ヒバリ3 ヒバリの仲間たち(2)コウテンシ(告天子)、雀雲雀ほか 

                                                       「スズメのアラブ民族誌(13)」


キーワード:
ヒバリの仲間たち 4-6,9亜種
9Melanocoryphaコウテンシ属Bimaculated Larkクロヒバリ
アラブ世界では2種
①Melanocorypha bimaculataクビワコウテンシ(首輪告天子)
②Melanocorypha calandra クロエリコウテンシ(黒襟告天子)
4Calandrellaヒメコウテンシ(姫告天子)属
アラブ世界には4種: 
①Calandrella branchydactykla タンシヒメコウテンシ(短趾姫告天子)Short-toed Lark
②Calandrella cinerea ズアカヒメコウテンシ、(頭赤姫告天子)Red-capped lark 
③Calandrella rufescens スズメコウテンシ(雀告天子) al-Qunbur al-“Usfuuriyy、
④Calandrella Somalica  ソマリアヒメコウテンシ(ソマリア姫告天子)
             Qubbarah Sumaaliyyah 

5Eremalauda尾筋ヒバリArabian Dunn's Lark、Arabian Lark、Dunn's Lark (Arabian)
                                       ウロコスナヒバリ、アラビアヒバリ
6Eremopterixスズメヒバリ(雀雲雀)、イロスズメヒバリ(色雀ヒバリ)
アラブ世界に生息する3種:
①Eremopterix nigriceps  頭黒スズメヒバリBlack-Crowned Finch Lark  
②Eremopterix leucopareia フィンチスズメヒバリ Fischer's finch-lark 
③Eremopterix signata クリガシラスズメヒバリ=ゴシキスズメヒバリ          
          Chestnut-headed Sparrow-Lark



Melanocoryphaコウテンシ属Bimaculated Larkクロヒバリ
ヒメコウテンシ属はアルファベット順では4番目Calandrellaに当たるので、ここで述べるべきであるが、ヒメコウテンシ(姫告天子)のヒメとは「小」の意味合いである。それ故、本流の「コウテンシ属」を先に述べた方が妥当であろう。「コウテンシ属」は学名をMelanocoryphaと言い、本稿では9番目に述べるはずであったが、それを先に述べる。

Melanocorypha の学名はmelanoは古代ギリシャ語ではmelaは「黒」、メラニンでご存じのであろう。そしてcorypha < koryza 「鼻・鼻目に流れる、に関する」の義 で、ここでは鼻=嘴、その下に流れる黒い大きな斑点も流れを指している。最も近い和訳用語は「クロオビヒバリ」(黒帯雲雀)ということになろう。「ヒバリ」の中でも褐色の濃い、黒い色に近い種ということになる。
和語のとは「ヒバリ」の別名であり、それがなぜ学名として同語反復のように用語として採用されたのか、不可思議である。

Melanocoryphaコウテンシ属、「クロオビヒバリ」(黒帯雲雀)属は大きく三つの仲間がある。
Melanocorypha bimaculataクビワコウテンシ Bimaculated Lark、
Melanocorypha calandra クロエリコウテンシ Calandra lark、
Melanocorypha mongolica モンゴルコウテンシ Mongolian larkである。
そのうちアラブ世界では上2種類が知られている:
①Melanocorypha bimaculataクビワコウテンシ
②Melanocorypha calandra クロエリコウテンシ 
である。しかし後者に関しては、アラビア半島中心の手許の資料には記載がなく、詳しく調べられないので割愛せねばならない。①について、この種の代表として述べてゆく。

Melanocorypha bimaculataクビワコウテンシ Bimaculated Lark
  
クビワコウテンシ(首輪告天子)Melanocorypha bimaculate  Bimacuculated Lark  の図2点 左オマーン203, 右バハレーン164。

①Melanocorypha bimaculataクビワコウテンシ Bimacuculated Lark
クビワコウテンシは、学名をMelanocorypha bimaculata と称され、種小名ラテン語由来の合成語で、bi(二つ),macula(班、筋、縞)の合成語で「二筋」の意味である。それ故「二筋ヒバリ」の義となろう。
英名もギリシャ語を採り入れたBimacuculated Lark である。
和語クビワコウテンシは首に黒筋があるところから、「首輪告天子」との用語とされたのであろう。
アラブ世界では二つの名称を持つ。一つはQubbarah Sharqiyyah Kabiirah(東方大雲雀)であり、<大>が付されるのは冒頭で述べたように次に述べる<小>=<姫>がいるからである。他の一つはal-Qubbarah al-Mutawwiq(首輪雲雀=クビワコウテンシ)との名称である。

