スシバーにやってくる客はみな、スシマンに飲み物をおごりたがる。
隣の客がやっているので、マネしたみたくなった客。
そうするのがツウだと、信じ込んでいる客。
スシマンを友人だと勘違いして、彼らと飲むことを目的にやってくる客。
もちろん、レストランのルールはいろいろで、客からすすめられても丁重にお断りするように、というところもある。
が、多くの場合、営業時間中、客からおごられた場合の飲酒はOK、とのスタンスをとっている。
売り上げにもなるし、常連客作りにも一役かっているだろうし、客とのコミュニケーション作りにも役立っていると思う。私は、客のおごり賛成派にまわりたいが、この習慣は、なんちゃってスシマンの大いなる勘違いにも、一役かっているような気がしてならない。
アメリカで生活費をかせぐため、他に選択肢がなく、さほど興味や知識があるわけでもないのにスシマンになり、ヘナチョコなんちゃってロールをようやく巻けるだけなのに、それなりの給料とチップを稼ぐ。
それだけでも片腹痛いのに、客からおだてあげられ、サケをおごられていい気になってる奴をときどき見かける。
いっぱしのシェフにでもなったつもりか、客と飲むのが仕事だ、と言わんばかりに、仕事そっちのけで客と飲んだりしてる奴に限って腕はまったくないし、ウエイトレスやキッチンで働く同僚を、見下したりする。
さんざん待たされたあげく、出来上がったスシはへったくそで、ほんとイライラさせられるが、まあいい。こんな野郎にロクな未来はない。(`∀´)
それでも、客はスシマンにサケをおごりつづける。
若い女性客グループが、
あのシェフにお酒をおごりたいの。(*^o^*)
と指さすスシマンは、たいがい若くて、彼女たち的には、イケメンなんだろう。
イケメンかあ?とつっこみたくなるご面相の彼に、あのテーブルの女の子たちから、と、ビールを運ぶ。
おごられたスシマンは、あったりまえよ、といった風にすかした視線で女の子テーブルをチラと見る。
なんか、むなしい瞬間。orz
おごられるのは、スシマンばかりじゃない。
シャイで大金持ちでゲイの常連さん。
客のなかに気に入った男の子がいると、
お客さん全員に、今飲んでるものを一杯ずつあげてほしいの。
(‐^▽^‐)
こじんまりしたお店でも、客全員となればダメージは大きい。
いいの、いいの。でも、ボクからだってことは、誰にも言わないでね。
(^人^)
その後、いったい誰から?と不審顔で店内を見渡す、お目当ての男の子に、熱い視線を送っているに違いない。(゚ー゚;
そして、もちろん確率は低いが、スシマンにおごるついでに、
キミもどうだい?(o^-')b
と、ウエイトレスにもすすめてくれる客がいる。
スシマンと違い、ウエイトレスが仕事中に飲むことには、あまり寛大でないレストランが多いと思うが、私のボスは、
もらえるものは、遠慮なくいただきなさい。
という。私は素直がとりえなので、遠慮なくいただいている。
ただ、私には一つ弱点がある。日本酒が一切飲めない。
もちろん、強制されるわけではないのだが、あっちの客からもらったビールを飲んでいるのに、こっちの客のサケはお断りする、というのも気が引けて、おちょこに一杯もらうハメになる。orz
持ち込みの高級ワインだったら、大歓迎なのに。
ビールにはじまって、日本酒、ワイン、焼酎、店にあるすべての種類のアルコールに手を出す夜もある。ハードリカーを扱うレストランにいたときには、ウォッカのショットをおごられて、さすがに困った。
5人連れのファミリー客。
お父さんは、スシ伝票と鉛筆片手に、何を注文すべきか大いに悩んでいた。
アメリカ人のなかには、いまだスシと言えばカリフォルニアロールとスパイシーツナロールしか知らず、空腹を満たすだけのスシのレパートリーを持っていない客がいる。
彼の持ったスシ伝票を覗き込むと、案の定、カリフォルニアロールとスパイシーツナロールしかチェックしていない。
困り果てたお父さんは、私に尋ねた。
キミは何が好きかね?
えと…。私が好きかどうかは別にして、これとこれ、オススメですよ。
(;^_^A
と、いくつか提案した。
そうか、キミはこれが好きなんだな。
(しつこいな…)はい、好きです。おいしいですよ。(;^_^A
そうか、分かった。
と、彼は、2オーダーの意味で、スシ伝票に「2」と書き込んだ。
えと、1オーダーは2ピース。これでは、4ピースしかありませんけどいいですか?(;^_^A
ああ、かまわんよ。一つはボクのぶん。一つはキミのぶんだ。
ま、冗談はおいといて、5人家族といっても、誰か食べない人がいるかもしれないし、と、そのままオーダーを通した。
彼らのテーブルにスシが運ばれると、私はお父さん客に呼び止められた。
ほら、キミのぶん。(・∀・)
私が勧めた1オーダー分のスシが、小皿に分けられていた。
え?(;^_^A
食べなさい。一つはキミのぶんと言ったろ。(^~^)
いや私、冗談だと思っていたので、あの…。(;^_^A
え? キミこれ嫌いだったの?(゜д゜;)
いやいや、大好きですよ、でも。(;^_^A
じゃ、食べて。ほら。o(^▽^)o
気がつくと、家族全員が、私とお父さん客のやりとりに注目していた。
私はなぜか、スシを持った手を、彼らの差し出す水の入ったグラスに向けて、カンパイ!と言いながら、5人客の見守る前で、大口開けてスシを頬張るハメになった。
私の仕事って、いったい…。orz