電話 | みむのブログ

みむのブログ

こちらはス/キップ/ビートの二次小説ブログです。CPは主に蓮×キョ-コです。完全なる個人の妄想から産まれた駄文ですので、もちろん出版社等は全く関係ありません。
勢いで書いていますので時代考証等していません。素人が書く物と割り切ってゆるーく読んでください。

暑い日が続きますねおはようございます。みむです。

仕事が立て込んで息も絶え絶えでございます。…しかし、こんな時のが書けてしまう。そんな現実逃避…。

先日アップした願い事の続き…?みたいな、そうでもないような。願い事を読まなくても大丈夫です。

そして、卑怯にも先に謝ります。
わたくし、映画がどう作られるのかとか、よくわからず…。
いやいや、現実的にないでしょ!みたいなことになってます。

すみません。勢いで書きました。
雰囲気で、読んでいただけると助かります。
まぁ、拙宅の話で、そうではない話がないのですが。重ねてすみません。



CRY FOR THE MOONの設定で、付き合い後、日本とアメリカの遠距離恋愛の二人





電話



都内の某スタジオ。

近くクランクインの映画のために確保されたその建屋の稽古場で、監督の黒崎は呆れた顔でとある女優と向き合っていた。

「納得いきません‼」

よく訓練された役者の声が、稽古場に響き渡る。

今回の映画は、母親に捨てられ、父親からの不条理な暴力に耐え、健気に生きてきた主人公があることをきっかけに罪を犯す…。彼女の中で不均衡にユラユラと揺れる天秤を、主役に抜擢された女優は演じなくてはならない。

前半では儚くか弱い主人公は観客の同情を誘い、後半ではその深い闇に薄ら寒い恐怖を与えなくてはならない。

「どうして私ではなくあの人なんですか⁉あんな、イジメ役しかできないタレント上がりの女優が!事務所のゴリ押しで売れているようなものじゃないですか‼」

主役をとれなかった女優が怒りに顔を真っ赤にして黒崎に詰め寄った。なかなか根性のある女だ。
彼女は国営放送のドラマにも出演経験のある、知名度の高い女優。
特に泣きの演技に定評があった。

食らいついてくるその姿勢は嫌いではないが、今回はその主張を受け入れてやることはできない。

黒崎は大きく溜息をついた。
黒崎は話題の渦中にありながらも我関せずと稽古場の隅で台本を読んでい主演女優を呼んだ。

「おい、京子」

「はい」と返事をして立ち上がったのは、役のために黒く染め直した髪を一つにまとめた一人の女性。
ひたり、と据えられた視線にニヤリと笑ってみせた黒崎は、おもむろに台本をめくって言った。

「お前、今からここを演じてみろ。シーン78」

言われて台本をめくった京子は、内容を確認すると、「はい」と一言返事をした。

自分の台本をめくった女優が、そのシーンを確認して驚きの声をあげる。

「待ってください!このシーンは…!」

本来、子役が演じるはずの、主人公の子供時代の話…!

「シーン78」

カチンコが、鳴った。



手足が凍える、冬の深夜。

『莉奈』の小さな足が、氷のように冷たいフローリングを踏む。
そっと、そっと。
眠る父親に気づかれぬように。
彼女の顔に不安の色はない。恐怖もない。
ただ、虚ろに、空を彷徨う硝子の瞳。

小さな手が、弱々しくさ迷って、
何度も後ろを振り返った。父親が眠る寝室の方向を、確認した。

ようようとりあげたのは電話の受話器だ。…しかし、彼女はプッシュボタンを押さない。…押せない。
彼女は繋ぎたい相手の、その番号を、知らなかった。

10歳に満たない、幼い少女。

力なく落ちた肩。

小さな電子音が、無情にも響く中、初めて、彼女の肩が震えた。

「…ぁさ…」

震える声が、小さな唇から零れる。

スタッフは固唾を飲んで、思わず身を乗り出した。彼女がなんと言ったのか。何を言ったのか。
痛いほどの沈黙の中、かすれた小さな声。

「…ぁさん…おか…さん……!」

嗚咽と共に、涙がポロポロと零れる。
受話器を持たないもう一方の手が、いとけなく目元をこすった。けれど、そんな乱暴な手でも、その涙を止めることはできず
後から、後から、零れ落ちる涙が、頬を伝って顎先から落ちた。
細い足は、今にも崩れ落ちてしまいそうなのに、必死に冷たい床を踏みしめている。
座り込むことはできなかった。

座ってしまったら、きっと、もう、立てない。

「おかあさん…!」

それは、慟哭だった。

小さな小さな少女の、
この、現実を受け入れるには柔らかすぎる心を持った幼い少女の

助けを求める、悲鳴。

「お母さん…!お母さん…!どうして…」

どうして、あたしも連れて行ってくれなかったの…?


