暑い日が続きますねこんばんは。みむです。
キャラが崩壊しつつあるので本当に申し訳ない。パラレルと割り切ってください。お願いします。この通り。
バンパイアもの、小話です。
この話は、吸血鬼蓮くんと退魔師キョーコちゃんのお話。
バイオレンスなし、耽美なし。
ほのぼの路線を目指しています。この素材で何故そうなるのか…。
よかったら同じカテゴリの既にアップされてるお話からお読みください。
一話完結を目指すなんて言ってしまったのを、軽く後悔しています。
どうぞー
薄曇りの街~ともに映画を~
コツコツコツ…
石畳をヒールが打つ音が、殊更大きく聞こえる夜。
彼女は家路を急いでいた。今日は定時であがるはずだったのに、予定外の残業で結局は日付けを超えそうな時間になってしまっている。
腕時計を確認しながら、夜道を歩く。
深夜の住宅街に、彼女の足音ばかりが響いた。虫の声も何も聞こえない、不自然な静けさのなか
彼女は、自分の足音に重なる、「もう一つの音」に気がついてしまった。
コツコツコツ…
カツカツカツ…
コツコツ…
カツカツ…
カツ………
急に立ち止まった彼女の背後で、確かに一歩、足音が響く。
鞄を持つ手が震えた。
早鐘を打つ心臓を宥めながら、彼女はルートを変えて速足で歩きだす。
カツカツカツ…
コツコツコツ…
再開される、もう一つの足音。
彼女はとうとう走りだした。
息がきれる。
心臓は速く鼓動を打ち過ぎて、胸を突き破ってしまいそうなほどだった。
------次の角を曲がれば、比較的大きな通りにでる。交番だってある。
あの、角を、曲がれば…!
角を曲がった瞬間、彼女の視界を覆った大きな影
悲鳴が、夜空に響き渡った。
「うっひゃああぁあ⁉」
ソファーの上。
お気に入りのクッションを抱えて、なおかつコンパクトにその長い脚を抱え込んだキョーコが、素っ頓狂な悲鳴をあげたのを、ソファーの反対端に座って本を読んでいた蓮が呆れて見やった。
ブラウン管の中は、モノクロの世界。
髪の長い女性が、男の手を振り切って必死に逃げているところだった。
キョーコは真っ青な顔で、クッションを最後の砦の様に強く抱きしめながらもなんとか見ている。
(しかし…ホラー映画を恐がる退魔師って…)
どうなんだろうと蓮は思う。
そう、彼女が見ているのはホラー映画だ。フィクションだ。
もちろん、監督も役者も、作り手は「ホンモノ」なんか見たことも聞いたことも信じてもいない人達ばかりだろう。
怖がりながらも、彼女は映画に夢中なようだ。
つられて見ると、女優の右側にあるドアがキィ……と開いて、突如として現れた正体不明の腕に捕まった彼女が必死の抵抗を見せていた。
蓮が読みかけの本に視線を戻すと、小さな声が蓮を呼んだ。
「なに?」
視線をあげると、ブラウン管に釘付けだったはずのキョーコが思いのほか近くに居た。
「ちょっと、近くにいていいですか?」
「…いいけど」
キョーコはホッと表情を緩めると、お礼を言ってぴたりとその右腕を蓮の左腕の当たりに寄せて座った。
そしてまた、ブラウン管が彼女の視線を奪う。
「………」
まさか、とは思ったが、試しに蓮は言ってみた。
「…ねぇ、最上さん。それだと左側は無防備だけど、いいの?」
言葉の効果は絶大だったようだ。
大きく肩を震わせた彼女は、そろそろと己の左側…つまり、誰も座らないソファー部分を見た。このソファーは三人掛けだ。
一際大きな女の悲鳴が発せられ、彼女は大きく飛び上がった。
「………ねぇ、そんなに恐いなら見なければいいんじゃない?」
冷静すぎるツッコミをする相棒を、キョーコは涙目で見上げた。
