獣医師の動物病院裏ブログ。犬猫さんがモノじゃなくなることを夢みて。

獣医師の動物病院裏ブログ。犬猫さんがモノじゃなくなることを夢みて。

こんにちは。
36歳、2014年卒、開業8年目の獣医です。
日々の徒然を無責任に綴ります。
あくまでも一つの意見としてお受け取りください。

 

ここまで3回にわたって、犬猫の糖尿病について、診断、インスリン療法、

 

そして「インスリンを使っているのにうまくいかないとき」の考え方を整理してきました。

 

最終回では、糖尿病を長く診ていくうえで避けて通れない「合併症」について考えます。

 

糖尿病というと、どうしても血糖値に目が向きますが、糖尿病で本当に問題なのは数字そのものではないことは読んでいただいてたら理解してもらえると思います。

 

高血糖が続くことによって身体に何が起こるのか。

 

そしてインスリン作用が決定的に不足したとき、身体がどのような代謝状態へ追い込まれるのか。

 

そこを理解する必要があります。

 

犬の糖尿病で代表的な慢性合併症が白内障です。

 

今回の資料では、糖尿病と診断された犬の約75%が診断後1年以内に白内障を発症するとされています。

 

そもそも何で糖尿病で目が白くなるのでしょうか。

 

鍵になるのが水晶体内のポリオール経路というやつです。

 

高血糖になると、水晶体内へ流入するグルコースも増加します。

 

グルコースはアルドース還元酵素によってソルビトールへ変換されます。

 

ところがソルビトールは水晶体から外へ出にくいため、内部に蓄積します。

 

すると浸透圧によって水分が水晶体内へ引き込まれ、水晶体線維が膨化・破綻します。

 

その結果、白内障が形成されます。

 

つまり糖尿病性白内障は、

高血糖
→ 水晶体内グルコース増加
→ ソルビトール蓄積
→ 浸透圧上昇
→ 水分流入
→ 水晶体線維障害
→ 白内障
 という流れで起こります。

 

しかも犬では急速に進行することがあります。

 

さらに水晶体蛋白が漏出すると、水晶体誘発性ぶどう膜炎を起こす可能性もあります。

 

したがって糖尿病犬では、「血糖値が高いか」だけではなく、眼科的な変化も長期的に評価する必要があります。

 

猫では犬ほど糖尿病性白内障が臨床問題になりません。

 

この犬猫差には水晶体アルドース還元酵素活性の違いが関係すると言われてます。

 

一方、猫で特徴的なのが糖尿病性ニューロパチーです。

 

高血糖が長期間続くことで末梢神経が障害されます。

 

典型的には、後肢の筋力低下、ジャンプできなくなる、歩幅が小さくなる、そして踵を地面につけて歩く蹠行姿勢などがみられます。

 

糖尿病猫の神経を詳細に調べると、臨床的には明らかな症状がない猫でも神経伝導異常や病理学的変化が認められることがあります。

 

ただし、この神経障害は必ずしも不可逆的ではありません。

 

血糖管理が改善すると、時間をかけて神経症状が改善する猫もいます。

 

糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)は、糖尿病の重篤な急性合併症です。

 

しかしDKAは、「血糖値がものすごく高くなった状態」ではありません。

 

本質はインスリン作用の重大な不足によって、身体のエネルギー代謝そのものが破綻することです。

 

インスリンが足りなくなると、血液中には大量のグルコースが存在しているのに、細胞はそれを十分に利用できません。

 

そこで身体は脂肪を緊急的に分解します。

 

脂肪組織から遊離脂肪酸が放出され、肝臓へ運ばれ、ケトン体へ変換されます。

 

ケトン体そのものは代替エネルギー源ですが、過剰に蓄積すると問題になります。

 

アセト酢酸やβ-ヒドロキシ酪酸などが増加し、身体の緩衝能力を超えると代謝性アシドーシスへ進みます。

 

同時に高血糖による浸透圧利尿によって大量の水分と電解質を失います。

 

つまり、

インスリン作用不足
→ 細胞内飢餓
→ 脂肪分解
→ ケトン体産生
→ 代謝性アシドーシス

 

高血糖
→ 尿糖
→ 浸透圧利尿
→ 脱水・電解質喪失
 が重なります。

 

だからDKAの犬猫では、全身状態が大きく崩れます。めちゃくちゃ緊急疾患です。

 

救急医療、集中治療が必要な病態です。

 

DKAを起こした犬猫では、糖尿病だけを治療しても不十分なことがあります。

 

なぜなら、DKAの背景に別の病気が隠れていることが多いからです。

 

感染症、膵炎、炎症性疾患、クッシング症候群、その他の併発疾患などなど。

 

こうした病態ではコルチゾール、カテコラミン、グルカゴン、成長ホルモンなどのインスリン拮抗ホルモンが増加します。

 

すると、それまで使っていたインスリン量では足りなくなるわけです。

 

つまり、「毎日インスリンを打っていたのにDKAになった」ということもあり得ます。

 

DKA治療では、輸液、インスリン、電解質補正などと同時に、DKAを引き起こした原因を探すことが重要です。

 

もう一つの重篤な急性合併症が、高浸透圧高血糖状態(hyperosmolar hyperglycemic state:HHS)です。

 