クビワコウテンシの仲間は、5つの現存する種と少なくとも3つの絶滅種を持っていると言われる。
クビワコウテンシの仲間は、主に広大な平原や草原、ステップ地帯、半砂漠、砂漠に適応して生息している。南の湾岸諸国、西端のトルコから中央アジアから中国までの温帯アジアで生息している。この種は小さな渡りをしたり、広くない地域を回遊したりするものが多い。また寒さに対して、ヒバリの仲間では最も適応力がある。アラビア半島では冬鳥として多く見られ、湾岸諸国では北のイランや中央アジアからの渡りが観察されている。また夏にはシリアやイラクの北方で活動するものも存在する。

クビワコウテンシは、全長16-20cm、ヒバリの仲間では、大きくて丈夫な種で、太く強い嘴を持っている。羽毛全体は典型的なヒバリの色をしており、特に翼羽は濃い褐色に覆われており、その羽端が筋状に灰色がかった茶色が彩られている。下腹面は白であるが、その名の由来のごとく特徴的に首の部分が輪になっているように黒い羽に取り巻かれている。この特徴は雄に目立ち、雌の方が淡い。白い眉線と黒い眼過線が通っている。いくつかの種は、胸の側面に大きな黒い筋を持っている。種小名 bimaculata 「二筋」の由来であり、英名Bimacuculated Lark の由来である。
翼は広く、尾は比較的短い。飛翔時にそれがはっきりする。

単独でか、少数の群れで生活する。しかし1983年の冬には、オマーンの南岸の首都サラーラ近くでは200羽以上が集まっているのが観察されている。
地面に巣を作り、成長が早く、早成して、繁殖活動を行う。
食べ物は、普段は雑穀類や木の実などが主体であるが、特に繁殖期に栄養が必要となるため、小さな虫や昆虫をより多く補充する。繁殖期以外でも食欲旺盛である。
鳴き声は他のヒバリ類と大差はない。
オマーン203, バハレーン164、Watching211、UAE125、“Azzii.194(文献一覧は稿末にある)

なお地中海東岸から北アフリカにかけて、亜種Melanocorypha calandraクロエリコウテンシCalandra larkが生息しているのが知られているが、手元に資料がないので割愛せねばならない。




4Calandrellaヒメコウテンシ(姫告天子)
ヒメコウテンシ(姫告天子)属は学名をCalandrellaという。CalandrellaはCalandrosの指小辞であり、「小さい、短い」の意味を表す。したがってコウテンシ(告天子)属に対してはより小型、短形であるところか、わが国ではヒメコウテンシ(姫告天子)との名称が与えられた。「ショウコウテンシ」(小告天子)と同義。
世界にはヒメコウテンシ(姫告天子)の仲間は10種以上が存在する。このうちモンゴール地域にも多く生息する種はアラブ地域には見られないものも多く、アラブ世界に生息するCalandrellaヒメコウテンシ属いわゆる小ヒバリも内、4種を紹介する。
①Calandrella branchydactykla タンシヒメコウテンシ(短趾姫告天子)Short-toed Lark
②Calandrella cinerea ズアカヒメコウテンシ、(頭赤姫告天子)Red-capped lark 
③Calandrella rufescens スズメコウテンシ(雀告天子) al-Qunbur al-“Usfuuriyy、
④Calandrella Somalica  ソマリアヒメコウテンシ(ソマリア姫告天子)
             Qubbarah Sumaaliyyah 
上に述べたコウテンシ属Melanocorypha「クロヒバリ」(黒雲雀)類は大きなくちばしをもち乾燥草地に分布する。ここで述べるヒメコウテンシ属Calandrellaも同じく乾燥地や草地に生息するが、さらに環境適応して生息地が広大である。


,

①Calandrella branchydactyklaタンシヒメコウテンシ(短趾姫告天子) Short-toed Lark, 
al-Qunbur al-Qasiir al-Asaabi” 
  
 

タンシヒメコウテンシ(短趾姫告天子)Calandrella branchydactykla Short-toed Lark,
 al-Qunbur al-Qasiir al-Asaabi” の図3点
上左図はオマーンp.205、右図はバハレーン165、下図はSouthern.18、



タンシヒメコウテンシ(短趾姫告天子)は学名をCalandrella branchydactyklaという。その種小名 branchydactyklaは「(極端に)指が短いこと、短指」の意味で、病名「短指症」の意味でも用いられる。
英名はShort-toed Lark、日本語でも足指の語として「趾」があるので「タンシヒバリ」(短趾雲雀)が和語の用語として相応しかろう。
湾岸では方名として”Usfuur al-Jabal 「ヤマスズメ」(山雀)としても知られる。
全長14-15cm。全体がスズメに似ており、はるかに淡い色をしている。背上面は砂褐色で中央に濃い線がある。腹下面は胸上部に薄い灰褐色があり、下方は白。咽喉部の両脇には濃褐色の星型がある。趾(あしゆび)が他のヒバリの仲間より短い。そのため「短趾ヒバリ」の名がついた。