「うぅ……すみません。でもこのビデオ、明日教会で光さんにお返ししないといけなくて…」
蓮の左腕を抱き込んで謝りながら、彼女はなおもブラウン管を見る。
ぴるぴると震えている彼女は、とてもじゃないがゴブリンを素手で捕まえる退魔師とは思えない。
「だって、この映画はそういう恐さじゃないんですよ!」
呆れ返った蓮の気配を感じた彼女が必死に言い訳をした。
「呪いなんです!なにしたって許してくれないんです!防ぎようがないんです!」
「ふぅん?」
「普通の人まで変えちゃうんですよ!操ってしまうんです!やつがベッドの下からこちらを覗いていたのに主人公が気付いた時のワンカット、ご覧になりましたか⁈あの、こちらを見ているはずなのに視線が合わない恐ろしさといったら…!」
「…ごめん、よくわからない」
違いが。
彼女の日常と、何か違うのだろうか。
「ぜんっぜん違います‼いいですか?だってこれは最初から怖がらせようってしてるんですよ?そう作ってあるんです。音とかタイミングとかカメラワークとか!恐いに決まってるじゃないですか⁉」
うーん。
「背中とか、異様に恐いんです。振り返れば何かいるんじゃないかとか…!」
「あ。」
「きゃあぁぁあああ⁉」
キョーコの背後に視線をやっての一言に、キョーコは盛大な悲鳴をあげた。
「なに⁉なんですか敦賀さん!なにがいるんですかなにがおこったんですかー!」
蓮の目論み通りに目の前の広い胸に飛び込んだキョーコは半ばパニックになりながらも後ろを振り向けない。
「いや、勝手口、鍵閉め忘れたかもなって。」
「…は?」
涙を浮かべて見上げるキョーコににっこりと笑いかけて、蓮は「確かめてくるよ」とのたまう。
「そ、そんな…」
ブラウン管ではすでにエンドロールが流れていた。
次回作へつながるような意味ありげなラストだったが、彼女は見逃したことにまだ気づいていないようだ。
本を閉じて今にも立ち上がろうとする蓮の服を掴んだまま、キョーコが目をウロウロさせる。
「い…一緒に行きます…」
「勝手口見てくるだけだよ?」
「ううぅ…、行きます。」
きゅっと蓮の服の裾を掴むキョーコに、
「この家にはなんにも居ないよ。入った時に二人で掃除したろ?」
「敦賀さん、だからそういう恐さじゃないんです!」
「君、そんな事言ってないで、今夜はもう寝なよ。明日は教会から呼び出しがかかってるんだから。」
一人で部屋に戻らなくてはいけないことを思い出したキョーコがピッと背筋を伸ばした。
「つ…敦賀さん…」
「なんでしょうかお嬢さん。」
「にゃ…にゃんこになっていただくことなんて…」
「なって?どうするの。」
「い…一緒に寝ていただくことなんて…」
「大胆なお誘いだね、最上さん。この家を買ったばかりの頃は同棲って言葉だけであわあわしてたのに」
「同棲じゃなくて同居です!それに、変な言い方しないでください。だからにゃんこになってくださいって…!」
「やだよ。また潰されたくない」
「潰しません!潰しませんからー!一緒に寝てくださいー」と泣き言を言うキョーコの手を引きながら、蓮は思う。
フィクションのホラーに恐がって
リアルのバンパイアにすがる退魔師とか
どうなんだろう…。
******
乙女っこキョーコちゃんは、『一緒に寝て』なんて、絶対に言わないのでしょうが…。
うう…すみません。二人の距離が近すぎる。相棒にしたらこの状態はすでに家族…!
キョーコちゃんが安心しすぎてまったく恋のカケラも…。
何故だ。ほのぼのは目指したが、この素材で何故にこうなる。
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