HHSでは極端な高血糖と高浸透圧、重度脱水が中心になります。

 

DKAとの大きな違いは、ある程度のインスリン作用が残っていると考えられていることです。

 

そのため脂肪分解やケトン体産生はある程度抑制され、DKAほど強いケトアシドーシスを起こさないことがあります。

 

まあいいとして、これも普通に死んじゃう病態です。

 

教科書的な理解であれば、DKAは「ケトン体とアシドーシス」が大きな問題でHHSは「高浸透圧と重度脱水」が大きな問題と整理すると分かりやすいと思います。

 

ただし実際の患者では両者が完全に分かれるわけではなく、中間的な病態も存在しますし、とにかくヤバい状態なので、こうならないように先手を取って管理するのが大事です。

 

僕はゲームが好きでして、全てのゲームの中で一番好きなのはメタルギアソリッドというやつです。

 

メタルギア4の冒頭で「戦争は変わった」という描写から始まるのですが、最高ですね。

 

去年は小島監督のデススト2がありましたが、今年はそういう楽しみがなくて残念です。

 

 

 

 

 

猫の糖尿病治療は大きく変わったと去年くらいかな、話題になりました。

 

新しい薬が出たからですね。

 

 

正直、そうでもないですよ。

 

ちゃんと理解しない方が、適当に使うから、気の毒な猫も増えている印象です。

 

従来、糖尿病=インスリン注射が基本でした。

 

ここ最近は、適切に選択された猫ではSGLT2阻害薬という選択肢があります。

 

SGLT2は腎臓の近位尿細管に存在し、原尿中のグルコースを血液へ戻す輸送体です。

 

SGLT2阻害薬は、この再吸収を阻害します。

 

するとグルコースは尿中へ排泄されます。

 

つまり、インスリンを増やして血糖を下げるのではなく、糖を尿へ捨てることで血糖値を下げる薬です。

 

前向き多施設研究では252頭の糖尿病猫にベラグリフロジンが投与され、180日まで評価されています。

 

SGLT2阻害薬によって、猫の糖尿病治療に「注射を使わない」という新しい選択肢が生まれました。

 

ただし、使える猫をきちんと選ぶことが極めて重要です。

 

SGLT2阻害薬を使用するとき、絶対に知っておきたいのが正常血糖DKA(euglycemic DKA:eDKA)です。

 

上述したとおり、通常DKAと聞けば、著しい高血糖を想像します。

 

ところがSGLT2阻害薬を使用すると、余分なグルコースが尿中へ排泄されます。

 

そのため血糖値だけを見ると、それほど高くないことがあります。

 

しかし、インスリン作用が不足していれば、身体の中では脂肪分解とケトン体産生が進んでいる可能性があります。

 

つまり、血糖値はそれほど高くないけどもケトン体は増えている。そしてアシドーシスになっている。という事故が起きます。

 

だからSGLT2阻害薬を使用している猫では、「血糖値が正常だからDKAではない」という従来の感覚は通用しません。

 

2026年AAHAガイドラインでも、SGLT2阻害薬使用猫では血糖値だけではなく、臨床徴候とケトン体の評価が非常に重要とされています。

 

一昨日もセカオピの子が、蛋白尿も検査されずにテルミサルタン飲まされてましたが、「腎臓の」「心臓の」薬という一義的な理解で処方できるなら、医者なんかいらないわけです。

 

営業さんに言われるままに、それをやっちゃうのは本当によくわからんですね。

 

ちなみに猫の糖尿病には「寛解」という可能性もあるんです。

 

 

猫では高血糖そのものが膵β細胞を障害する「糖毒性」が病態をさらに悪化させます。

 

しかし早期に血糖を改善し、糖毒性を解除すると、残存しているβ細胞機能が回復することがあります。

 

すると内因性インスリン分泌が改善し、外からインスリンを投与しなくても血糖を維持できるようになる猫がいます。

 

だから猫では治療中、「インスリンが効かなくなった」だけでなく、「以前より効きすぎるようになった」ことにも注意します。

 

ちなみに、寛解は「二度と糖尿病にならない」という意味ではありません。

 

肥満、膵炎、グルココルチコイド投与などによって再び糖尿病が顕在化することがあります。

 

話題を変えて、糖尿病治療で飼い主さんが最も迷う問題を挙げてきましょうか。

 

「朝ごはんを半分しか食べませんでした。いつものインスリンを打っていいですか?」

 

うーんアルアル。

 

結論から言うと、すべての犬猫へ共通する答えはありません。

 

インスリン製剤、普段の投与量、その日の血糖値、食事量、基礎疾患、これまでの血糖曲線なんかによって変わるからです。

 

その患者さん専用のルールをあらかじめ作るという考え方が重要です。

 

重要なのは、飼い主さんが毎回自己判断しなくて済むように、

「全部食べたら何単位」

「半分ならどうする」

「全く食べなければどうする」

「何が起きたら病院へ連絡する」を事前に決めておくことです。

 

じゃあ糖尿病の「良いコントロール」とは何なんでしょうね。

 

もちろん治療の目標は血糖値の完全な正常化ではありません。

 

目標は、

多飲多尿などの臨床徴候を改善すること。

適正な体重を維持すること。

低血糖を避けること。

DKAなどの重篤な合併症を防ぐこと。

そして何より、

犬猫と飼い主さんのQOLを維持することです。

 

