先日、入院中の母を見舞ったとき、もう意思の疎通は全くできないけれど、それでも皆、声をかける。
食事もできない母に私はことさら明るく声をかけた。
「おかあさん、おかあさん、何か食べたいものある?」
その瞬間、無い、というふうに母は首を横に振った。
「お前、もう一度声をかけてみなさい。」すかさず、父が私に言う。
同じ問いに、また、首を横に動かした。
父と私たち子供3人は
「通じたね!」と喜び合った。
~おかあさん~
小さかった私たち3人の子供から母は何度そう呼ばれたのだろうか。
ほとんどのことを忘れても、そう呼ばれた日々のことは記憶のどこかに残っていて欲しい。
きっと、人生のうちで一番きらめいていた時間だっただろうから。
でも、もし全部忘れてしまっても大丈夫。
私たちが覚えているから。