さてそろそろ食傷気味なので、皮膚科学会ネタも終わりにします。
僕は軟部外科、歯科、皮膚科、中医学、行動学についてをメインに勉強してます。
ブログネタとして一般的な内科なんかも資料を通読はしますが、全然興味はないです。
おそらく普通の臨床医の8割は勉強してないでしょうから、もしかしたらそれより詳しいかもしれませんが
それこそ大山院長や福間先生や陶山先生なんかは専門的な内容についてはバチクソ詳しいので
僕の基準はそういう基準です。
上には上がいますので、あくまで謙虚に。
犬猫の掻痒性皮膚疾患では、ステロイド、シクロスポリン、JAK阻害薬、抗IL-31抗体など、
免疫・炎症反応を標的とした治療が広く用いられている。
しかし、掻痒は単に炎症性サイトカインが増加することで生じる症状ではない。
皮膚で発生した刺激が末梢感覚神経に伝わり、脊髄や中枢神経系で処理されることで、初めて痒みとして認識される。
また、神経系は単に刺激を伝達するだけでなく、神経伝達物質を介して皮膚局所の炎症にも関与している。
玉本智枝先生の講演で、掻痒の神経生理学と神経系を標的とした新しい治療の可能性が紹介された。
特に興味深かったのは、従来は制吐薬や抗てんかん薬として使用されてきた薬剤が、犬猫の掻痒を軽減する可能性についてである。
まあ若干言われてたから知ってはいたけど笑
1.掻痒は免疫系と神経系の相互作用によって生じる
掻痒は、皮膚の炎症によって生じる単純な感覚ではない。
皮膚には掻痒刺激を感知する感覚神経が存在し、さまざまな炎症性メディエーターや神経伝達物質が、その神経活動に影響する。
例えば、IL-31は犬の掻痒に重要なサイトカインとして知られている。
IL-31は感覚神経に存在する受容体複合体に結合し、神経を直接活性化することができる。
一方、サブスタンスPは神経ペプチドの一つであり、神経伝達だけでなく、皮膚局所の炎症反応にも関与する。
感覚神経から放出されたサブスタンスPは、周囲の細胞に作用し、神経原性炎症を引き起こす可能性がある。
つまり、掻痒と炎症は一方向の関係ではない。
炎症によって神経が活性化され、掻痒が生じる一方、神経系から放出される物質がさらに炎症を増悪させる可能性がある。
このような神経免疫相互作用を理解すると、掻痒治療の標的が免疫系だけではないことが分かる。
2.マロピタントは猫の掻痒を抑制するのか
今回の講演では、マロピタントによる猫の掻痒治療に関する研究が紹介された。
マロピタントは、主に制吐薬として使用されるNK1受容体拮抗薬である。
NK1受容体は、サブスタンスPの代表的な受容体として知られている。
サブスタンスPは神経系における情報伝達に関与するとともに、末梢組織では神経原性炎症を引き起こす可能性がある。
そのため、NK1受容体を阻害することで、掻痒や炎症を軽減できるのではないかと考えられている。
講演で紹介された猫の研究では、マロピタント投与後、一部の症例で皮膚病変スコアと掻痒スコアの改善が認められた。
この結果は、マロピタントが猫の掻痒性皮膚疾患に対して有効である可能性を示唆している。
しかし、この研究には重要な限界がある。
第一に、プラセボ対照群が設定されていなかった。
したがって、観察された改善が薬剤そのものによるものなのか、自然経過やその他の要因によるものなのかを明確に区別することができない。
第二に、マロピタントがどのような機序で掻痒を軽減したのかが明らかではない。
講演では、マウスの研究において、サブスタンスPによる掻痒がNK1受容体以外の受容体を介して生じる可能性が紹介された。
もし猫でも同様の機序が存在するのであれば、マロピタントによる症状改善は、サブスタンスPによる掻痒神経伝達を直接遮断した結果とは限らない。
むしろ、サブスタンスPによる神経原性炎症を抑制したことで、二次的に掻痒が軽減した可能性も考えられる。
現時点では、マロピタントが猫の掻痒に対して有効である可能性は示されているものの、標準的な治療法として推奨できるだけのエビデンスは十分ではない。
また、講演では犬における有効性を示すデータは紹介されなかった。
3.ガバペンチンとプレガバリンはどのように神経伝達を抑えるのか
次に紹介されたのが、ガバペンチンとプレガバリンである。
これらはGABA類似体として知られているが、GABA受容体に直接結合して作用する薬剤ではない。