例えば血糖曲線を見ると、一日の中で200 mg/dL、250 mg/dLという時間帯が残っているかもしれません。

 

それでも、多飲多尿がなく、体重が安定し、食欲・活動性も良好で、危険な低血糖もないなら、その犬猫にとっては、それが十分良好なコントロールである可能性があります。

 

反対に、「血糖値をもっときれいにしたい」とインスリンを増量し、夜間に低血糖を繰り返しているのであれば、数字はきれいでも良い治療とは言えません。

 

ああ、ちなみにフルクトサミンも同じですよ。

 

数週間程度の血糖状態を推測できる非常に便利な検査ですが、「この値だから良好」「この値だからインスリンを増やす」と単独で判断するものではありません。

 

低蛋白血症や蛋白喪失性疾患、甲状腺機能亢進症などによって値が影響を受ける可能性がありますし。

 

 

FreeStyle LibreなどのCGMは、糖尿病診療を大きく変えました。

 

 

でもいつまでつけときゃいいんでしょうかね?

 

これも飼い主さんからの質問あるあるです。

 

特に、治療導入直後、インスリン量の調節中、インスリン製剤を変更したとき、低血糖が疑われるとき、猫で寛解が疑われるとき、

臨床徴候と血糖値が一致しないとき、には非常に有用です。

 

一方で、安定した犬猫に永久に装着し続けなければならないわけではありません。

 

糖尿病が安定してくれば、臨床徴候や体重を中心に、必要に応じて血糖値、フルクトサミン、CGMなどを組み合わせて評価できます。

 

むしろCGMには、「数字が見えすぎる」というデメリット的な側面もあります。

 

知らないほうがいいこともあるわけです。

 

細かな変動を見るたびにインスリン量を変更してしまうと、治療が不安定になります。

 

血糖値は食事、運動、ストレス、インスリン吸収などによって日々変動します。

 

だから一点の数字ではなく、数日間のパターンと患者の状態を見ることが重要です。

 

ほかの病気もそうなんですが、糖尿ではその側面が強くでます。

 

飼い主さんの協力が必要だと言うことです。

 

動物病院で治療している時間より、家庭で治療している時間の方が圧倒的に長いからです。

 

だから、医学的に理想的な治療法であっても、家庭で継続できなければ良い治療とは言えません。

 

投与時刻をどこまで固定できるのか。

 

朝晩の注射を誰が担当するのか。

 

食事をどうするのか。

 

出張や旅行のときはどうするのか。

 

食べなかったときはどうするのか。

 

インスリンを打ったか分からなくなったときはどうするのか。

 

こうしたことまで最初から相談しておく必要があります。

 

糖尿病治療とは、その家庭で長期間実行できるシステムを一緒に作ることでもありますね。

 

動物病院がいかに寄り添えるかも大事だと思います。

 

第4回は3回までの復習に終始しましたが、何回も読むと覚えるので、こう言うやり方もありかなと思った次第です。

 

では。

 

 

第2回では、犬猫の糖尿病におけるインスリン療法について、インスリンの種類や投与量そのものよりも、

 

「その子の体内でどのように効いているのか」を評価することが重要だとお話ししました。

 

では、適切と思われるインスリンを使用し、少しずつ投与量を調整している。

 

それでも多飲多尿が続き、体重も増えず、血糖値も高いままという場合にはどうすればよいのでしょうか。

 

ここで「まだインスリンが足りない」と考えて投与量を増やし続けるのは危険なのは想像つくと思います。

 

糖尿病の管理がうまくいかない背景には、単純なインスリン不足だけではなく、インスリンの投与方法、作用時間、食事、併発疾患、内分泌疾患、薬剤など、さまざまな原因が隠れています。

 

今回は、糖尿病治療が思うように進まないときに、獣医師がどのように原因を整理していくのかを解説します。

 

まず「インスリン抵抗性」とは何ぞやという話を説明しましょうね。

 

インスリンを投与しているのに十分な効果が得られない状態では、「インスリン抵抗性」を考えます。

 

ただし、インスリンの必要量が少し多いだけでインスリン抵抗性と判断するわけではありません。

 

一般には1回のインスリン投与量が1.0 U/kg以下で良好な血糖コントロールが得られることが多く、

 

1回量が1.5 U/kgを超えても血糖値が持続的に270~300 mg/dLを超える、あるいは多飲多尿や体重減少などの臨床徴候が改善しない場合には、インスリン抵抗性を引き起こす基礎疾患や薬剤について調べるべきとされています。

 

ここで大切なのは、「インスリンの量が多い=インスリン抵抗性」ではなく、「かなりの量を投与しているのに、期待した生物学的効果が得られていない」という点です。

 

そして、その原因を探す前に確認しなければならないことがあります。

 

最初に確認するのは、もっと基本的なことです。

 

インスリン抵抗性を疑ったとき、いきなりクッシング症候群や高ソマトトロピン血症の検査を始めるわけではありません。

 

まず確認するのは、インスリンそのものです。

 

インスリンの種類は適切か。保管方法に問題はないか。使用期限は切れていないか。

 

濃度の違う製剤とシリンジを取り違えていないか。飼い主さんが実際に正しく注射できているか。

 

