(前回記事)
心の履歴(169)
新車にドスン
2023-03-29
https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12795845132.html
(今回記事)
2009/08/21 著
1979年(昭和54年)頃の父親にとって、同居していたお嬢さんが結婚して家を去ることは耐えられないことでした。
さて、今の世の中はどうでしょうか。
貰われてお嫁に行くという感覚は薄れていますから、昔ほどではないでしょう。逆に、結婚する息子が家を去る事に母親が泣くかも。
その頃、広島営業所の辰巳所長は、度々、何故か私を横に乗せ、島根県の浜田と松江の商業組合、それと山口県の徳山商業組合に連れて行きました。
浜田や松江で辰巳所長と泊まる所は、何れも古びた商人宿。宿泊費が安いのです。松江温泉などは所長と泊まったことはありません。
そこで、私一人で何度か山陰にドライブ出張しました。
印象深かったのは一畑薬師(島根県出雲市)の宿。

千三百段余りの石段(参道)でも有名な一畑薬師と言うと、京都西山の柳谷観音 楊谷寺(やなぎだにかんのん ようこくじ)と同様、全国から眼の為に参拝に来るのです。
宿は昔の小学校の木造校舎のような建物です。
朝五時にスピーカーで大声の起床の呼びかけ。
びっくり飛び起き。
それから朝風呂。
参拝の前に身を清めるのです。
処が熱いのなんの。
煮えたくったような。
でも、じっと耐えて入浴。
後の話では、お湯をかぶるだけだそうです。
熱湯入浴で身体はちとやそっとでは冷えません。
それにくたびれてしまいました。
階段上り徒歩10分(?)の一畑薬師に行くのを止め、二度寝しました。罰当たりです。
秋は、広島県と島根県の県境付近の紅葉。
冬の峠の両側はスキー場。
広島県にまさか10ヶ所もスキー場があるとは。
実は広島市は旧市内を離れたら雪国なのです。
さて、狭かった広島営業所の事務所。
新たに宇品に倉庫付事務所を購入。
引っ越しました。
この時、初めて自分専用の机を持ちました。
その頃、私の課で小型トラックの新車を買いました。
マツダ・ボンゴトラック・低床式。1200cc。
これに小さなパワーゲートを付けました。
早速、これに乗り、部下と二人で二泊三日の出張。
行き先予定は、徳山→防府→宇部→小郡→下関。
実は、兼、観光。
辰巳所長曰く。「広島から山口県に販売に行ったら売れない。特に下関なんかは無理だね」。
そう言われると逆に燃える天邪鬼(あまのじゃく)。
先ずは販売価格1台30万円程の真っ赤なUCC機二台をボンゴに積んで広島をスタート。防府で三台販売。即刻、積んである二台納品。
小郡の倉庫に予め広島から輸送してあるUCC機三台を積む。
宇部で宿泊。
翌朝、前日の未納の一台を納品。
「主任、今回の販売目標の五台は軽いものですから、今日はインベーダーゲームをさせて下さい」

息抜きもいいだろう。
納品終了後は、終日喫茶店でインベーダーゲーム。
早目に下関の国民宿舎へ。
関門海峡を見下ろせる風光明媚な部屋。
最終日、広島に向けてスタート。
帰路は瀬戸内沿いではなく、内陸を走りました。
先ずは一台販売、即納。
これで四台販売。
残るは一台。
山口市に入りましたが、全く反応無し。
あわてました。
山口市内から地方道を走りました。
車二台が辛うじてすれ違える幅の道へ。
どうやら走る道を間違えたかも。

https://www.jalan.net/news/article/201785/
両側からはススキが道路にかぶさっている。
民家は全く見えずススキを掻き分けて行くとY字路。
その三叉路中心には、まさかの雑貨屋。
野原の中のポツンと一軒家なんです。
休憩に立ち寄り、ついでにUCC機を提案をしました。
予期に反し母親と息子の嫁さんが是非との意向。
処が、処が、父親の方は頑として拒否。
姿を消しました。
母親と嫁さん、しょげている父親を是非説得して欲しいというのです。
愛娘が結婚してこの地を去るからです。
「結婚式はいつですか」
「五日後」
「何処へお嫁に行くのですか?」
「徳山へ(同じ山口県の瀬戸内沿い)」
「結構近いじゃないですか」
「女の私達は嬉しいのですが、父親にとっては末娘が離れて行くのは悲しいのね」
「分かりました。やってみましょう。お父さんを呼んでいただけますか?」
母親が、呼んできました。
いやいやながらやってきた父親。
「何の用か? もう話すことは無いから帰れ!」
「お父さん、お嬢さん、お嫁に行くので寂しくなりますね」
「君には、関係ないことだ」
「お父さん、ちっちゃな時から、どんなに可愛がったことでしょう」
「 - - - -」
「お父さん、お嬢さん、日に日に美しくなってきたでしょうね」
「 - - - - -」
「お父さん、花嫁姿のお嬢さん、どんなにまばゆいことか」
「 - - - - - -」
「お父さん、素晴らしいお嬢さんがいなくなりましたら、心にぽっかりと穴が開きますね」
「 - - - - - - - - -」
私、大声で絶叫しました。
「お父さん ! この真っ赤な機械をお嬢さんと思い、毎日毎日、磨いてくれませんか!」
「 - - - - - - - - - - - 」
「お父さん ! 心を込めて。ゆっくりと、ゆっくりと。白いタオルで !」
「 - - - - - - - - - - - - - - - - -」
長い長い静寂でした。
後、ポツリ一言。
「分かった」
「有難う御座います。これでお嬢さんも安心してお嫁にいけます」
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心の履歴30代②主任編:目次
https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12751545910.html
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