(前回記事)

心の履歴(59)
京都の未明は寒い
2023-06-13 

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12807415942.html

 

(今回記事)
2008/03/02 著

挨拶が終わると、待望の朝食なのだが、何と、土間で犬と並んでである。

雇い主の家族は一段と高い目の前の畳の部屋の丸い飯台での食事。ご飯と味噌汁からは湯気が立っている。

我等には昨日の冷たいに近い生温かな残飯。
無論、隣席のポチも我等と同じ残飯に我等と同じ味噌汁をかけたもの。我等はポチと同列なのである。

おかずと言うと、路傍に咲いている菜の花を塩漬けしたどんぶり山盛りの「菜の花漬」だけなのだ。

我が田舎では、山菜は食べるが、路傍の菜の花等は食べない。人間の食べ物の扱いにはなっていない。当時は何と言うものを人間様に食べさせるのだと立腹したもの。

菜の花漬けが京都の名産だと知ったのは、それから二十年後。但し、美味しいと思ったことは今まで一度もない。

いざ、仕事は製氷である。

 

幼少時代、試験菅に砂糖水を入れ、割り箸を突っ込んで、それを塩を溶かした氷水に浸けておくと試験菅の砂糖水は凍る。試験管を取り出し、水にさらすと氷はスポッと抜けて、アイスキャンデーの出来上がりである。製氷とは、これと同じ理屈である。


小さな体育館の広さの床一面に、家庭用120リットル冷蔵庫大の鉄製容器数百個が升目状に床下に敷き詰められている。


その全鉄容器に水を張り、冷凍する。
3~4時間後、鉄容器の中の水は氷となる。

この製氷した鉄容器の一個の重さは優に一トンはあり、一個ずつ天井クレーンで吊り上げ、人力で押して端に移動する。

問題は、高さ150cmの鉄の容器から、出来た氷を抜く方法である。


鉄容器をゆるい傾斜の台の上に乗せ、周りに水をかける。
それから、全体重をかけ、この鉄容器を倒す。
ドタンと倒れた勢いで、中の氷が鉄容器から抜け出るシナリオなのである。

 



処が、試験管のように氷がすんなりとは抜けてくれない。
単に鉄容器を倒すだけではなく、全体重と全力をかけて勢いよく倒さないことには、氷は抜けてくれないのである。

ただでさえ体重67キロが60キロに落ちたのに、これには参りました。
一個一トン強のが5~6百個。
アルバイト三人で重機無しで倒すのです。


更にこの抜いた氷は、隣の冷凍倉庫にクレーンで高さ十mほどに山積みする。夏季に備えてです。


https://internshipguide.jp/interns/internDetail/1437
この作業が午前に1回、午後に1回の計2回。
夕方はへとへとになりながら、徒歩40分で下宿へ帰宅。

バス代20円がもったいないから、バスに乗るなんて思いもしなかった!

疲労し過ぎて、今度は眠れない。
ボヤボヤ・ウトウトしていたら午前三時半が来る。

十日後、アルバイトが一人減るも、作業量は同じ。
募集するも誰も来ない。
それに半月後、この作業量が増えるとの事。
日に3回作ると言う。

そこで、或る日の夕方、作業効率をあげる為に、作業の改善内容を具体的に提案した。

息子「従来通りでやってもらう!」
私「今の人数で従来通りのやり方では、いつまで身体が持つか!」

息子が、突然、わめき出した。
何を言っているのか意味不明。
それよりも、びっくりしたのは、その母親である。

「何十年とこの方法でやってきたのを、何という事を言うのだ!」と母親もわめき出した。この乱れ方は韓国人特有の火病とよく似ていた。

こりゃ、埒(らち)があかない。
親子共々、まともではない。

「辞めるから、アルバイト料を直ぐ清算してくれ!」と私は怒鳴った。
それから三十分後、アルバイト料を受け取り、オサラバしたのである。

受け取った額の半分は下宿の部屋代で瞬時に消える。
さて、これからどうするか。袋メンも残りは僅か。

この期間、学生証の有効期限は切れ、学生相談所でアルバイトの紹介は受けられず。

余談)

それから30年後、霞ヶ関のある省の人事課長が交代したので挨拶に行きました。40代半ばでしょうか。
応接で四方山話をしていますと、東大法卒で出身京都、それも松ヶ崎だと言うのです。

「私の記憶にある松ヶ崎と言うと、松ヶ崎橋を渡って西に行ったところに製氷屋がありましたね」
「あァ、あの息子さんとは小学・中学の同級生ですよ。今でもクラス会で時々会いますよ」

恐らく弟の方でしょう。

私は、直ぐに話を切り替えました。
世の中、狭いですね。

 

つづく

 

心の履歴(61) 
うなぎの寝床に住む
2023-06-15 

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12807723191.html

 

心の履歴:20代編 目次
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