皮下ではなく被毛の上に漏れていないか。家族の誰かが二重に投与していないか。食事の内容や時間は一定か。

 

こうしたことを一つずつ確認します。

 

非常に基本的な話に聞こえますが、糖尿病は毎日、家庭で治療する疾患です。

 

病院で処方した治療計画が正しくても、自宅で同じように再現されていなければ血糖値は安定しません。

 

結構この辺を整理してくと、何だそんなことだったのかということも多いですよ。

 

第2回でも触れましたが、血糖コントロール不良=インスリン量不足とは限りません。

 

血糖曲線を作成すると、血糖最低値は十分に下がっているにもかかわらず、その後すぐに血糖値が上昇していることがあります。

 

この場合は、インスリンの量ではなく作用時間が短い可能性があります。

 

一般的な診断アルゴリズムでも、血糖コントロールが不良な場合には血糖曲線や持続血糖測定を行い、作用時間が短い場合には長時間作用型インスリンへの変更を検討する流れになっています。

 

それでも効かないなら、基礎疾患を探すしかないですね。

 

インスリンの種類、投与量、注射方法、食事などに大きな問題がない。それでも血糖コントロールが改善しないという段階で初めて、インスリン抵抗性を引き起こす基礎疾患を本格的に探していきます。

 

犬と猫に共通して、炎症性疾患、感染症、腎疾患、心疾患などがインスリン抵抗性の原因として挙げられています。

 

さらに犬では、クッシング症候群、発情・妊娠に関連するプロジェステロン、甲状腺機能低下症など。

 

猫では、膵炎、高ソマトトロピン血症、甲状腺機能亢進症などが重要になります。

 

この前坂口先生が高ソマトトロピン血症の治療をしていましたね。すげーなと思いました。

 

薬剤としてはグルココルチコイド(ステロイド)、プロジェスチンなどもインスリン抵抗性を悪化させます。

 

犬の糖尿病で重要な併発疾患の一つがクッシング症候群、すなわち副腎皮質機能亢進症です。

 

グルココルチコイドにはインスリン抵抗性を生じさせる作用があります。

 

そのため、クッシング症候群によって慢性的にコルチゾールが過剰になると、インスリンを投与しても血糖値が下がりにくくなることがあります。

 

ただし、クッシング症候群を治療すれば必ず糖尿病が劇的に改善する、という単純な話でもありません。

 

犬の実験的研究でグルココルチコイドを4週間投与してもインスリン分泌量や血糖値に明らかな変化が認められなかった報告がある一方、回顧的研究ではグルココルチコイド投与によって糖尿病発症リスクが約4倍に上昇したという報告も紹介されています。

 

つまり、グルココルチコイドだけで糖尿病が決まるのではなく、もともとの糖尿病素因に、内因性あるいは外因性のグルココルチコイド作用が加わることでインスリン抵抗性が強まり、糖尿病が表面化する可能性が考えられます。

 

ステロイドを適当に使用しているのはやっぱ良くないですね。

 

実際の診療では、糖尿病犬でインスリン必要量が多い、多飲多尿が改善しない、皮膚や被毛、腹囲などクッシング症候群を疑わせる所見がある、といった場合には併発を検討します。

 

猫では高ソマトトロピン血症(hypersomatotropism:HST)が非常に重要です。

 

下垂体前葉のGH分泌細胞の過形成や腺腫によって成長ホルモン(GH)が過剰に分泌される疾患で、GHには強いインスリン抵抗性作用があります。

 

以前は、巨大な体格、顔貌の変化、四肢末端の肥大など「先端巨大症らしい猫」を見つけて診断する病気というイメージがありました。

 

ところが現在では、それほど典型的な外見を示さない糖尿病猫にもHSTがかなり存在することが分かってきています。

 

糖尿病猫を対象にIGF-1を測定した研究でHSTの罹患率が約25%に達したことが紹介されています。

 

さらに興味深いのは、最終的にHSTと診断された猫について、提出した臨床医が事前にHSTを強く疑っていた割合がわずか24%だったという点です。

 

これをちゃんと探し出した坂口先生はすごいです。

 

HSTのスクリーニングにはIGF-1が利用されます。

 

IGF-1が1,000 ng/mL以上の場合、HST陽性の中率は約95%とされていますが、注意点があります。

 

IGF-1はGH刺激によって肝臓で産生されますが、その産生にはインスリンも関係しています。

 

糖尿病の診断直後でインスリン不足が強い猫では、実際にはGHが過剰であってもIGF-1が十分に上昇しない可能性があります。

 

したがって、HSTが疑わしいにもかかわらずIGF-1が1,000 ng/mL未満だった場合には、数週間インスリン治療を行った後に再検査することが推奨されています。

 

一方、GHそのものはパルス状に分泌されるため、単回測定では診断感度が低く、HSTのスクリーニングには適しません。

 

犬では、発情や妊娠に伴うプロジェステロンもインスリン抵抗性に関与します。

 

犬ではプロジェステロンそのもの、あるいはプロジェステロンによって乳腺から誘導される成長ホルモンがインスリン抵抗性を生じさせます。

 

