この記事は、私が過去に読んだ、近藤誠先生の著書をもとにかいておりますが、近藤先生の文章をそのまま記載しているわけではありません。
(私の解釈というものが、相当まじった内容になっています)
がんという診断名をきいた後、「さっそく治療開始しましょう」と病院側から言われたら、「そうだ、手遅れになってはたいへんだ。一刻も早くお願いします」というふうに、急がねばの心境で、受け入れる人が多いと思う。
なにしろ、「早期発見・早期治療の重要性」が浸透しているから。
しかし、この前の記事にかいたように、すべてのがんが猛スピードで増殖するわけではない。
落ち着いて、今後の対応を検討していたからといって、それが命とりになったりするだろうか。
なかでも胃がんの成長速度がゆっくりしていることに驚いたかたがいるかもしれない。
(注)この前の記事にかいたのは平均値です。スキルスとよばれるがんは、他のがんに比べ、かなり成長が速いタイプになります。
早期胃がんがみつかってから、1年以上「手術の決心がつかなくて」様子をみていた方を知っているが、その人も、べつに不利になったりしていなかった。最終的に手術をしたが、今も元気に過ごされている。
もっとも、がんを知りながら様子見期間を設けるなんてとんでもない、はやく手術して安心したいと思う人は治療を受けることがいちばんだと思う。
本人が治療の選択に納得していることは、すごく重要である。
私が近藤先生の著書を読んで、一番認識が変わったこと、それは「がんの手術の目的とすること」についてである。
現在では、内視鏡下で手術するケースも多くなり、受ける側の負担はすこし軽減されている。
しかし、手術は「大きな治療」であることにかわりはない。
そこで、よく「手術可能でよかったですね」という言い方で励まされたりする。
がんの進行程度によっては手術ができない例もあるので、そういわれるのだと思う。
で、なんとなく「がんの手術というのは根治療法なんだ」というふうに思われていないだろうか?
一度の手術で、それきり再発がなかった人が、自分の受けた手術について「根治療法だった」と評価するのは間違ってないよね?それきり、がんと縁がきれたわけだから。
しかし、手術後、一定期間を経て「がんの再発」という現実につきあたったケースは、そんなこと言えない。
じゃあ、どんなふうに言うのか。
私が知っている人は、こんなふうに言ってたよ。
「結局、手術した時点で、わたしのがんは早期ではなかったのですね。早期で手術できていたら、どんなによかったか…」
そして、早期発見しなかった自分を責めていた。何も健康不安がない状態のときに検診を積極的に受けるべきだった…と言っていた。
このように、手術後、時間が経過してみないことには、その手術が「根治療法」といえるのかどうかは、ハッキリしないのである。
そして上記の「早期発見できなかった私がわるい」という発言であるが…近藤先生の著書を読むと、この発言の背景にあるものはまちがっているのだ!(近藤説が正しければ)
近藤先生の説は、以下。
※「がん」と診断されたものには、転移能力をもつもの、転移能力がないもの、両方ある。
※転移能力をもたないがんは、時間が経過しても転移しない。
※転移するかどうかは、がんがもつ遺伝子によって決まる。
※転移は通常、初発病巣が発見されるずっと以前に成立している。ただ転移病巣が検査で発見できる大きさではないので、初発病巣発見時には、転移の存在がわからない。
(このことは、転移の出現時期と、がんの成長速度から推察できる)
近藤説が正しいとしたら、「早期手術によって転移を予防する」という発想はなりたたない。
では、がんの手術の目的はなんだろう?
がんが発生した臓器に、生命維持のための大切な働きがあって、がんによってその働きが阻害されたら苦痛を伴う症状が出現したり、最終的には命が危なくなる。
【例】膀胱がんや前立腺がんで、がんが尿路を閉塞したことによる腎不全。脳腫瘍によって脳圧が高くなり脳機能不全。大腸がんによる腸閉塞。etc
臓器が機能不全をおこす前に、がんを取り除き、危険を回避するということが目的になるのではないか。
近藤先生は、治療効果の評価において、とてもきびしい。(医療側にとって厳しい)
手術には負の側面もあるので、総合的に患者に有利(延命や症状緩和など)に作用していないと、効果があったと言ってはいけないとおっしゃっています。
手術の負の側面とは、たとえば、手術をしたために、がんの成長速度が加速するような場合。
これは、がん細胞の性質が変わるからではない。
がん細胞の性質は遺伝子によって定まっており、がん病巣にメスが入っても、各がん細胞の遺伝子は変わらない。
がんの成長速度が加速するのは、正常組織・臓器にメスが入って抵抗力が弱まり、がん細胞が育ちやすい環境に変わるからである。