先日、首相官邸で安倍首相と会談し、「政治生命を懸けた冒険」を持ちかけ安倍首相も乗り気だったと報道されたが、その後、動きがない。この件について毎日新聞が田原総一朗にインタビューしている。当然、中身は極秘なので明らかにしてはいないが、外交に関する事項のようだ。その他、匂い程度は感じられるかなという内容だ。
どうにも気になる。ジャーナリストの田原総一朗さんが、である。先日、安倍晋三首相と官邸で会談し、「政治生命を懸けた冒険」を持ちかけた、と報じられているからだ。これに首相も乗り気だというから、中身が気にならないはずがない。田原さんを直撃した。【吉井理記】
東京は長雨の夏である。
都内のマンションに田原さんを訪ねたこの日も、重たい雨が鉛色の空から落ちていた。記者の胸中そのままの光景である。
御年83歳、政界の重鎮とも電話一本で話し合う報道界の大先輩だ。40過ぎの私など、コドモに過ぎないであろう。謎に包まれた「冒険」の中身、ヒントすらつかめず、あしらわれるのがオチではないか。
そこへ討論番組でおなじみのグレーのスーツ姿で現れた田原さん、「母校が負けちゃって……」と一言。今夏の甲子園、滋賀代表の母校・彦根東はこの日、2回戦で惜敗したのだ。勝っていたら舌も滑らかになっていたのでは? そんな自分勝手な打算を重ね、まずは内閣改造後の安倍政権の評価から。
「内閣支持率は下げ止まったけど、先は分からないよ。実は国民が一番不信感を持っているのは閣僚じゃなくて、安倍さん自身だ。内閣を改造しても国民は『変わった』と思えない」
森友・加計(かけ)学園問題、閣僚の失言、「安倍チルドレン」の不祥事。長く続いた「安倍1強」体制で、政権や自民党内から緊張感が薄れたことが大きいと言う。さらに「何より安倍さん自身に緊張感がない」と言い切った。
「緊張感は安倍さんに戻ったって? 戻っていないよ。そうだとしたら10日の国会の閉会中審査、元防衛相の稲田朋美さんを呼ぶべきだったね。加計学園問題だって、去年、加計孝太郎理事長と7回も飯を食っている。加計学園にとって一番大事な獣医学部(新設)の問題を話していない、ということを信じろというほうが無理だよ」
自民党の議員の多くも「『問題だ』と思いながら、安倍首相に何も言わなかった」と指摘する。確かに、度々「特集ワイド」に登場し、首相を批判してきた自民党の村上誠一郎元行政改革担当相は「小選挙区制になって、公認権も人事権も首相周辺に集中し、モノが言えなくなった」と嘆いていた。
田原さんもうなずく。「自民党の劣化だ。小泉内閣までは昔の中選挙区制時代に当選した議員も多かった。だから執行部を批判するのは当たり前だったんだ。でも今や、議員の半分近くが安倍チルドレン。みんな安倍イエスマンになってしまった」
さて、「冒険」である。
発端は7月28日、田原さんが安倍首相から昼食に招かれたことだった。会談後、報道陣に「首相に『政治生命を懸けた冒険をしないか』と提案し、首相も乗り気だった」と明かしたのだ。
政界やメディアは大いにざわついた。でも、田原さんは「話したらぶち壊しになる。でも首相は近く動き出すと思う」と、中身について口を閉ざしたままである。以来「拉致問題解決に向けた首相の電撃訪朝だ」「衆院解散か」「消費税減税かも」といった臆測が渦巻く。当事者は何を語るのか。
--「冒険」は内政問題?
「外交問題だよ。おそらく今月中に安倍さん、アクションを起こす」
--ジャーナリストとして、国民に話してほしい。
「ぶち壊しになる。相手のある話だから」
--首相の訪朝など、拉致問題で何かの動きを?
「それはそう簡単なことじゃないよ。(数秒沈黙)その前にもっともっと難しい問題がある」
--ミサイル問題?
「いやまあ……その前にもっと難しい問題がある」
--中国との関係?
「いろいろあるんですよ」
--今、北朝鮮のミサイル問題で米国と北朝鮮が挑発合戦をしている。日本が主体的に解決の道筋を描くとしたら、田原さんならどうする?
「それを言ったら……だって、それが構想だから」
--そういう話ですか。
「うん」
--北朝鮮のミサイル問題解決に向けた政治生命を懸けた冒険?
「うん」
このやり取りの後、次のようなエピソードを明かした。
第1次安倍政権発足前の2006年6月、田原さんは安倍氏(当時・官房長官)に「首相になったら、まず日中関係改善のため、中国に行って胡錦濤国家主席(当時)に会え。中国首脳が来日するまで、靖国神社に参拝するな」と助言。06年10月の胡主席との首脳会談や翌年の温家宝首相(同)の来日につなげた。
--では今度も、似たようなことが起こる、と。
「もっと大きいことでね」
--まず中国と仲良く?
「中国を敵にしたのが日本の失敗の歴史だ。中国脅威論は絶対に間違いだ。安倍さんにも言っている」
--ミサイル問題解決に向けたアクション……。
「ミサイルだけじゃないけどね。はっきり言えなくて申し訳ない」
うーむ。キーワードは北朝鮮、ミサイル、中国、それに核兵器開発問題も加えるべきだろう。今年の終戦の日、第2次安倍政権発足後初めて、閣僚が一人も靖国神社を参拝しなかったのも気にはなる。これも「アクション」の一つなのか。
それにしても、だ。時の首相と食事をし、あれこれと指南する。ジャーナリストとして、公平性は保てるのか? 「どっちが金を出したか、ということ。僕自身はいつも会費制、割り勘だし、何もタブーを持っていないから、がんがん言えるんだ」
確かに、このインタビューでも「9条1、2項を変えずに自衛隊の存在を新たに書き込む」という安倍首相の9条改憲論を「あんなのインチキだ」と指弾していたし、雑誌などでも首相批判の筆は変わらず鋭い。
怖いもの知らずの田原さんはともかく、報道各社のトップが首相や政権幹部と会食を繰り返せば、現場には政権を恐れる空気が生まれるのではないか?
「恐れるんじゃない、自己規制しちゃうんだ。新聞もテレビも、上層部が『やめとけ』と。変なことやると偉くなれない、飛ばされる、と考えるんだ」
最後に付け加えた。「僕はかつて宮沢喜一、橋本龍太郎の両首相を番組で面と向かって厳しく批判し、失脚に追い込んだことがある。でも失脚させて、批判だけしていていいのか、日本はどうあるべきか、日本の政治はどうあるべきかを考えなければいけないな、と思うようになって……」
その「憂国の情」が、今回の「冒険」を思い付かせた、ということか。その結末、せめてハッピーエンドになることを祈りたい。
■人物略歴
たはら・そういちろう
1934年、滋賀県生まれ。テレビ東京ディレクターとして多数のドキュメント番組を制作し、77年にフリー。司会を務める討論番組「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)は放送開始から30年を迎えた。著書に「日本の戦争」など。