こんばんは。みむです。
こちら、パラレルです。
苦手な方は、お戻りください。
砂漠の国の物語 外伝4-4
キョーコは己の手のひらから顔を上げた。
こんな所でいつまでも俯いていられない。
夜の始まり。すでに王宮の灯りも最低限まで落とされた時刻。
王夫妻の寝室の入口で、キョーコは改めて気合いを入れた。
優しい侍女達の言葉を胸に。
愛しいあの人を信じて。
ーーー君は、ただの子供だよ
ーーー心ない言葉に傷ついた
ーーー小さな、可愛いただの女の子だ
深呼吸の後、寝室に入ると、彼女の夫が書類から顔を上げた。
その少し驚いた顔に、キョーコの眉がキリリと上がる。
「また…!陛下!こんな小さな灯りでお仕事なさらないでとあれほど申し上げたではないですか…!」
「いや、これは…」
「この部屋にはお互いお仕事を持ち込まない。二人でそう決めましたよね?」
「そうなんだけど…その書類は明日の朝一で使いに持たせたいもので…」
「だからってこのような中で…!どうしても続けるとおっしゃるならもっと灯りを持たせます!わたくしも勿論起きていますからね?よろしいですか⁉」
腰に手を当てて怒りを顕にするキョーコに、レンが参ったなと笑った。
仕事は明日の朝にするから人を呼ばないでと言って諸手をあげる彼に、鷹揚に頷いてキョーコは書類の奪取に成功した。
そんなキョーコの書類を持たない方の手を、緩くレンが取った。
「キョーコ…?」
甘えた声のそんな小さな呼び掛けだけで、赤くなる耳を見つけて、レンの胸がじわりと温かくなる。
ゆらゆらと、揺らす、緩く繋いだ指先。
「今日はここで、寝てくれるの?」
まだ、彼女にとっての安全日とは言えない今夜。
彼女が小さく息を飲んだ。
微かによぎった恐怖の色に、胸を痛ませながらも、レンは緩く繋いだ手を離せないでいた。
潤む瞳が、逡巡して震える唇が、彼女の思いをかたどるのを待つ。
「キョーコ?」
「ここで…ここに、居ます。あなたのお側に…いたいです」
けれど
『悪魔の子…‼』
まだ、心が竦んでしまう
痛む心に耐え、彼女の眉が苦痛に歪んむのを、レンが心配そうに見つめる中、
まるで、懺悔するように彼女は言葉を吐き出した。
「………今夜は、したくありません」
言って彼女はぎゅっと目を瞑ったので、
レンは甘く苦笑した。今度はその手を強く握りなおして、そっと引いた。
きっと、断頭台にでも立った気分でいるのだろう。
周囲にとっては、水くさいことこの上ないのだが
彼女にとっては、闇雲に逃げるのをやめ、レンを信じてくれた、大きな一歩なのだ。
「ん。いいよ。しなくてもいいから…一緒に寝よう。きっと優しい夢を見るよ。」
嬉しそうなレンの笑顔とは対象的に、キョーコはぐしゃりと顔を悲しみに歪ませた。
「……ぅ………」
「うん?」
「…ダメですぅ…」
「ひどい顔だね。ほらほら、こするんじゃない。」
ボロボロと泣き出したキョーコに、レンは笑って涙をぬぐってやった。
「君だって、知ってたろう?俺は君を甘やかすのが大好きなんだって。俺の答え位、予想してほしいな」
こぼれ落ちる髪をすいて耳にかけてやりながら、顔を覗き込むと、彼女が首を横に振った。
信じていた。わかっていた。
彼が無理強いを、しないこと位。
けれど、その甘さに浸る事が
「ダメですぅ…どうして…義務も果たさずに、なのに愛してほしいだなんて…そんな勝手が…許されてはいけませ…」
えぐえぐと子供のように泣くキョーコに、レンはやれやれと息をついた。
「別に毎夜毎夜、してるわけじゃないだろうに」
そう言って、性を感じさせない抱擁をした。
小さい子にするみたいに「よしよし」と背中を撫でる。
「大丈夫大丈夫。」
華奢な身体を抱き締めて、寝台に横たわると、レンはその黒髪にキスをした。
震える身体。願う事を覚えた女の子。
心を締め付ける、妄言を、疑うことを知った子供。
逃げる事を選べるようになったひと。
逃げながらも、恐れながらも、手を差し伸べることができるようになった
愛しい子。
大丈夫。
大丈夫。
何回だって、言ってあげる。
「君は許される」
*****
書類はぺそりと床にでも落ちてしまったんでしょう(←だいなし)
これにて外伝4は完結です。
本編から時間軸が進むにつれ、キョーコさんの泣く回が増えてます。
ううう…。
しかし、寝室シーンの多い話。の割に、桃色にならない話(笑)
お粗末!
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