正常犬では1~2 U/kg程度のインスリン量に対し、GHが高値を示す犬では高血糖を是正するために平均4.9 U/kgものインスリンを必要としたという報告も紹介されています。

 

特に未避妊雌犬で糖尿病を発症した場合、これは非常に重要です。

 

子宮卵巣摘出術によってインスリン治療が不要になった症例も報告されており、1983年の報告で、手術を受けた21頭中14頭がインスリン治療を中止できたとされています。

 

妊娠に伴う糖尿病でも強いインスリン抵抗性が生じることがあります。

 

そして高血糖が長期間持続すると、膵β細胞そのものが糖毒性によって不可逆的な障害を受ける可能性があります。

 

したがって、こうした症例では原因への早期介入が重要です。

 

ところで、「糖尿病だからステロイドは絶対禁止」なのかは実際の臨床で悩むところです。

 

糖尿病の犬猫では、原則としてグルココルチコイドはできるだけ避けたい薬です。

 

インスリン抵抗性を悪化させ、血糖コントロールを難しくするからです。

 

しかし、糖尿病だからという理由だけでグルココルチコイドが絶対禁忌になるわけではありません。

 

例えば、副腎皮質機能低下症ではグルココルチコイドの補充が必要です。

 

免疫介在性疾患や重度の炎症性疾患など、治療上どうしても必要になる場合もあります。

 

今回の資料では、糖尿病を併発した副腎皮質機能低下症に対して、プレドニゾロンの経口投与とピバル酸デソキシコルチコステロンによって両疾患を良好に管理できた報告も紹介されています。

 

したがって重要なのは、「糖尿病だから使わない」ではなく、「本当に必要なのか。代替薬はないのか。必要なら最小限の量・期間で使い、血糖をどう監視するのか」という判断です。

 

糖尿病症例でグルココルチコイドを必要とする疾患について、代替治療の例も示されています。

 

アトピー性皮膚炎であればオクラシチニブ、シクロスポリン、局所ステロイド。

 

免疫介在性疾患ではシクロスポリンや局所タクロリムスなど。

 

炎症性腸疾患ではシクロスポリン、クロラムブシル、ブデソニド、食事管理。

 

慢性気管支炎では吸入グルココルチコイドやNSAIDs。

 

ぶどう膜炎では点眼グルココルチコイド。

 

つまり、全身性のグルココルチコイド曝露をできるだけ減らしながら、基礎疾患を治療する方法を検討します。

 

ただし代替薬にもそれぞれ適応と副作用がありますので、「ステロイドより安全だから置き換える」という単純な判断ではありませ

ん。

 

それでもどうしてもステロイドが必要なら「血糖を見ながら使う」しかないですね。

 

例えばアトピー性皮膚炎の急性増悪や免疫介在性疾患などで、経口グルココルチコイドを避けられない場合があります。

 

この場合は、使用するグルココルチコイドの用量や期間に応じて血糖モニタリングを行います。

 

そして減量についても注意が必要です。

 

非糖尿病症例では隔日投与へ移行することがありますが、糖尿病症例では隔日投与によって日ごとのインスリン必要量が大きく変化する可能性があります。

 

そのため、糖尿病症例では毎日の血糖値への影響を考慮し、毎日投与のまま漸減した方が望ましい場合があるとされています。

 

ここでも「薬の教科書的な減らし方」ではなく、糖尿病という背景を含めて考える必要があります。

 

糖尿病治療中に食欲が落ちたら、単なる好き嫌いと考えないことも大事です。

 

糖尿病の犬猫で突然食欲が落ちた場合、インスリンをどうするかという問題だけでなく、「なぜ食べなくなったのか」を考えることが重要です。

 

炎症性腸疾患、膵炎、尿路感染症などの併発疾患、さらに糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)による食欲不振などを常に警戒する必要があるとされています。

 

特に膵炎は糖尿病との関係が深い疾患です。

 

犬猫の糖尿病における潜在因子として膵炎が挙げられており、猫では糖尿病に膵炎が併発していることもあります。

 

犬では白内障、猫ではニューロパチーは重要です。

 

糖尿病を長期管理するうえでは、血糖値だけでなく合併症にも注意します。

 

犬で特に重要なのが糖尿病性白内障です。

 

今回の資料では、糖尿病と診断されてから約1年で、およそ75%の犬が白内障を発症するとされています。

 

犬の水晶体に取り込まれたグルコースはアルドース還元酵素によってソルビトールへ変換されます。

 

犬では高齢になってもこの酵素活性が比較的高く、ソルビトールが水晶体内に蓄積します。

 

すると浸透圧が上昇して水分が流入し、水晶体線維の膨化・破綻が生じ、不可逆的な白内障へ進行します。

 

進行が急速な場合には、水晶体破裂や続発性ぶどう膜炎を起こす可能性もあります。

 

一方、猫では糖尿病性白内障は犬ほど一般的ではありません。

 

糖尿病猫50頭中48頭、96%で白内障が確認されたという報告も紹介されていますが、多くは臨床的な視覚障害を起こすような白内障ではなく、犬とは事情が異なります。

 

猫では水晶体のアルドース還元酵素活性が加齢とともに大きく低下するため、犬ほど急速なソルビトール蓄積が起こりにくいと考えられています。

 

むしろ若齢で糖尿病を発症した猫では酵素活性が比較的高いため、白内障を生じやすくなる可能性があります。

 