開けた草原、砂漠、畑地に生息。地中海式気候の雨期に多く見られる。
冬鳥として湾岸にはイランや中央アジアから渡ってくる。大きな群れを作り、何千羽となる時もある。真冬にはもっと遠くアフリカ東岸まで渡る種もある。エジプトにもよく散見される。ソマリアにも飛来して、海岸部、砂丘地域に巣を構える。オマーンには9月中旬から3月中旬まで滞留する。
繁殖活動は1-2月ごろが最も盛んである。
鳴く声もスズメに似ている。
      エジプト32-33、オマーン204-05、バハレーン165、Watching211、

       UAE125, ソマリア218,(文献一覧は稿末にある)


②Calandrella cinerea ハイジロヒメコウテンシ(灰白姫告天子)、
                                                                      頭赤ヒバリ Red-capped lark 

  

上はCalandrella cinerea灰白姫告天子、頭赤ヒバリRed-capped larkの図2点

左図はソマリアp.219(Plate3)、右図はエジプトp.33、


ハイジロヒメコウテンシ(灰白姫告天子)は学名Calandrella cinereaと言い、種小名cinereaとは「灰白色」「房尾をした」 bushytailedを意味する。全体が淡い褐色であるからであろう。
英名はRed-capped lark(頭赤ヒバリ)、特徴をとらえた命名である。
アラブ世界でもQubbarah al-Ra‘s al-Ahmar (頭赤ヒバリ)との名称である。
 
地中海南部から西アジア、中央アジア、モンゴル、中国北部にかけての地域と、アフリカ東北部から南部で繁殖し、冬季は地中海沿岸、アフリカ、アラビア半島、パキスタン、インド西北部に渡って越冬する。アフリカの角となっているソマリアでは、紅海に面した側に多く、インド洋に面した側には少ない。

日本では数の少ない旅鳥または冬鳥として渡来する。わが国ではカラフトコヒバリと呼ばれた時期があった。日本海側の島嶼では、ほぼ毎年観察されるが、それ以外の地域では少ない。越冬例もある。

全長およそ14㎝、近縁種で上に述べた短趾ヒバリCalandrella branchydactykla、Short-toed Larkよりは一回り小さい。最大の特徴は、スズメほど明瞭ではないが、頭部の羽毛が赤色を帯び、赤帽を被っているように見える。それ故英名はRed-capped lark(頭赤雲雀)と命名されている。
背中や翼の上面はやや濃い褐色で、胸の両脇に黒褐色の斑がある。眉線はすっきりしていて淡色。体の下面は淡い褐色。雌雄同色である。

開けた草地や農耕地、海岸、砂原、砂漠などに生息する。草の丈が高くはならないところを好む。
食性は雑食で、地上で昆虫類や草の実を食べる。

草の根元などの地上に枯れ草や茎、根などを使って浅い椀状の巣を作る。内部には枯葉や動物の毛や、鳥類の羽毛を敷く。繁殖気になると、1腹3-5個の卵を産む。そして抱卵期間は約16日である。抱卵は雌雄で行う。
Egypy32, ソマリア219(Plate3), Watching211、(文献一覧は稿末にある)




③Calandrella rufescens ショウタンシヒメコウテンシ(小短趾姫告天子)
                                    Lesser Short-toed Lark  al-Qunbur al-“Usfuuriyy(スズメヒバリ)

 

 

             Calandrella rufescens ショウタンシヒメコウテンシ(小短趾姫告天子)
                                    Lesser Short-toed Lark  al-Qunbur al-“Usfuuriyy(スズメヒバリ)

          左図はオマーンp.205、右図はバハレーンp.165。

ショウタンシヒメコウテンシ(小短趾姫告天子)は、ヒメショウタンシヒメコウテンシ(姫小短趾姫告天子)と名付けてもよかろうが「ヒメ」(姫)が二つ並んでしまうので、前者が宜しかろう。学名がCalandrella rufescens。種小名rufescensとは ラテン語で  rufus「red, tawny, red-haired(赤身が買った、赤みを帯びた髪の毛)の意味であり、すなわち「頭赤姫コウテンシ(頭赤姫国天使)」というオマーン204-05、Watching211、UAE126ソマリア217、バハレーン165、
(文献一覧は稿末にある)



