（前回記事）
心の履歴(65)
微かな梵鐘；私は京都にいる
2023-06-19
https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12807905932.html
（今回記事）
2008/03/17 著
昭和４１年（1966年）元旦、午前零時を回ってからのことでした。
我等五人は、西洞院七条のウナギの寝床を抜け出し、若宮通から松原通りへと除夜の鐘を微かに聴きながら、薄暗い路地から路地へと歩きました。
やがては東山四条の八坂神社へ。
この頃はもう除夜の鐘は止んでいました。
石段を登っている時は、そんなに人はいないと思ったのですが、上がってみると神社の境内ではすごい人。
八坂神社の現在の鈴は、小さいのが三個ですが、昭和４０年代前半（１９６５～）での鈴は、今の鈴の数倍の大きなもので、然も一個しかなかったのです。
（現在の三個の鈴）
（当時の一個だけの鈴の雰囲気）
それに、鈴を鳴らす垂れ下がっている丸太程の太い縄が一本のみ。その一本を狙って左右中央の三方から攻め寄るのです。
.
「ワァ～～！！」と押す！
ドドドォ～と七歩進んでヨタヨタと六歩下がる。
単独の身動き不能。
とにもかくにもこの身は流れるままに。
喧騒たるこの繰り返しで、少しずつ前に進むのです。
私「バタ！（彼の愛称・当時19歳）、何しちょるんばい？」（熊本弁？）
バタ「あそこ、さわりはったさかいに、さわり返しているばい！」（ごちゃまぜ弁。バタは熊本人吉出身）
聞けば、ドカンと押し返された時に、晴れ着姿の二十歳位のよろけた女性の後ろ手が彼の一物をしかとつかんだらしい。
後ろに倒れまいと必死の渾身の力で。
彼の一物はつぶれると思ったとの事。
成る程、バタの一物の袋のみは殊更バカデカイ。
女性がどさくさに紛れて掴（つか）みたくなるのも分かる。
バタ「流石、若い京おんなは別格でっせ！」
私「何じゃ？それ？」
バタ「中身もお上品！」
私「アホか、おまえは！ やり返したのか！ 倒れ掛かって已む無くおまえの細い藁（わら）にすがった女心が分からんのか！」
大波の連続。小波は無い。
無論、お互い、大声を出さなきゃ聞こえない。
とにもかくにも、あのお鈴さんにたどり着くまでは。
せっかく来たからには、あの鈴を鳴らさなきゃ。
辛うじて手の先端で鈴をガランと鳴らし、これまた引き返すにはひと騒動。
押し寄せる人の大波にもまれるのである。
もちろん、バタと はぐれてしまう。
抜けてからきょろきょろバタを探した。
薄暗いこの人ごみの中、更にだんだんと人は増えて来る。
半端じゃない。
動かずに最初に突入した近辺で立っていた。
《炎の京女 「をけら」の火で燃え上がる》
暫らくしてバタが、火縄（吉兆縄）をクルクル回しながらやってきた。
お雑煮を炊く火を、飯炊き小母さんに頼まれたらしい。
京都・八坂神社の年越し行事「白朮詣（をけら詣り）」である。
京都では、ここで細い縄に点火し、火が消えないように縄をくるくる回しながら帰宅し、その火で竈（かまど）のお雑煮を炊くのが伝統なのである。
帰るので境内の坂を降りようとするも、益々上って来る人波。どんどん増えてくる。
何しろ参道は狭い。
前には進まないし、後ろからは押されるし。
バタがつまずいた瞬間、彼の持つ火縄が、前の晴れ着のお嬢さんの後ろ襟元に当たる。
お嬢さん達の着物の襟巻きは、きつねじゃなくそれを模した化繊のふんわりしたもの。
メラメラメラ～っと襟巻きが縦に炎を出して燃え上がった。
あわてましたね。
両手で、所構わずバタバタと火を払う。
襟巻きの表面と後ろ髪が多少焼けました。
無論、見も知らずの二十歳代前半のペアーの女性、
怒りましたね！
流石、その時の女性の言葉は、京言葉とは全く無縁のものでした。やくざの女房か？と思えるほど。
わめいた後は多少落ち着いて「どないしてくれはるんや！」
バタ「すんまひん、すんまひん。弁償させてもらいますさかい」
四人が参道の中央で停まっているものですから、後ろの人は怒るし、上がって来る人達は押すし、遂に後ろの人達がドォ～っと我等を突いたのです。
それを身をそらして交わし、上って来る人混みの中につんのめったのが我等二人。
そのまゝ押されて転げるように下に行ったのが女性二人。
つまり、あれよあれよと言う間にお互い、見えなくなったのです。
石段下まで降り、彼女たちは恐らく待ち構えているだろうと見渡せど、姿は無い。
バタは、終始、火縄をくるくる回しながら帰宅しました。
それだけはご立派！
_____________________________
心の履歴(67)
無為なる日々の後
2023-06-21
https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12808134225.html
心の履歴:20代編 目次
https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12806473286.html
★★★
（画像）
をけら詣り（ユーチューブ）
https://www.youtube.com/watch?v=WfysDj_L4P0
https://www.youtube.com/watch?v=GbTYrZRcWfk
https://www.youtube.com/watch?v=xrjC-IiIMjE
大晦日四条通
https://youtu.be/DEKEgAXSe2U
ショール画像
KYOETSU HONTEN
ｍ