そして猫で、より臨床的に意識しておきたい合併症が糖尿病性ニューロパチーです。

 

糖尿病猫では末梢神経障害によって後肢の筋力が低下し、歩幅が狭くなったり、飛び上がれなくなったりします。

 

典型的には、本来なら指先で立つ猫が踵を地面につけて歩く、いわゆる「蹠行姿勢」がみられます。

 

電子顕微鏡を用いた研究では、糖尿病猫の約90%に何らかの神経異常が確認されたという報告もあります。

 

神経伝導速度は低下し、その程度は前肢より後肢で強い傾向があります。

 

ただし、ここは飼い主さんにとって重要なところですが、糖尿病性ニューロパチーは必ずしも不可逆的ではありません。

 

適切なインスリン療法などによって糖尿病をコントロールすると、神経症状が改善する症例も少なくありません。

 

したがって、糖尿病の猫が「最近ジャンプしなくなった」「後ろ足が弱くなった」「歩き方がおかしい」という場合、それを単純に年齢のせいと考えないことが重要です。

 

糖尿病の管理が崩れたとき、最も重要な急性合併症の一つが糖尿病性ケトアシドーシス、DKAです。

 

DKAは、単に「ものすごく血糖値が高くなった状態」ではありません。

 

糖尿病の診断基準を満たしたうえで、尿中または血液中にケトン体が検出され、さらに血液pHが7.35未満となるアシドーシスを伴う状態として説明されています。

 

なぜ糖尿病からケトン体が作られるのでしょうか。

 

インスリンが不足すると、血液中にはグルコースがたくさん存在しているにもかかわらず、細胞はそれを十分に利用できません。

 

つまり、体の中には糖があるのに、細胞から見ると「飢餓状態」になります。

 

すると体は代替エネルギー源として脂肪を分解します。脂肪組織から遊離脂肪酸が動員され、それが肝臓へ運ばれてケトン体へ変換されます。

 

通常、インスリンには脂肪分解を抑える作用があります。しかしインスリン欠乏状態ではそのブレーキが外れ、脂肪分解とケトン体産生が進みます。

 

さらにケトン体が体内の緩衝能力を超えて蓄積すると、代謝性アシドーシスへ進行します。

 

高血糖による浸透圧利尿も同時に起きていますから、水分と電解質が失われ、脱水、循環不全、電解質異常が重なります。

 

その結果、食欲不振、嘔吐、下痢、元気消失、脱水、体重減少などが現れ、重症化すればショックに至ります。

 

インスリンを打っていてもDKAになることがあることも非常に重要です。

 

「毎日インスリンを打っているからDKAにはならない」とは限りません。

 

DKAは絶対的なインスリン欠乏だけではなく、相対的なインスリン不足にインスリン抵抗性が加わっても発症します。

 

DKAを発症した犬猫のうち、約半数にDKAの診断と同時に併発疾患が認められたとされています。

 

犬では炎症性腸疾患、肝リピドーシスや増殖性肝炎などの肝胆道疾患、クッシング症候群などが併発疾患として報告されています。

 

猫でも膵炎をはじめとした炎症性疾患や感染症などが問題になります。

 

こうした疾患が存在すると、グルカゴン、カテコラミン、コルチゾール、成長ホルモンなどのインスリン拮抗ホルモンが増加します。

 

するとインスリンを投与していても十分に作用できず、脂肪分解とケトン体産生が進んでしまうことがあります。

 

さらに現在、猫の糖尿病ではもう一つ注意しなければならないことがあります。

 

SGLT2阻害薬です。

 

 

SGLT2は腎臓の近位尿細管で、原尿中のグルコースを再吸収する輸送体です。

 

SGLT2阻害薬はこの再吸収を抑えることで、グルコースを尿中へ排泄させ、血糖値を低下させます。

 

猫ではベラグリフロジンなどが使用可能になり、インスリン注射を必要としない糖尿病治療という新しい選択肢が登場しました。

 

一方で、この治療には従来の糖尿病管理とは異なる注意点があります。

 

正常血糖DKA(euglycemic DKA:eDKA)です。

 

SGLT2阻害薬を使用していると、尿中へのグルコース排泄によって血糖値そのものはそれほど高くならないことがあります。

 

しかし、膵β細胞機能が不十分でインスリン作用が足りていなければ、体内では脂肪分解とケトン体産生が進行することがあります。

 

つまり、「血糖値はそれほど高くないのにDKA」ということが起こり得ますので「DKA=著しい高血糖」という感覚だけで診療すると見逃す可能性があります。

 

SGLT2阻害薬を使用する猫について、元気・食欲が良好で、嘔吐や下痢がなく、ケトン体陰性であることが重要とされています。

 

逆に、食欲が落ちたとか、元気がないとか、嘔吐したとか、下痢をしているとか、脱水しているみたいな何かしら不調のある猫では、単に「血糖値はそれほど高くないから大丈夫」と判断してはいけません。

 

血中あるいは尿中ケトン体を評価し、eDKAの可能性を考える必要があります。

 

特に投与開始後の早期は注意が必要です。

 

提示された資料では、SGLT2阻害薬を使用した猫で発生したDKAの多くが導入後14日以内に認められており、開始後1~2週間は頻回のケトン体測定による監視が推奨されています。