父と自分を置いて、出て行った母親。

そこには、
20歳を超えた女性ではなく、確かに10歳に満たない小さな少女がいた。


「カット」



しん…と静まり返った稽古場で、黒崎が女優を振り仰いだ。

「どうだ。これが、お前が「イジメ役しかできないタレントあがり」と言ったやつの演技だ。」

女優の唇がわなないた。

「この後、同じシーンを演じてみるか?」

その、手の中の目薬でも使って。


******

「社さん、あの子…大丈夫ですか」

事務所にて
奏江に固有名詞もないまま問われた社は、けれどすべてを察して首を横に振った。

「あまり、大丈夫じゃない。…食も細くなったし、夜もあまり眠れないみたいだ。楽屋で、少しだけ眠ってる。」

彼女は役を「憑ける」役者だ。
それは、役を「落とす」ことができなければ、プライベートにまで侵食されるということ。


『母親』に、捨てられた、娘の役を


「今回は…社長も反対したんだけど。本人が、仕事を断りたくないって頑固でね。」

社は溜息をついた。
奏江の眉間の皺を見て、苦笑する。

「キョーコちゃんは、うまくSOSを出してくれるといいんだけど。」

『莉奈』は出せなかった、出しても受けとる者がいなかったSOSを、キョーコは出せるといい。

社も奏江も、感度鋭くアンテナを立てて、待っている。


******

目を覚ますと、そこには見慣れた天井があった。
ゆっくりと、手のひらを握りしめ、開くを繰り返し覚醒を促した。

大丈夫。

私の名前は最上キョーコ。

大丈夫。

ここは一人暮らしの私の部屋。
ゆっくりと、身を起こした。最近は、あまり急に起き上がると眩暈がして、起き上がるのに余計に時間がかかってしまう。

やれやれ、と思う。

いい加減、切り替えがうまくできてもいいと思うのに。
マネージャーの心配顔を思い出して、苦笑した。

わたしは大丈夫なのに。

窓を見れば、まだ深夜。
夏の盛りを前に、けれど今夜も夏本番のように蒸し暑い。
体力をそぎ落としているのは、この夏の暑さのせいだと言っているのだが、あの優しいマネージャーの顔は曇ったままだった。

「元気、出さないと…」

喉がカラカラなので、水を飲もうと真っ暗な部屋を進む。

湿度が高くて、空気がドロリと重い。そんな空間を、漕ぐように進んだ。

暑い

身体が重くて

暑い…あつい…



『…まったく、この忙しいのに風邪なんて…!』

ごめんなさい、おかあさん

『…起きたら、この薬飲むのよ。水も置いておくから。私はもう行くわ。一人で大丈夫よね?』

はい、おかあさん。大丈夫。大丈夫よ。

いい子にしてるから

はやく、かえってきてくれる…?

