『どうする家康』感想まとめ | 星野洋品店(仮名)

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とある洋品店(廃業済み)を継がなかった三代目のドラマ感想ブログ

※約3300文字の全編が悪口です。読まんでよろしい。

 

 

 

『どうする家康』第1回を見おわったとき、ぼくは「すごいものを見た」と思いました。これが〈令和版にアップデートされた家康〉なのかと。大河史上初、優秀な家臣団が知的障害者をむりやり天下人にするお話ですよね? ダイバーシティへの配慮がついにここまで来たのか!

 

 

第1回で描かれたのは、桶狭間合戦の前哨戦、いわゆる〈大高城の兵糧入れ〉の話。これを家康(当時は松平元康)は、

「お米を運ぶだけじゃ~」

と言うんです。……はい? 〈お米を運ぶだけ〉なら民間業者がやればいい。あえて軍隊が米を運ぶのは、敵方に奪われる可能性があるから。織田領を突っ切って大高城に向かうのに、安全なわけがない。現代の歴史好きの中学生でもわかることが、現場にいて命がかかっている殿さまにはわかっていない。中等度の知的障害者と想定せざるを得ません。

 

主人公の知能指数を下げるのは、フジテレビのドラマの第1話でよく行われる手法です。たとえば、主人公がつまづいて棚を倒してしまう。

「バカモン、なにをやっとるんだ!」

と、上司に怒鳴りつけられた主人公はびっくりして跳びあがり、棚をもうひとつ倒してしまう。倒れた棚は連鎖的に別の棚を倒してしまい、オフィスはしっちゃかめっちゃか! ……バブル期のドラマで何十回も見たわ。

 

人間も動物ですから、大きな音がすればつい見入ってしまう。途中でチャンネルを変えられないための手法なんですが、アホにわけのわからんことをさせて視聴者の目を引こうとするのって、下品ですよね。

 

〈上品でつまらないより下品で面白い方がいい〉というのがフジテレビの方針で、それで成功したんだから責める気はありませんが、令和の大河ドラマに持ちこんでほしくはなかったな。450年前は、殿さまがアホだと謀反が起きる時代なので。家康の祖父は不幸な行き違いがあって家臣に殺されているし、家康の父もおそらく家中の路線対立から暗殺されたと見られてます。

 

それに、家康の知能指数を引き下げたことで、脚本家が作った設定が第1話にして崩れているのも問題です。『どうする家康』では、近年の学界の定説に基づいて〈家康は今川家の次世代の重臣として期待され、高い教育を受けていた〉ことになっています。なのに、なんでこんなにアホなんです? すでに初陣も済んでいるいっぱしの武将なんですよ?

 

家康に「お米を運ぶだけじゃ~」とアホ発言をさせたければ、古い通説に従って〈家康は今川家の人質として虐待されていたので何も知らなかった〉とするほかない。今川家の指示に漫然と従っているとヒドい目に遭うと学んだので、以後の家康は賢くなった……とすれば、話がつながる。が、『どうする家康』での今川Love設定とは矛盾してしまう。

 

長い物語を書くなかで矛盾が生じるのは仕方がない。しかし、2年をかけて準備した大河ドラマの第1話を矛盾させて恥じない脚本家は信用ならん。ぼくの最大評価値はゼロで固定され、以後はじりじり下がるかドカンと下がるかで、一度も上昇しませんでした。あとは俳優の個人技を観賞するのみ。

 

 

『どうする家康』の問題点は、〈その時代の人がその場にいない〉ことに尽きる。脚本家の考えたセリフを言うだけの人形で、人格がない。「あんた、急になにを言い出したの???」と混乱する場面が山ほどありました。

 

第12回「氏真」が特にひどかった。4か月前に妻を「足手まといめ!」と罵倒していた今川氏真が、「蹴鞠姿がステキ(はぁと」と言われたくらいで「妻の幸せのために生きる!」と変心。ウンウン、氏真と言えば蹴鞠だもんね。本作では、変心の直前に新撮回想シーンで言及されただけだったけど。

 

家康は氏真を「まことの兄と思っている」と突然言い出しました。えー、「氏真坊ちゃまを接待するの、めんどくせ~」という感情しか伝わってなかったよ? それに、氏真が瀬名を遊び女扱いし、瀬名が「たすけて せな」と血文字で書状を書いた件はノープロブレム? ほんとに瀬名を愛してる?

