もの思う今朝は・・・..③ | 比翼連理 ~執事の愛が重い件~

比翼連理 ~執事の愛が重い件~

当ブログは、年の差11歳の主従が送る日常の風景。ネグレクトの母から赤子の私を引き取り育ててくれた付き人の白侶(ハクロ)は、その美貌と優雅さで見る者を虜にする外面の良い悪魔。そんな彼のドス黒い“本性”を主人ならではの目線で書き綴るノンフィクションです。

【If you would be loved, love and be lovable.
 (愛されたいなら、愛し、愛らしくあれ)




『やっと見ましたね』と言われて腰を抱かれた時は「しまった!」と思った。

目を合わせないなら合わせたくなる様にすれば良い」───とは、白侶談。

聞けば前回の『身に覚えが無い』のくだりは、私の目を自分に向けさせる為の布石(?)だったそうで。
「下らない事にやたらツッコミたがる」私の癖など、白侶にはお見通しだそうだ。



後ろに下がって距離を取ったが、白侶が私を引き寄せる方が一瞬、早かった。


・・・痛ッ!!!


急なことに反応できず、私は短く悲鳴を上げた。
キーーーンという長い痛みが左足に響いて、骨盤から尾てい骨、脹ら脛に走る激痛。

────あまりの痛みに過呼吸になった。


まともに息が吐けなくて、白侶に肩を借りて短い呼吸を繰り返した。

背中から肺の辺りを「トントン」されて楽になったけど。
綺麗な川が見えた時はマジでぬんだと思った。


・・・川の手前で引き返したら、自分は「空気の味がわかる男」になっていた。




あぁ、失礼..

────なのに、あの小姓と来たら・・・

悪びれた様子が全く無い!!!
形の良い唇は弧を描き、その顔は、至極愉しそうな表情をしていた。

「人の不幸は」とはよく言うが、うちの小姓には「人が痛みにもがく顔」も蜜の味らしい。



主人の過呼吸をそれよりも、の一言で片付けて、鬼小姓は続けた。



先刻から私をお避けになっておられますが・・・・・

察するに、
悪い夢でもご覧になりましたか..

私が貴方に避けられる理由など、それ位しか思い当たりません..


白侶は私の小姓だが、「親代わり」でもある。

朝、私の機嫌が悪い時は『夢見が悪いせい』だと知っている。


なら最初からそう言えよッ!
そしたら私の顔を見なくて済みますものね..

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


────・・・ヤな奴。


どんな夢だったのですか..?
避けられるからには、私にも聞く権利があるでしょう..

・・・お前私以外の奴に仕えてる」夢だ


────ほぅ..なんて、少し興味を引かれたらしい。


それでそんなに、ご機嫌斜めな訳ですか..
・・・・・あぁ、


本当は、白侶が私以外の奴の「側にいる」のが気に食わないからだけどな。

そんなこと言うと「親バカ」が喜ぶだけだから、言ってやらなかった。




────私が見た」は、感覚だけの夢

実際に「白侶」や「私以外の人間」を見たわけじゃない。
でも私には、“映像”としてそれらが視えた気がした。

私じゃない奴の隣で、私に向ける笑顔で、ちやほやと私じゃない奴の面倒を見てる。
私には、それが許せなかった。

幼少期に“トラウマ”を抱えた自分には、
夢の中の見知らぬ誰かに、

親の愛を奪われた気分だった。





”のイライラと、
腰のみと、
白侶のバカのせいで───


私は、精神的にも肉体的にもグロッキーになっていた。




お前なんか要らない


────気付いたら、とんでもない事を口走ってた。



・・・別にいいよ、
居なくても平気だし(平気じゃない)

別に困らないから・・・(めっちゃ困る)



もう、側にいなくて良いよ



────白侶がどんな顔をしてたかなんて、俯いてた私には解らない。


けど、言ってしまった言葉は、今更引っ込まなかった。



それは・・・、【ご命令】ですか



────私の言葉に、白侶が珍しく動揺してた。


普段、私が何か頼んだ時、白侶は『命令ですか?』なんて質問はしない。
返事は全て『御意』の一言だ。

それ以外聞いた事もないし、そもそも、まだ【命令】だとも言ってない。


それに、「お願い」なら頻繁にするが、仕事以外で白侶に【命令】した事なんて無い。

・・・なのに、あんなこと言うから────


(めい)だ、もう私にかまうな


売り言葉に買い言葉じゃないが、つい、自分も馬鹿を言ってしまった。


それを聞いて、白侶は暫く黙り込んでいた。


漸く口を開いた時は────


御意..
旦那様には、私からお伝えしておきます..


「お役目」は、

クビになった・・・と..



────予期せぬ言葉が返ってきた。


白侶の言葉に、今度は私が面食らう番だった。



────あまりの事に驚いて固まっていると、私の腰はいつの間にか解放されていた。


では、失礼致します..
と言われた時は、さすがにが引き止めた。

このままでは、白侶は本当に父上に言いに行ってしまう。


その時になって、漸く自分は気付いた。


私は白侶に「腹を立てていた」のではなく、「俺を見て・・・」と、拗ねていただけだ、と。

子供が親に泣き付いて、駄々をこねていただけだと。





────呼び止めた手は、それはそれは勢いよく振り払われた。


それっきり、白侶は振り返りもしなかった。


どうやら自分は、完全に白侶を怒らせたらしい。

私達のやり取りを黙って静観していた兄も、さすがに「あちゃ~(>_<;)」という顔をしていた。



正直、ここまでのケンカはした事がなかった。

もう、謝って許されるレベルじゃないな・・・。