④Calandrella Somalica ソマリアヒメコウテンシ(ソマリア姫告天子)

          上はSomalica ソマリアヒメコウテンシ(ソマリア姫告天子)の絵1点
                                 ソマリア219


ソマリアヒメコウテンシ(ソマリア姫告天子)は学名Calandrella Somalica ソマリア種ヒメコウテンシである。なお異説があり、Calandrellaヒメコウテンシ(姫告天子)とはせずに、最初述べた1Alaudaノヒバリ(野雲雀)Sky Lark、Eurasian skylarkに配すべきと説く学者もいる。ソマリア固有種のように受け取られるが、アフリカ大陸の紅海岸、東アフリカに見られる亜種である。
英名は単にSomali Lark(ソマリアヒバリ)、あるいはもう少し限定してSomali Short-toed Lark(ソマリア短趾雲雀)とされている。
アラブ世界ではクッバラ・スマーリッヤQubbarah Sumaaliyyah(ソマリアヒバリ)と呼ばれている。

Calandrella Somalica ソマリアヒメコウテンシ(ソマリア姫告天子)は熱く乾燥した平原や砂漠に適応している小型のヒバリである。ソマリアでは二つの亜種があり、一つが上図のperconfusaであり、どちらかというと内陸の方を好み、もう一つの亜種rufaousの方は浜辺の方を好み、実際混合している場合も多いが、そうした棲み分けがなされている。
営巣・繁殖期は冬季
で、一回の産卵で4-5個を生む。
         オマーン205、Watching211、UAE126、ソマリア217(文献一覧は稿末にある)


5Eremalauda尾筋ヒバリArabian Dunn's Lark、Arabian Lark、Dunn's Lark (Arabian)
Eremalauda尾筋ヒバリ属は、その学名Eremalaudaは複合語で、
eremaの方は ラテン語のeremaとlaudaが結合されたもので、Eremaはギリシャ語oidēma 及びラテン語 aemidusから由来しており、「膨れる、伸びる」の派生語である。
後接語laudaはラテン語laudare 「愛でる、褒める、讃える」から派生したもの。尾筋が伸び、全体の羽毛が子例であったからの命名であったろう。

Eremalauda尾筋ヒバリ属は5番目に配されているが、もともと4のCalandrellaヒメコウテンシ属と同一のものとしてそちらに属するとする説、。またその羽毛色は黄色い綺麗な砂色は、3のAmmomanesスナヒバリ(砂漠ヒバリ)に属するものとの説があった。が、現在では独立したEremalauda尾筋ヒバリとされている。確かに体形、羽毛色を勘案すると上記の両者とそんなには違わない。

Eremalauda尾筋ヒバリは、アラビア半島を中心に生息するヒバリであり、2種の亜種がいるとされているが、ここではEremalauda dunni: ウロコスナヒバリ、ダーンヒバリDuun’sLark、Arabian Larkついて述べる。


Eremalauda尾筋ヒバリDuun’sLark、Arabian Lark ウロコスナヒバリ、アラビアヒバリ
  
上図は、尾筋ヒバリEremalauda dunni  al-Qubbarah al-Mukhattat al-Dhiylの全体像と飛翔図2点。羽毛色と尾筋に注目。         いずれもオマーン201。


尾筋ヒバリは学名がEremalauda dunni、種小名dunniとは英語でdunn<dunから由来しており、"to insist on payment of debt"とある。この語義はすぐにわが国のコウテンシ(告天子)伝承と結びつく。ヒバリ1のブログで述べたように、別名の告天子(コウテンシ)とは、叫天子(キョウテンシ)とも呼ばれ、ヒバリの習性である、晴れた日に空高く舞い上がり、鳴き続けているのは、天の太陽に向かって訴えている。ヒバリの鳴き声「ピーチク・パーチク ピーチク・パーチク ピーチク・パーチクチーチー」はわが国の聞きなしでは、「日一分、日一分、利取る、利取る,月二朱、月二朱」とされている。大昔台頭が地上にあった時、ヒバリがお金を貸した。空に昇った太陽に対して、天高く上り、そこで大声で太陽に訴える。借金を返してくれ、というわけである。民族は違っても、発想が似ており、まさにコウテンシ(告天子)の名に相応しい種小名である、といえよう。
⑧のMelanocorypha「コウテンシ(告天子)属」、④のCalandrellaが「ヒメコウテンシ(姫告天子)属」との和名を付したのも余ほど民俗学や文学に造詣が深かったものよ思われる。