 

神聖瀬名教に至っては、もう完全にあたおか案件。聖女さまが「ラブ&ピース!」と叫べば、戦国武将たちが「ラブ&ピース!」とコール&レスポンス。オノ・ヨーコとジョン・レノンが「イマジン!」と歌ったって、そこまでのムーブメントは起きなかったよ? 有村架純がいれば、ウクライナもパレスチナもシリアも秒で停戦だな!

 

脚本家の芸風が〈逆張り&肩すかし〉なので、〈瀬名=悪女〉説の逆を張って、不思議パワー満載の聖女化したんでしょうね。しかし、悪女でない瀬名は2017年『おんな城主 直虎』ですでに描かれており、べつに目新しくもない。菜々緒演じる瀬名は、性格はキツイけど情誼に厚い人物でした。

 

 

英雄でない家康だからアホにする。悪女でない瀬名だから聖女にする。逆張りは真逆にすることとイコールではないし、王道の描き方を越えるには450年前のリアリティを持った大量の書きこみが必要なのに、政治にも軍事にも経済にも興味がない脚本家では、突拍子もない恋愛感情や気色悪い執着で尺を埋めるしかない。

 

神聖瀬名教を広めるために、家康はなにをした? 同盟を結ぶなら、東北諸侯に使者を送らなきゃいけない。誰を? 家老・酒井忠次なら家康の叔母の夫なので信用がある。忠次が東北をめぐるのに仮に3カ月かかるとして、織田方が忠次の不在を怪しんだらどうする? なにか言い訳を考えとかなきゃいけない……。

 

これくらいは書きこまないと、家康が本気で東国大同盟を目指したことが視聴者に伝わらない。なのに、徳川家の一家団欒をスローモーションで見せただけで同盟が成立したことになっちゃってる。書きこんじゃったら、あとの話と整合性が取れなくなるもんね。誤魔化しときたいんだよね。

 

東国大同盟の失敗を家康がどう受け止めたのかも描かれない。構想が間違っていたのか、構想は正しくても実行力が伴わなかったのか、お美しいお瀬名さまのお高尚なお構想を受け入れない世界のほうが間違ってるのか。作中では、なぜか織田信長が逆恨みで暗殺されそうになっていました。とんだトバッチリ。本作の織田信長はキライだけど、この点に関してだけは同情する。

 

最終回に瀬名が化けて出て、「いくさのない世を作られましたな」と家康を褒めていたけど、瀬名が目指したのは、話し合い、わかちあう世だったでしょ? 豊臣家を問答無用で根絶やしにして太平の世を作ってよかったの? 単に戦争のない世を作れればよかったのなら、織田信長の天下統一に全面協力すればよかったじゃん。

 

関ヶ原直前、全国の大名に書状を書くシーンも書きこみが足りない。伊達政宗に100万石を与えると約束したけど、伊達が最上にチョッカイを出したことを咎めて反故にした件を書けばいい。なのに、「腕が折れるまで書くぞ!」という情緒的な発言しかしない。そんなに家康を清らかな存在として描きたいか。つまらん!

 

 

 

最終回に至って、大方の予想通り、『どうする家康』が、春日局が徳川家光に語って聞かせた物語であったことが明かされました。現実に起きたことじゃなくて、ぜんぶ春日局の妄想だったってこと? だから「女性たちの考えが歴史を動かした」って話になってるのね? 残念でした! 1年間のお話を客観的に見れば、「あさはかな女どもの妄想にアホ男どもが振り回された」ってお話にしかなってないよ。たとえそれが現実だったとしても、1年がかりで受信料払ってまで見たくねーのよ。エンタメとして面白くないから。

 

 

このブログをさかのぼると、早くも2月7日時点で既に、「『どうする家康』には全体を貫く大きな物語がなく、戦国時代の逸話の羅列でしかない」と指摘しています。この印象は、不幸なことに10か月後も変わりませんでした。それでも最後まで見続けたのは、第1回終盤の本多平八郎忠勝(山田裕貴)がカッコよかったからだよ! なんか文句あるか?

 

脚本家はけっきょく1年もかかってなにを表現したかったんだろう。〈有村架純はカワイイ〉ってことだな、たぶん。それで1年引っぱるのは無理だわ。「有村架純が映ってればなんでもいい」という視聴者はごく少数だからね。