主な作用機序は、電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットへの結合による、興奮性神経伝達物質の放出抑制である。
神経終末では、電気的な刺激によってカルシウムが細胞内に流入し、それをきっかけに神経伝達物質が放出される。
ガバペンチンやプレガバリンは、この過程を調節することで、神経細胞間の情報伝達を抑制する。
講演では、GABA作動性の抑制性神経伝達への影響についても言及された。
ただし、ガバペンチンやプレガバリンの作用を、単純なGABA受容体刺激やカルシウムチャネルの完全な遮断として説明することは適切ではない。
重要なのは、これらの薬剤が神経系の興奮性を調節することで、掻痒に関係する神経伝達にも影響する可能性があるという点である。
4.猫のガバペンチン研究では何が示されたのか
今回の講演では、猫の掻痒に対するガバペンチンの効果を評価した研究が紹介された。
研究では、最初に猫をプレドニゾロン群、シクロスポリン群、プラセボ群の3群に分け、それぞれの治療を5週間実施した。
その後、すべての群にガバペンチンを追加し、さらに3週間の経過を観察した。
講演では、最初の2週間はガバペンチン10 mg/kgを1日1回投与し、その後1週間は用量を増加させたと説明された。
なお、増量後の用量については文字起こしで50 mg/kg・1日2回と記録されているが、非常に高用量であり、原著との照合が必要であるため、臨床的な投与指針として扱うべきではない。
研究では、掻痒の評価に首輪型の活動量測定装置が使用された。
対象は一般家庭で飼育されている猫ではなかったため、飼い主による掻痒スコアの評価が難しく、夜間の活動量を掻痒関連行動の指標として利用したという。
最初の5週間では、プレドニゾロン群で最も明確な掻痒の改善が認められ、シクロスポリン群でも一定の改善がみられた。
一方、プラセボ群では掻痒が持続していた。
その後、ガバペンチンを追加すると、3群すべてで掻痒関連活動量がさらに減少した。
特に興味深いのは、すでにプレドニゾロンによって掻痒が改善していた群でも、追加的な改善が観察されたことである。
また、皮膚病変スコアについても、ガバペンチン追加後に改善が認められた。
さらに、ガバペンチンの投与を終了すると、掻痒関連活動量が再び増加する傾向が観察された。
これらの結果は、ガバペンチンが猫の掻痒に対して追加的な治療効果を持つ可能性を示している。
ただし、この研究だけでガバペンチン単独療法の有効性が確立したわけではない。
5.ガバペンチンの効果は本当に抗掻痒作用なのか
今回の講演では、研究結果だけでなく、その後の質疑応答も重要だった。
質問者からは、ガバペンチンの効果を評価するうえで、二つの問題点が指摘された。
第一に、シクロスポリンの効果発現時期である。
シクロスポリンは、一般的に臨床効果が十分に現れるまで数週間を要する。
そのため、シクロスポリン投与開始から約5週間後にガバペンチンを追加した場合、
その後の改善がガバペンチンによるものなのか、シクロスポリンの遅れて現れた効果なのかを区別することが難しい。
これは、研究結果を解釈するうえで重要な交絡因子となる。
第二に、ガバペンチンの鎮静作用である。
研究では夜間の活動量を掻痒の指標として使用していたが、活動量の減少が必ずしも掻痒感覚の改善を意味するとは限らない。
ガバペンチンによって猫が鎮静され、掻破行動そのものが減少した可能性も考えられる。
講師は、夜間は本来休息している時間帯であるため、活動量の増加が掻痒関連行動を反映している可能性があると説明した。
しかし、この測定方法が猫の掻痒評価法として十分に検証されたものではないことも認めていた。
一方、皮膚病変スコアも改善していたことは、臨床的な効果を支持する所見として挙げられた。
ただし、鎮静によって掻破行動が減少した場合でも、皮膚病変は改善し得る。
したがって、皮膚病変の改善だけで、掻痒感覚そのものが抑制されたと証明することはできない。
掻破行動が減少したことと、掻痒感覚が改善したことは、必ずしも同じではない。
この点は、神経系に作用する薬剤の抗掻痒効果を評価するうえで重要である。
6.トピラマートによる猫の自傷性掻破の治療
今回の講演では、トピラマート(topiramate)を用いた猫の症例報告も紹介された。
トピラマートは主に抗てんかん薬として使用される薬剤であり、