英名はArabian Dunn's Lark、あるいは, Arabian Lark、 Dunn's Lark (Arabian)などとされている。
アラブ・イスラム世界ではal-Qubbarah Mukhattat al-Dhiyl(尾筋ヒバリ)、またはQubbarah Daan al-“Arabiyyah (アラビアダーンヒバリ)との名称を持つ。

尾筋ヒバリEremalauda dunniは小型のヒバリ類であり、サハラ砂漠の西端モーリタニアからアラビア半島の砂漠、半砂漠、乾燥地帯に生息する。特にサウジアラビア、オマーン南部に多いとされている。

長さ14~15cm、翼幅25~30cm。小さいながら大きな頭と広い翼を持つずんぐりした鳥である。上面背部は、明るい砂色で、ヒバリ類の中で、最も黄色が目立つので「キヒバリ」(黄雲雀)と称してもよいほどである。 翼には少し暗い黄筋、白筋を持つ。下面腹部は、全体に白く胸にいくつかの暗い筋がある。目の上には淡い眉線があり、その周りには淡いリングがある。短めであるが広い尾は下が黒く、上側は濃褐色をしており、その両端に目立つ黒筋があり、これが命名「尾筋ヒバリ」の由来となっている。飛行時には明瞭に分かり、羽毛色と共にこの種の特徴として挙げられる。
嘴は大きく、重く、淡いピンクがかった特徴ある色になっている。年をとるに従って色の明るさがくすんだ色になってゆく。

Eremalauda dunni 尾筋ヒバリは、草や散らばった茂みなどの植生を持つ平らな乾燥した地域で見られる。またワジ(涸れ川)の上流も好むところである。
営巣は草地の多い広い植生のところを選び、地面を少し掘り、窪みにして作る。
「アラビアヒバリ」の命名の通り、ベドウィンと同じく遊牧生活を好み、よく動き回り、回遊を行う。ただなかなか人間の目には触れることがないようだ。水分の必要性から、水場に来る時が目にするチャンスである。
採食は主に穀類・実や昆虫が含まれる。地面を足早に歩き回り捕食する。時には彼らの趾で土や砂、枯葉や邪魔者を搔き分け、食べ物を掘りだしもする。
彼らは通常、繁殖期以外は群れを作らず、降雨に応じて遊動する。

尾筋ヒバリは繁殖期は冬季で、産卵では2個、3個の卵を産み、その色は黒とラベンダーの斑点を持つ白。抱卵期間は13~16日間。
鳴き声は短く囀り、他のヒバリほどにはあまり聞いて心地よいものとはなっていない。雄は地上または飛行中に歌い、空高くホバリングをする。
オマーン200-01、285、Watching210、UAE169(文献一覧は稿末にある)



6Eremopterixスズメヒバリ(雀雲雀)、イロスズメヒバリ(色雀ヒバリ)
スズメヒバリ属は学名Eremopterix。この学名も二語が結合された語形で、eremoの方は
ギリシャ語の erēmosから由来しており "uninhabited, empty, desolate, bereft," 「人里離れた、孤独な、無欲な」の義で、派生語 eremitesは "person of the desert,"、「修道士、世捨て人」を意味するhermitも中世ラテン語のheremite.から由来するが原語は同じである。<群れる>ことをあまりしないこのヒバリの特徴を言ったものであろう。
後接語のpterix とはラテン語で praefixum,「前が重い、前に比重がある」、この種の頭の大きい特徴を言ったものであろう。接頭辞prefixも同一語源である。「大頭の孤独者」。

このEremopterixはいずれもスズメに似ており、「スズメヒバリ」属とされている。羽毛がヒバリには珍しく多彩であり、黒色もあり、その多彩さが目立つ種類である。「イロヒバリ」ないしは「イロスズメヒバリ」属と称してもよかろう。ヒワ類に似た太くて丈夫な嘴をもっている。

このエレモプテリクス属には、8種が現存するとされている
8亜種の内、アラブ世界に生息するそのうちの3種を紹介しておく:
①Eremopterix nigriceps  頭黒スズメヒバリBlack-Crowned Finch Lark  
②Eremopterix leucopareia フィンチスズメヒバリ Fischer's finch-lark 
③Eremopterix signata クリガシラスズメヒバリ=ゴシキスズメヒバリ          
          Chestnut-headed Sparrow-Lark



①Eremopterix nigriceps Black-Crowned Finch Lark 頭黒ヒバリ
  


  

Eremopterix nigriceps Black-Crowned Finch Larkズグロスズメヒバリ(頭黒雀雲雀)の図5点。ズグロは雄だけであり(1,2,4,5)、雌(3,5)は地味な目立たない羽毛である。
上段左1はバハレーンp.86、上段左2はイエメンp.34、中段左3はバハレーンp.86、
中段右はN.Yemen p.137、下段はオマーンp.201


