冠の話 | 星野洋品店(仮名)

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とある洋品店(廃業済み)を継がなかった三代目のドラマ感想ブログ

藤原道長役 柄本佑は、地毛で髪を結っています。2022年『鎌倉殿の13人』では、北条義時役 小栗旬も地毛でした。ぼくは、この2人を尊敬します。今後、彼らが刑法犯にならない限り、全力で擁護すると誓います。

 

だってね、髪を結うってことは髪を引っ張るってことなので、ハゲるんですよ? たかだかドラマの役作りのために、1年半も頭皮にダメージを与え続けるとは、なんという覚悟なんだッ……!

 

 

ハゲるということは、平安時代には悪いこととは思われていません。なにしろ、蒸し風呂に入る時ですら烏帽子をかぶっている時代です。額のあたりがこすれてハゲてくるんですね。ハゲて当たり前、むしろハゲなきゃおかしい。このこすれてできたハゲこそが、月代の原型だとも言われます。

 

『源氏物語』でも、光源氏が40歳を過ぎて髪が薄くなってきたことを、「むしろ年相応の色気があっていい」と評価されています。数え40歳で初老とされる時代ですから。若いうちはポッチャリ太って髪が黒々としているのがいいのですが、40を過ぎたら枯れていかなきゃなりません。煩悩を捨てないと、お浄土へ行けないよ。

 

冠

 

しかし、髪が薄くなると問題が発生します。冠が落ちるんです。冠の巾子(こじ)という空洞に髻(もとどり)を収め、両側からかんざしをブスっと差して止めてあるので、髪が少ないと止まらなくなっちゃう。

 

もっと古い時代だと巾子が柔らかい素材でできていて、根元を纓(えい)でギュッと縛って固定していたので、そうそう落ちなかったんですけどね。平安中期には巾子が固くなり、纓がただの飾りになってるので、かんざしだけが頼り。

 

戦国時代に武将たちが月代を剃るようになると、かんざしを諦めて顎ひもで固定するようになります。もっと早い段階で顎ひもを使えるようにしてくれれば、冠を落として恥をかく人も減っただろうにねぇ。