 

ここまでを整理すると、糖尿病診療では血糖値だけを見ていると危険だということが分かります。

 

従来型のDKAでは、インスリン不足による高血糖、脂肪分解、ケトン体産生、アシドーシスが同時進行します。

 

一方、SGLT2阻害薬使用中では尿糖排泄によって血糖値だけが低く見えることがあります。

 

ですから現在の糖尿病診療では、血糖値だけではなく、「その子がどういう状態なのか」を見ることが以前にも増して重要になっています。

 

 

 

 

今回は治療の中心となるインスリン療法についてです。

 

糖尿病治療というと、「インスリンを何単位打てばいいのか」という話になりがちです。

 

しかし実際の診療で重要なのは、単位数そのものではありません。

 

そのインスリンが、どのくらい血糖値を下げ、何時間作用し、次の投与まで効果が続いているのかというものをここの症例に対してきちんと考慮すべきです。

 

だから、糖尿の治療はめんどくさいんです。僕は嫌いですね。

 

インスリン製剤は作用時間によって、速効型、中間型、持効型などに分類されます。

 

速効型インスリンは主に糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のような緊急時に使用され、通常の長期管理には中間型あるいは持効型インスリンを使用します。

 

代表的な選択肢として、犬ではNPHインスリン、PZI(プロタミン亜鉛インスリン)、インスリングラルギン、インスリンデテミルなど、

 

猫ではPZI、グラルギン、デテミル、グラルギン300 U/mLなどがあります。

 

ただし、「この犬種ならこれ」「猫なら必ずこれ」というほど単純ではありません。

 

同じインスリンでも作用時間には大きな個体差があります。

 

特に猫では、グラルギンとデテミルを比較しても個体によって作用の強さや持続時間にかなりばらつきがあります。

 

したがって、製剤名だけで治療を決めるのではなく、実際にその個体でどう作用しているかを確認する必要があります。

 

開始量については、一般に犬猫とも0.25~0.5 U/kg程度、1日2回から開始することが多いとされています。

 

ただし、これはあくまで教科書的で、特に注意したいのが犬のデテミルです。

 

犬では他のインスリンより作用が強く出るため、0.1 U/kg程度という、より低用量からの開始が推奨されています。

 

糖尿病治療では「効かなければ増やせばよい」と考えたくなりますが、インスリンは多すぎれば低血糖を起こす薬です。

 

したがって、最初から強く攻めるより、モニタリングしながら慎重に調節していく方が安全です。

 

インスリン治療で非常に重要なのが「血糖曲線」です。

 

例えば、朝の血糖値が300 mg/dLだったとします。

 

この数字だけを見ると、「インスリンが足りない」と思うかもしれません。

 

しかし実際には、夜中には80 mg/dLまで低下していて、朝になるころにはインスリンの作用が切れて300 mg/dLまで上昇しているのかもしれません。

 

逆に、一日中250~350 mg/dL程度を推移している可能性もあります。

 

同じ「300 mg/dL」でも、意味はまったく違います。

 

そのためインスリン療法では、血糖値が最も低くなる時間帯、つまり血糖最低値と、そこまでどのように低下し、その後どのように上昇していくのかを見る必要があります。

 

一般的な目安として血糖最低値を犬で90~150 mg/dL、猫で80~100 mg/dL程度としています。

 

ただし、この数字を絶対的なゴールとして追いかけるわけではありません。

 

低血糖を避けながら、多飲多尿、体重減少、食欲異常などの臨床徴候を改善することの方が重要です。

 

血糖曲線を評価するときには、血糖値がどこまで下がったかが非常に重要です。

 

血糖最低値が150 mg/dLを超え、さらに多飲多尿や体重減少などが残っている場合には、インスリン増量を検討します。

 

一方、80~150 mg/dL程度まで低下していて臨床徴候も改善しているのであれば、基本的にはその治療を継続します。

 

そして80 mg/dL未満まで低下している場合には、インスリンを減量します。

 

重要なのは、「高い時間帯があるから増量する」のではないことです。

 

例えば朝300 mg/dL、夜300 mg/dLでも、その間に60 mg/dLまで低下していたとしたら、そこでさらにインスリンを増やすのは危険です。

 

血糖値の最高値ではなく、まず最低値を見るということは、インスリン調節の非常に重要な原則です。

 

血糖最低値が適切でも、次のインスリン投与前に血糖値が大きく上昇してしまうことがあります。

 

これは単純な「インスリン不足」ではなく、作用時間が短すぎる可能性があります。

 

逆に、次の投与時間になっても血糖値が低いままであれば、そのインスリンの作用時間が長すぎる可能性があります。

 

つまり血糖曲線からは、「量が足りないのか」「量が多すぎるのか」だけではなく、「このインスリンの作用時間がこの子に合っているのか」まで評価します。

 

作用時間が合っていないのであれば、単純に投与量を増減するだけではなく、インスリン製剤そのものを変更した方がよい場合があります。

 

ここで非常に有用なのが、持続血糖モニタリングです。

 

フリースタイルリブレ2というのを僕は使います。

 

皮下にセンサーを装着し、間質液中のグルコース濃度を連続的に測定することで、自宅での一日の血糖変動を把握できます。

 

従来の血糖曲線では、数時間おきに採血しなければなりませんでした。

 

しかも猫では、病院にいること自体がストレスとなり、血糖値が上昇することがあります。

 

リブレを使用すると、自宅で寝ているとき、食事をしたあと、インスリンを打ったあと、夜間などの血糖変動まで確認できます。

 

例えば、僕が見たことのある猫さんだと、昼間は比較的血糖値が低く、夜間になると上昇するパターンが確認できていました。

 

これは病院で数回採血しただけでは、なかなか把握できませんよね?