ズグロスズメヒバリ(頭黒雀雲雀)には亜種が3種類あるとされている。
1black-crowned sparrow-lark (E. n. nigriceps )分布は広く西アフリカからインドまでに至る。

本稿もこれが中心。
2Saharan black-crowned sparrow-lark (E. n. albifrons)サハラ・サーヘル地域が中心。
3Eastern black-crowned sparrow-lark (E. n. melanauchen)東アフリカからパキスタン、インドに至るまで。

ズグロスズメヒバリ(頭黒雀雲雀について上記亜種の内、1black-crowned sparrow-lark (E. n. nigriceps )について述べる。

この目立つ色合いを持つヒバリは、シジュウカラを大きくしたようなイメージを与える。
頭黒スズメヒバリは学名をEremopterix nigricepsと言う。その種小名nigricepsはラテン語の連接語であり、nigriはニグロと同根であり、cepsは caput で英語のcapの由来となる"head"の意味である。「頭の黒いもの」→「頭黒スズメヒバリ」。
英名は Black-crowned sparrow-lark、Black-crowned finch larkとされている。
アラブ世界では二種あり男性形の用語はal-Qunbur al-Aswad al-Ra’s、女性形のQubbarah Sawdaa’ al-Ra’sであり、いずれも「ズグロヒバリ」(頭黒雲雀)の意味である。

棲息域はアフリカ北部では、モーリタニアから中東、インド北西部まで、やはり砂漠地帯の沿って見出されている。

雌雄がはっきりした明別される羽毛をしている。黒頭巾から、黒ネクタイから図像を見ると、一見わが国の「シジュウカラ」からではないかと思わせる。雄は頭部に特徴的な黒い頭巾を被っており目立つ。それ故名称ズグロスズメヒバリ(頭黒雀雲雀)を与えられたのであろう。この黒色は頭部から眉線、過眼線に続き、さらに首下の胴体部へと続く。
大きな嘴の上の額部、また頬が大きな円班を作り、細く首周りを巻く白色を持つ。
上背部は淡い灰色がかった茶色で下に行くほど濃くなる。尾は背の延長上の毛色である。 下面腹部は顔面から続く黒色が太くなり喉、首、胸、腹、尻と続いている。翼との間には白色が見られる。嘴は黄肌をしている。
ズグロスズメヒバリ(頭黒雀雲雀)の雌は全体に目立たない淡い褐色をしている。過眼線は、雄の太く広い黒色に対して、対照的に細い黄褐色が伸びる。またその上の眉線はさらに明るい細い黄褐色が伸びている。 
下面腹部は、首から胸の上部にかけて黄褐色の淡い帯があり、他は全体が白い。尾先、下翼の隠れた部分に黒色がある。
 幼鳥は、羽毛色全体が雌の成鳥地似ている。頭部はバフとなっている。

ヒバリ類では小型の方で、全長11.5〜12.5cm、翼開長は22cmぐらい。我が国もシジュウカラも含めたカラ類に類似している。カラも雀と書き、スズメより小さい類に用いられる用語となっている。アラブ世界でもヒバリのこの種もスズメヒバリ(雀雲雀)との名を持つ。

ズグロスズメヒバリ(頭黒雀雲雀)は、アフリカの西岸から東にサヘル地帯、そしてアラビア半島を通って、パキスタンとインドに至る地域に生息する。
留鳥とされているが、渡りをするのもいる。イエメンでは海岸沿いのティハーマや東部砂漠に多い。バハレーンでは留鳥とされて、南部に多く住む。オマーンでは渡り鳥とされている。

ズグロスズメヒバリは、低植生と草原のステップ、乾燥した半乾燥した平野、丈の高い草むらが広がる地域や草原や灌木の多い地域を好んで生活の場とする。岩の多い土壌のある地域よりも砂の領域を好み、塩の染み出た低地周りでも観察されている。

真昼の暑さの中で、これらの鳥は日陰にとどまることによって体内水分の消耗を防いでいる。大きなトカゲの巣穴の中に避難することさえ記録されている。また、体温を下げるために、皮膚を露出させる必要があり、足をぶら下げて飛んだり、風に向かって止まったりして、翼が垂れ下がり、動く空気にさらされる表面積を大きくしたりして調節する。
群れを作る習性があり、最大50羽の鳥の群れを形成する可能性があり、観察例では数千の大きな群れが記録されている。

