『光る君へ』のコウジカビの話 | 星野洋品店(仮名)

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藤原行成と一条天皇はともに一人っ子で、父と祖父を子どものころに亡くし、母方の祖父のもとで育てられたという共通点があるので、史実では個人的にも親しい間柄だったようです。おかげで行成くんは6年も蔵人頭をやらされ(ふつうは3年くらいで卒業)、過労死しかけています。天皇に気に入られるのも考えものだな。

 

『光る君へ』での行成くんの推しは道長と一条天皇。一条天皇はそれを知ってか知らずか、行成くんから献上された古今集を広げ、

「中宮はこの歌が好きだったんだよ~。愛しあっていれば、夢の中でも会えるっていう歌~。夢の外でも会いたいよね~」

と行成くんに圧力を掛けました。

 

もうひとりの推し 道長に報告したところ、「一条天皇に利用されるなよ」とクギを刺されてしまいました。ふたりの推しのあいだで板挟み。ツラいね、行成くん。次回予告では、どうやら一条天皇に従ってしまったようですが……。

 

 

『光る君へ』では、行成くんをはじめとする蔵人頭たちが麹塵(きくじん)と呼ばれる白っぽい緑色の袍を着ています。麹塵は天皇が屋外の行事に出席するときなどに着る御袍の色で、いわゆる禁色(きんじき。許可なく着用できない色)です。天皇のそば近くに仕える蔵人は、天皇のお下がりを頂戴して麹塵の袍を着ることができます。

 

麹塵はコウジカビのことです。漫画『もやしもん』では、アスペルギルス・オリゼーという学名でおなじみですね。なぜカビの色なんかが天皇の貴色とされたかについては、遣唐使の誤解があったと思われます。

 

麦麹

 

〈麹塵〉を中国語の辞書で調べてみましょう。

1.酒麹に生じる細菌

2.同前の色(淡黄色)

中日大辞典 第三版 大修館書店

つまり、中国の麹は黄色いんですね。黄色は日光の色だから、皇帝の御袍にふさわしい色とされていたのです。皇帝御袍の情報が遣唐使によって日本に持ち込まれたとき、
「え、なんで麹?」
「変な緑色だよな」
「でも、唐の皇帝が着てるんだから、なんか貴いんじゃねーの。知らんけど」
といった会話がおそらくあったのでしょう。天皇はわけもわからずニホンコウジカビの胞子色の御袍を着せられることになってしまったわけです。遣唐使、ちゃんと仕事しろ。