『光る君へ』と『伊勢物語』の話 | 星野洋品店(仮名)

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とある洋品店(廃業済み)を継がなかった三代目のドラマ感想ブログ

第20回ラストでは清少納言とまひろが下女に変装して、中関白一家が立てこもる二条北宮に潜入していました。木の枝を手に持ち、鉢巻きにも葉っぱを挟んでいましたが、かえってガサガサと音が立って目立つんじゃないかと心配。

 

「検非違使が二条北宮を取りかこんでいるはずなのに、簡単に入れるの?」と疑問にお思いになりましたか? いくらでも入れますよ。

 

平安京では40丈(約120メートル)四方を一町(ひとまち)といい、上級貴族の邸の基本単位になります。中・下級貴族は一町を半分や4分の1に分割し、大金持ちは隣の町を買い取って2倍や4倍にします。東三条殿や土御門殿は二町あり、光源氏の六条院は四町でした。

 

中・下級貴族の邸は板塀で囲みますが、上級貴族の邸は築地(ついじ)。作るのが大変なので高級品ではあるけど、しょせん土を突き固めただけなので大雨が降ると崩れます。
 

『伊勢物語』第5段では、在原業平が子どもたちの踏みあけた築地の崩れから女性のもとに通う場面があります。女性は藤原高子。のちに56代 清和天皇に入内し、57代 陽成天皇を生むことになります。業平なんぞと忍び逢ってる場合じゃない女性なので、門から入ることができなかったのです。

 

大臣の令嬢が住むような邸でも、築地が崩れているのが当たり前だったんですね。『光る君へ』は『伊勢物語』より200年ほど後の時代になりますが、築地のメンテナンスが行き届かない点では大差なかったようです。築地の崩れから物乞いや野良犬が入りこんだりしてね。大内裏のなかですら物乞いがいたことが『枕草子』に記されています。

 

遣水(やりみず。水路)を引きこむための水門もありますし、二条北宮に入ろうと思えばいくらでも入れますよ。検非違使が見張っていたのは、東西の門だけだったろうし。

 

検非違使は常に人手不足です。ありとあらゆる法律違反を取り締まるお役目で、現代の警視庁・東京地検特捜部・東京地裁を兼ねた上、街に転がる死体の処理まで保健所代わりにやってるんですから。二条北宮だけに構ってられないの。

 

それに、伊周くんは内大臣。右大臣 道長に次ぐ高貴な地位にいるんですよ。野良犬が出入りするような穴から逃げるなんてこと、あるわけないじゃないですか~。