私がはじめてミャンマーの紅茶を飲んだのは、20年前。当時新大久保にあったミャンマー料理店の、イーミンさんのところで。
ミャンマーの紅茶は、“ラペイエ(Lapheyei)”という。“ティー(tea)”でも、“チャ(cha)”でも“テ(thé )”でもない。
この紅茶、独特の風味がある。茶葉を自然発酵させた後、真っ黒になるまで炒って焦がすのだ。まるで番茶のような味わい。これを濃く煮出して、たっぷりのコンデンスミルクを入れる。ベトナムコーヒーの、紅茶バージョン。
インドやスリランカの紅茶は、19世紀、イギリス人の手により、いかに繊細でフルーティな味わいの紅茶を作るのか徹底的に管理され、その確固たる地位を確立した。
インドからその手をビルマ(ミャンマー)まで伸ばそうとしたイギリスは、ビルマでも紅茶の栽培を試みる。しかし、ビルマを統治するのに思いのほか時間がかかってしまったイギリスは、その途中で紅茶栽培から手を引く。
結果、イギリス式の紅茶がつくれずじまいとなり、ミャンマー人好みの独自の“ラペイエ”が生まれた。
ミャンマーの人は本当に、香ばしく焦がした味が好きなのだ。
ラペイエに合わせるティーフードは、フレンチトーストや揚げパン、隣国であるインドからきたサモサや、中国の影響をうけた肉まんなど、なんでもあり。ミャンマーのラペイエ屋は、インドのチャイ屋と同じかんじ。どこにでもあり、どこのお店でもお客さんがたくさん。社交の場。でもインドと違うのは、この甘いミルクティーのあとは、必ず緑茶を飲む、ということ。それも水の感覚で。これは中国の影響かな、と思う。
そしてもうひとつ。
食べるお茶、“ラペット”。これは、生葉を漬け物にし、ピーナツオイルとレモン汁、魚醤、フライドガーリックや干し海老やゴマなどで和える。まるでサラダのようなこのラペットは、緑茶と一緒に楽しむ。
そう、ミャンマーは紅茶も緑茶も独特の方法で、丸ごと味わい尽くすのだ。こんな国は、他にない。