黒い冠を冠したスズメヒバリは雑穀などの植物の種を食べるが、バッタなどの虫や昆虫やその他の無脊椎動物を食べる。特に雛で巣にいる間は、親からより栄養豊富な昆虫の餌を与えられている。このような暑い環境では、鳥は早朝と夕方に彼らの採餌のほとんどを行います。捕食するのは通常地上で行うが、飛ぶ昆虫を見つけると、空中に舞い上がって捕捉する。
鳴く声にも特徴があり、通常雄がはっきりしており、飛行中、ホバリング、ディスプレイの最中に聞かれる。飛行中でない時は、茂みや岩の上の低い見晴らしの良い場所で囀る。囀り音は、可変的ではあるが、単純で甘く聞こえ、繰り返し歌われ、波を打つように高低差や長短をつけて鳴く。

繁殖期には、オスの方は一連の浅い昇降ダイビングをして雌を誘い空中ディスプレイを行う。雌はひらひらとねじれ飛行を行い、低飛行で雌を追いかける。
夏季の間に繁殖する。巣は植物や他の材料が並ぶ浅いくぼみであり、その縁はしばしば小さな石や土塊の小さな塊で少し盛り上げられる。低木や草の房の下に位置取りして、太陽の直射をいくらかでも避ける工夫を行う。

バハレーンでは3月から7月まで群れを作る習性がある。営巣を雌が行い、隠れやすい砂地を浅く掘って枯れ枝、枯草、羽毛などを寄せて丸く作り上げる。
産卵数は普通2-3個。抱卵期間は約11〜12日間、雄も共に行う。孵った後の雛の成長が早く、生後約6日で巣立ち、短期間の飛行に入る。通常は生後約8日で完全に巣から離れる。雛が巣だった直後、親のどちらかが1羽の幼鳥に対して単独で責任を負うようになる。そのため2羽までは何とか成鳥となるが、3羽以上になると、3羽目は面倒を見られなくなり、3羽目が死ぬか、二羽のどちらかも死んでしまい、さらにはすべてが生き残れない可能性もある。幼鳥は生後21日か22日頃にきちんと成鳥と同じ能力を得る。
生後約1歳で性的成熟に達する。

 

 

②Eremopterix leucopareia フィンチスズメヒバリ Fischer's finch-lark 


Eremopterix leucopareia スズメヒバリ Fischer's finch-larkの図2点。

               インターネット画像より。 


スズメヒバリは学名をEremopterix leucopareiaと言い、leucopareiaの意味は定かではないが他の鳥名も用いられるのを類推するに「雁」の意味であり、雁のように羽毛色が多様であることkからか。

英名はFischer's finch-lark。フィッシャーと人名が付されているが、それはドイツの探検家Gustav Fischerが新種を発見したことの功績が讃えられて命名されてのことである。
アラブ世界ではクンブラ・ウスフールQunburah al-“Usfuur(スズメヒバリ)と称されている。

Fischer's finch-larkは、その生息地をケニア中部からザンビア東部、マラウイ、モザンビーク北西部、さらにソマリア、アラビア半島南岸まで見られる。亜熱帯から熱帯乾燥低地の開けた草原やステップ、砂漠、低地帯に好んで住む。

この羽毛の配色は一見スズメに似ており、それゆえ「スズメヒバリ」spallow larkとも、また姿形はややフィンチに似ており、そのため 「ファイチヒバリ」finch-larkとも名付けられている。スズメ同様赤帽子を被り、また首筋に黒帯が入る。しかしはるかに太い。またほほに大きな白い丸班があるところもスズメを思わせる。またその頭の王冠に白い筋班が欠如することによって、類似した栗頭スズメヒバリと区別することができる。
また他のヒバリのように膝を曲げず、立った姿形の習性は小型のフィンチを想起させる。
普段は学名の通り、個々、番いだけ、の生活を置き¥喰っている。しかし繁殖期になると別であって、大きな群れに集まる。
Yemen34、Watching210、バハレーン86、Nabiil Yeman137-78、ソマリア221,UAE124(絵plate11)、オマーン200-01、(文献一覧は稿末にある)


③Eremopterix signata クリガシラスズメヒバリ=ゴシキスズメヒバリ  

       
上図はゴシキスズメヒバリ学名Eremopterix signataの雄の図1点。
雄の色がゴシキ(五色)と言えるのだろうか。英語やアラビア語のクリガシラスズメヒバリの方が良かろう。鮮やかさではズグロスズメヒバリの方が余ほど鮮やかさがある。