 

特にインスリン導入直後や用量調節期には、持続血糖モニタリングは非常に有用です。

 

便利な一方で、注意点もあります。

 

リブレが測定しているのは血液そのものではなく、皮下の間質液中のグルコースです。

 

そのため、血糖値と完全に一致するわけではありません。

 

特に血糖値が急激に変化している場面では、実際の血糖値との間に時間的なずれが生じることがあります。

 

犬猫におけるFreeStyle Libre 2について、測定精度には限界があり、臨床判断をすべてセンサー値だけに依存するべきではないことも指摘されています。

 

特に低血糖が疑われる場合や、センサー値と動物の状態が一致しない場合には、血液を用いた血糖測定で確認することが重要です。

 

さらにセンサーは途中で外れることがあります。

 

どう工夫しても無理な子がいらっしゃいまして、何回も装着した例が最近でもありますね。

 

犬猫では背中や体幹に装着することが多いのですが、皮膚の動き、擦れ、皮脂、掻く・舐めるといった行動によって予定より早く脱落することがあります。

 

装着部位によって測定値が多少変化する可能性も報告されています。

 

したがって、リブレは非常に便利な道具ですが、「絶対的な血糖測定装置」というより、血糖変動のパターンを把握するための強力な補助ツールと考えるのがよいでしょう。

 

長期的な血糖管理にはフルクトサミンも使用されます。

 

糖尿病が良好に管理されればフルクトサミンは低下する傾向があり、犬猫とも臨床的な糖尿病コントロールとの関連が報告されています。

 

しかし、ここでも注意が必要です。

 

フルクトサミンには個体差があり、良好管理群と不良管理群の値にはかなりの重なりがあります。

 

また、低蛋白血症、甲状腺疾患などによって値が影響を受ける可能性があります。

 

したがって、「フルクトサミンが高いからインスリンを増やす」という判断は危険です。

 

多飲多尿はどうか。体重はどうか。食欲はどうか。血糖最低値はどこまで下がっているか。低血糖は起きていないかなどを確認したうえで、フルクトサミンを補助的に使用します。

 

糖尿病という病気は、どうしても高血糖を下げたくなります。

 

しかしインスリン治療中に、より急性に危険になり得るのは低血糖です。

 

そのため、インスリン治療の目的は血糖値を可能な限り低くすることではありません。

 

project ALIVEの考え方でも、治療目標は単なる数値の正常化ではなく、臨床徴候を改善し、低血糖やDKAを防ぎ、適正体重を維持しながら、犬猫と飼い主さんのQOLを保つことにあるとされています。

 

これはとても重要な考え方です。

 

多少血糖値が高い時間帯があったとしても、多飲多尿が改善し、体重が安定し、元気に生活でき、危険な低血糖がないのであれば、それは十分に意味のある治療です。

 

逆に「血糖値をきれいにしたい」という理由でインスリンを増量し、低血糖を繰り返す方が問題です。

 

僕は最近だと300くらいの血糖値で安定していて、生活の質がグンと上がった子をみています。

 

「ごはんを食べなかった。インスリンはどうする?」というアルアルな問題について考えてみましょう。

 

実際の糖尿病管理では、こうした問題が頻繁に起こります。

 

食事量が少なかった場合、理論的には食べた量に応じてインスリンを減らすこともできます。

 

しかし、基礎インスリンと食事に対応するインスリンを明確に分離できるわけではなく、個体差も大きいため単純ではありません。

 

重要なのは、「食べていないのに、いつも通り打ってしまう」ことを機械的に続けないことです。

 

一方で、インスリンを完全に中止することにも高血糖やDKAのリスクがあります。

 

つまり「食べなかったら必ず半量」「必ず中止」という一律のルールではなく、

 

その動物のインスリン製剤、普段の血糖値、食事量、併発疾患などを考慮して、あらかじめ主治医と対応を決めておくことが重要です。

 

例えば「80~100%食べたら3 U、50~80%なら2 U、20~50%なら1 U、全く食べなければ打たずに様子を見る」といった感じです。

(これはあくまで個々の症例に合わせて作成する指示の例です。すべての糖尿病犬猫にそのまま当てはめるものではありません。)

 

このような「家で迷ったときのルール」を事前に決めておくことは、実際にはインスリンの種類を選ぶことと同じくらい重要です。

 

次回、第3回ではここから一段難しいところへ進みます。

 

「インスリンを増やしているのに血糖値が下がらない」場合です。

 

単純な投与量不足だけではなく、注射手技、食事、インスリンの作用時間、クッシング症候群、膵炎、感染症、猫の高ソマトトロピン血症など、糖尿病管理を難しくする原因をどう探していくのかなんかをまとめてみます。

 

では。