが悪いんじゃなくて、使えれば使うに越したことがないと思います。
しかしながら、投薬コンプライアンスや飼い主様の金銭的心的負担を考えると
どうなんだろうなーと思うわけです。
前提として、適応症例がいれば普通に使用する薬剤です。
薬を使うって難しいですね。