                                           インターネット画像より。

クリガシラスズメヒバリ=ゴシキスズメヒバリは学名がEremopterix signataである。種小名signata の由来は ラテン語の「印付けをする、印となる」のであり、英語 "to sign" の語源となっている。接辞nataもラテン語のnataであり、「小さな、党に足らない」 "small, insignificant thing,"lのいみである。 「(栗色の頭が」印となる小鳥」。
英名はChestnut-headed Sparrow-Lark(栗頭雀雲雀)、
和名はゴシキスズメヒバリ(五色雀雲雀)となっている。ゴシキほどでもないので、英名や
亜名の「クリガシラスズメヒバリ」(栗雀雲雀)の方が相応しかろう。
アラブ世界ではal-Qubbarah ra’s al-kasutanaa’ii(栗頭雲雀)と称されている。

クリガシラスズメヒバリ=ゴシキスズメヒバリには二種の亜種がある。
1Eremopterix signatus signatusは広く東アフリカ、紅海沿岸に生息。本稿でもこちらを採り上げる。
2Eremopterix signatus harrisoniは上より範囲が狭くスーダン南部と隣接するケニヤ北部にしか生息しない。


Eremopterix signatus signatusは広く東アフリカ、紅海沿岸に生息。ものの本に記される生息地よりは範囲は広い。
クリガシラスズメヒバリには、上で述べた「ズグロスズメヒバリ」同様、雄の羽毛色に特徴的な<栗色>の頭巾を被っている。栗色頭巾の頭頂に縦の白斑があり、これもまた他と種とを分ける指標となっている。栗色は頭巾を超えて、眉線や眼過線を超えて丸い白い頬の顔脇を通り首、胸深くまでに至っている。両ほほの大きな白円の下方もうなじのところで栗色が結ばれている、頭部以外は雀や雲雀の、薄褐色である。
雌の方は目立たない地味な羽毛色であり、首筋に目立たない太い白帯が走る。

クリガシラスズメヒバリの生息地は熱帯、亜熱帯の低地や乾燥した藪や灌木の茂る地域である。北東アフリカ、紅海沿岸であり、イスラエルでも観察された記録がある。
ソマリアではアフリカの角グアルダフイ岬(アラビア語ではRa‘s Asiil)の南岸よりも北岸の方に、それも内陸の標高1300mのエチオピア寄りの高地に多く生息くしている。

クリガシラスズメヒバリは、多くの場合、水場の周りに、ペアや多くて40羽までの鳥の小さな群れで発見されることが多い。
飛行はヒバリらしくなく、地面に低く飛ぶことが習性。
またある程度を光度を上げた飛行中に囀りや、露出した小高いところで鳴き声を立てる。
繁殖期は夏季で6月から7月に渡って繁殖行動が見られ、雌は2-5個の卵を産む。
                           ソマリア221、(文献一覧は稿末にある)



文献一覧(あいうえお順):
『イエメンの鳥類』Tuyuur al-Yaman  Robertson&A.Chapman,イエメン環境省出版n.d..
『イエメンの鳥類Nabiil』al-Tuyuur al-Yamaniyyah,  Nabiil “Abdullatiif 1989、
Aden(Yemen)
『エジプトの鳥類』Commonn Birds of Egypt  B.Bruun, カイロアメリカ大学出版1984
『オマーンの鳥類』Tuyuur “Umaan  Quartet Books Limited(London)1985 
『オマーンのバードウォッチング』Birdwatching in Oman H.J.Eriksen&D.E.Sergent AlRoyal Publishing(Oman) 2001,p.223
『ソコトラ島の鳥類』Birds of Socotra  OSME( Majlis Himaayah al-Biyi’ahイエメン共和国環境保護局)2001
『ソマリアの鳥類』Birds of Somalia  J.S.Ash&J.E.Miskell Yale Univ.(G,B.),1998
『Dam.動物誌』Hayaat al-Hayawaan al-Damiirii, Daar al-Tahriir(Cairo)1965,2vols
『Jah.動物の書』Kitaab al-Hayawaan Jaahiz Maktabah al-Baabii al-Halbii(Cairo)
1968,7vols
『鳥類解説 ”Aziiz』al-Tuyuur fii Hayaat al-Hayawaan  ”Aziiz al-“Alii, al-Maktabah al-
Wataniyyah(Baghdaad)1986
『バハレーン及び湾岸の鳥類』Tuyuur al-Bahrayn wa-al-Khaliij al-“Arabii 
Sa”iid “Abdullaah Muhammad , al-Maktabah al-“Aammah(Manaamah, al-Bahrayn)1993
Southern『南アラビアの鳥類』Birds of Southern Arabia, D.Robinson &A.Chapman,
Motivate Publishing(Dubai,UAE)1992
『UAEの鳥類』Tuyuur al-Imaaraat  K.Richardson, Emirates Printing Press,1992