『今日は無理よ。後で松太郎くんの所のお母さんに来ていただけるように頼んであるから」

………あぁ………

…わかった。…いってらっしゃい。

だいじょうぶ。わたしはだいじょうぶ。
一人でも、平気。
静かな部屋も、暗い部屋も
大丈夫。


『今日は無理よ』


だって、いつものことだもの。

今回だけ、耐えられないなんて、そんなこと


今回だけは、そばにいてなんて、そんなこと


無理よって言われたら

嫌よって言われたら


悲しくて苦しくて

一人で

ずぅっと、一人で



自分以外に、音のない、そんな夜も




ーーーこれはわたしの記憶?
それとも『莉奈』の感情だろうか。

混ぜてはいけない。ひきずってはいけない。

わたしは役者なんだから。

記憶を引っ張り出してただトレースするだなんて、演技じゃないわ。

わたしは莉奈とは違う。

莉奈が持つ、『優しい母の記憶』
心の支え

わたしは莉奈のように、母親に縋ったりしない。
母にはなんにも、期待してない。


わたしは、大丈夫

けれど

ああ、暑い

暑くて、苦しくて、痛くて

……寂しくて、






うだるような暑さの、夏の深夜。

小さな素足が、湿度を持つフローリングを踏む。
そっと、そっと。
彼女の顔に不安の色はない。恐怖もない。
ただ、虚ろに、空を彷徨う硝子の瞳。

小さな手が、弱々しくさ迷って、

ようようとりあげたのはベッドの上に放っておいた携帯電話だ。…彼女はプッシュボタンを押した。
彼女は繋ぎたい相手の、その番号を、知っていた。

力なく落ちた肩。

小さな電子音が、無情にも響き、やがて、留守電に切り替わった。

初めて、彼女の肩が震えた。

「…さ…」

震える声が、小さな唇から零れる。

痛いほどの沈黙の中、かすれた小さな声。

「…がさ…つる…さん…!」

嗚咽と共に、涙がポロポロと零れる。
電話を持たないもう一方の手が、いとけなく目元をこすった。けれど、そんな乱暴な手でも、その涙を止めることはできず
後から、後から、零れ落ちる涙が、頬を伝って顎先から落ちた。
細い足は、今にも崩れ落ちてしまいそうなのに、必死に床を踏みしめている。
座り込むことはできなかった。

座ってしまったら、きっと、もう、立てない。

「つるがさん…!」

それは、慟哭だった。

小さな女の子の、
この、現実を受け入れるには柔らかすぎる心を持った女の子の

助けを求める、悲鳴。

「あいたい…あいたいです…つるがさん…!」

苦しいです。苦しくて苦しくて。

つらいです。

そばにいて。

今回だけでいいから。

そばにきて。

頭をなでて、大丈夫だよって、言って。

「あいたい…」

真っ暗なリビングに、嗚咽だけが残って
録音時間を終えた留守電の、無機質な音が響いていた。


その夜、彼女は高熱を出した。




キョーコは夢を見た



母のまっすぐな背中を見送った

泣いた
悲しくて、悲しくて泣いた

熊のぬいぐるみを抱いていた

白衣を着た敦賀さんが、ホワイトボードに人型を描き、何か説明していた

わたしは映画館のふかふかのシートに座って、それを見ていた

社さんが心配そうに顔を覗き込んで、冷たいタオルを額に載せた

『大丈夫だから、休みなさい。』

子供みたいに頷いた

夜の路地裏を走っていた

怖いものに追われて走っていた

苦しくて、泣いていた

タキシードを着た敦賀さんが、綺麗な女性達に囲まれていた

流れる、軽やかなワルツ

わたしはそれを遠くから見ていた

モー子さんが、怒った顔で薬を差し出した

怒った顔もきれい

モー子さんは『馬鹿なこと言ってないで』と言って、けれど優しい手つきで額の汗を拭いてくれた

母が、眉間に皺が寄った顔で、こちらを覗き込んでいた

母の背中を、見送った

静かな空間で、涙を、こぼした

誰かが、隣りを歩いていた

誰かの音が聞こえる空間で、優しい気持ちに涙がこぼれた

敦賀さんがしかめた顔でこちらを覗き込んでいた

大きな、乾いた手のひらが、キョーコの額を覆ってくれた

心の強張りが、ほぐれていって

思わず差し伸べた手を

彼が


*****

ふ…と意識が上昇した


視界には、見慣れた天井。

「ああ…」

夢を

優しい夢を見た後は、いつもがっかりするけれど
心はまるで羽がついたように軽くなる。

知らず、微笑みが浮かんだ。

大丈夫。わたしは大丈夫。

いつものように、ゆっくりと手のひらを握りしめようとして、そこに、いつもと違う感覚

大きく、温かな

「え………」

キョーコの目が、見開かれた。

「……つるがさん………?」

遠く遠く、太平洋の向こうにいるはずのひとが今、ベッド脇に座って、キョーコの手を握ったままベッドに突っ伏して寝ていた。

疲労が色濃く見える顔

力なく、けれど、優しく覆われた右手


「本物だよ」


混乱するキョーコに声をかけたのは、寝室の入り口に立っていた社だった。

「留守電聞いて、飛んで帰ってきたんだ、こいつ。不器用なやつなんだよ。電話で確認する間も惜しかったんだって。」

奏江が社の横から顔を出した。

「あんた、身体は大丈夫?丸々二日は寝てたのよ。」

「え…?」

混乱する頭に、次から次へと情報が舞い込む。

社の顔を見て、奏江の顔を見て、

ゆっくりと、突っ伏して寝る蓮の顔を見た。


「……え……?」


まだ、夢の続きを見ているのだろうか。

だって、彼は、アメリカにいるはずで
大役のオファーをもらえて
しばらく帰れないって

「……会いたいって、言えたんだろ?キョーコちゃん」

キョーコの頭の中を覗いたように、社が言った。


言っただろ?
君のためなら、こいつは喜んで限界の一つや二つ、超えてみせるって





*******

一話に詰め込んだ………!


すみません。いろいろすみません。

そして、兄さん、ごめんな…。
たくさん頑張ったのに、キョーコちゃんといちゃつけもしなかったな…。



iPhoneからの投稿