(愛されたいなら、愛し、愛らしくあれ)
『やっと見ましたね』と言われて腰を抱かれた時は「しまった!」と思った。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160422/21/minamina-0504/f2/07/j/o0413009313626583475.jpg?caw=800)
「目を合わせないなら合わせたくなる様にすれば良い」───とは、白侶談。
聞けば前回の『身に覚えが無い』のくだりは、私の目を自分に向けさせる為の布石(?)だったそうで。
「下らない事にやたらツッコミたがる」私の癖など、白侶にはお見通しだそうだ。
後ろに下がって距離を取ったが、白侶が私を引き寄せる方が一瞬、早かった。
・・・痛ッ!!!
急なことに反応できず、私は短く悲鳴を上げた。
キーーーンという長い痛みが左足に響いて、骨盤から尾てい骨、脹ら脛に走る激痛。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160421/18/minamina-0504/99/cf/j/o0640036013625676848.jpg?caw=800)
────あまりの痛みに、過呼吸になった。
まともに息が吐けなくて、白侶に肩を借りて短い呼吸を繰り返した。
背中から肺の辺りを「トントン」されて楽になったけど。
『綺麗な川』が見えた時はマジで死ぬんだと思った。
・・・川の手前で引き返したら、自分は「空気の味がわかる男」になっていた。
『あぁ、失礼..』
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160421/18/minamina-0504/18/99/j/o0800018113625676842.jpg?caw=800)
────なのに、あの小姓と来たら・・・
悪びれた様子が全く無い!!!
形の良い唇は弧を描き、その顔は、至極愉しそうな表情をしていた。
「人の不幸は」とはよく言うが、うちの小姓には「人が痛みにもがく顔」も蜜の味らしい。
主人の過呼吸を『それよりも、』の一言で片付けて、鬼小姓は続けた。
先刻から私をお避けになっておられますが・・・・・
察するに、
悪い夢でもご覧になりましたか..?
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『私が貴方に避けられる理由など、それ位しか思い当たりません..』
白侶は私の小姓だが、「親代わり」でもある。
朝、私の機嫌が悪い時は『夢見が悪いせい』だと知っている。
なら、最初からそう言えよッ!
そしたら私の顔を見なくて済みますものね..
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160422/16/minamina-0504/b9/c7/j/o0717016213626336230.jpg?caw=800)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
────・・・ヤな奴。
どんな夢だったのですか..?
避けられるからには、私にも聞く権利があるでしょう..
・・・お前が「私以外の奴に仕えてる」夢だ
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160422/00/minamina-0504/a0/a6/j/o0800022513625966951.jpg?caw=800)
────『ほぅ..』なんて、少し興味を引かれたらしい。
それでそんなに、ご機嫌斜めな訳ですか..?
・・・・・あぁ、
本当は、白侶が私以外の奴の「側にいる」のが気に食わないからだけどな。
そんなこと言うと「親バカ」が喜ぶだけだから、言ってやらなかった。
────私が見た「夢」は、「感覚だけの夢」。
実際に「白侶」や「私以外の人間」を見たわけじゃない。
でも私には、“映像”としてそれらが視えた気がした。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160422/17/minamina-0504/ea/2c/j/o0500033213626382534.jpg?caw=800)
私じゃない奴の隣で、私に向ける笑顔で、ちやほやと私じゃない奴の面倒を見てる。
私には、それが許せなかった。
幼少期に“トラウマ”を抱えた自分には、
夢の中の見知らぬ誰かに、
『親の愛を奪われた』気分だった。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160422/17/minamina-0504/c2/88/j/o0800022513626382712.jpg?caw=800)
“夢”のイライラと、
腰の痛みと、
白侶のバカのせいで───
私は、精神的にも肉体的にもグロッキーになっていた。
『お前なんか要らない』
────気付いたら、とんでもない事を口走ってた。
・・・別にいいよ、
居なくても平気だし
別に困らないから・・・
『もう、側にいなくて良いよ』
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160422/22/minamina-0504/a5/06/j/o0480027013626634730.jpg?caw=800)
────白侶がどんな顔をしてたかなんて、俯いてた私には解らない。
けど、言ってしまった言葉は、今更引っ込まなかった。
それは・・・、【ご命令】ですか?
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160422/22/minamina-0504/c9/8a/j/o0300016913626634736.jpg?caw=800)
────私の言葉に、白侶が珍しく動揺してた。
普段、私が何か頼んだ時、白侶は『命令ですか?』なんて質問はしない。
返事は全て『御意』の一言だ。
それ以外聞いた事もないし、そもそも、まだ【命令】だとも言ってない。
それに、「お願い」なら頻繁にするが、仕事以外で白侶に【命令】した事なんて無い。
・・・なのに、あんなこと言うから────
命(めい)だ、「もう私にかまうな」
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売り言葉に買い言葉じゃないが、つい、自分も馬鹿を言ってしまった。
それを聞いて、白侶は暫く黙り込んでいた。
漸く口を開いた時は────
御意..
旦那様には、私からお伝えしておきます..
「お役目」は、
クビになった・・・と..
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────予期せぬ言葉が返ってきた。
白侶の言葉に、今度は私が面食らう番だった。
────あまりの事に驚いて固まっていると、私の腰はいつの間にか解放されていた。
『では、失礼致します..』
と言われた時は、さすがにが引き止めた。
このままでは、白侶は本当に父上に言いに行ってしまう。
その時になって、漸く自分は気付いた。
私は白侶に「腹を立てていた」のではなく、「俺を見て・・・」と、拗ねていただけだ、と。
子供が親に泣き付いて、駄々をこねていただけだと。
────呼び止めた手は、それはそれは勢いよく振り払われた。
それっきり、白侶は振り返りもしなかった。
どうやら自分は、完全に白侶を怒らせたらしい。
私達のやり取りを黙って静観していた兄も、さすがに「あちゃ~(>_<;)」という顔をしていた。
正直、ここまでのケンカはした事がなかった。
もう、謝って許されるレベルじゃないな・・・。