電位依存性ナトリウムチャネルへの作用、GABA作動性神経伝達の増強、グルタミン酸受容体の一部の阻害など、複数の作用機序を持つ。
講演では、原因が明らかでない自傷性掻破病変を持つ猫に対してトピラマートを投与し、掻破行動が著しく改善した症例が紹介された。
この猫では、自らの掻破行動によって皮膚病変が形成されていた。
トピラマート投与後に掻破行動が改善したことから、神経系に作用する薬剤が、特定の掻痒性疾患に対して有効である可能性が示唆された。
ただし、これは単一症例の報告であり、一般的な猫のアレルギー性掻痒に対する有効性が証明されたわけではない。
また、薬剤によって掻破行動が改善したことだけで、その症例が神経疾患やてんかんを患っていたと判断することはできない。
7.薬剤への反応は病因の診断にはならない
今回の講演で、特に重要だと感じたのが、薬剤への反応と病因の診断を区別するという考え方である。
例えば、抗てんかん薬によって掻破行動が改善したとしても、
それだけで掻破行動がてんかん発作の一症状だったと判断することはできない。
同様に、行動治療薬によって掻破行動が改善した場合でも、その症例が心理的・行動学的な問題によって掻破していたとは限らない。
なぜなら、抗てんかん薬や行動治療薬は神経系に作用するため、掻痒に関係する神経伝達にも影響する可能性があるからである。
ガバペンチンについても同様である。
ガバペンチンによって掻痒が改善したからといって、その症例を神経障害性掻痒と診断することはできない。
薬剤への反応は、病態を理解するための手掛かりにはなるが、それ自体が確定診断になるわけではない。
特に猫では、アレルギー性皮膚疾患、神経障害性掻痒、行動学的問題などが、類似した掻破行動として現れることがある。
そのため、神経系に作用する薬剤を使用する場合でも、皮膚科的な基礎疾患の評価を省略するべきではない。
それぞれ異なる作用機序を持ち、掻痒に関係する神経伝達や神経原性炎症に影響する可能性がある。
マロピタントはNK1受容体を阻害し、サブスタンスPに関連する神経伝達や炎症反応に作用する。
一方、ガバペンチンやプレガバリンは、電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットに作用し、神経伝達物質の放出を抑制する。
トピラマートは、複数の神経伝達経路に作用することで神経の興奮性を調節する。
これらの薬剤は、従来の抗炎症療法とは異なる経路から掻痒を制御できる可能性がある。
特に、ステロイドやシクロスポリンなどによって炎症を抑制しても掻痒が残存する症例では、
神経系を標的とした追加治療という考え方は興味深い。
しかし、今回紹介された研究には、プラセボ対照群が存在しないこと、対象症例数が少ないこと、掻痒の評価方法が十分に検証されていないことなど、複数の限界がある。
また、神経系に作用する薬剤では、鎮静によって掻破行動が減少する可能性があるため、真の抗掻痒作用との区別が重要になる。
したがって、現時点では、これらの薬剤を犬猫のアレルギー性掻痒に対する標準治療として位置づけることはできない。
今後は、プラセボ対照を設けた臨床試験に加え、掻痒行動、皮膚病変、鎮静の程度をそれぞれ独立して評価する研究が必要になる。
さらに、犬と猫では掻痒に関与するサイトカインや神経伝達経路が異なる可能性もある。
犬ではIL-31が掻痒に重要な役割を果たすことが比較的一貫して示されている一方、猫ではIL-31の関与を支持する研究結果が必ずしも一致していない。
このような動物種による違いも、今後の治療法開発では考慮する必要がある。
今回の講演で最も重要だったのは、掻痒を単なる炎症の結果として捉えるのではなく、神経系そのものが治療標的となり得ることである。
同時に、薬剤によって掻破行動が減少したことと、掻痒感覚そのものが改善したことを区別する必要がある。
そして、神経系に作用する薬剤への反応だけで、掻痒の原因疾患を診断することはできない。
掻痒は、免疫系、皮膚バリア、末梢神経、中枢神経系などが相互に関与する複雑な症状である。
今後、こうした神経生理学的な研究が進めば、従来の抗炎症療法では十分に管理できなかった掻痒に対して、
新しい治療選択肢が生まれる可能性がある。
そのためにも、掻痒の強さだけでなく、何が掻痒を引き起こし、どの経路がその症状を維持しているのかを考えることが、これからの皮膚科診療では重要になるだろう。