墓 | 群衆コラム

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耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

墓なんてなくてもいい。

少なくとも自分の分は。

そう考えていたのが、

墓参りに行ってゆらいだ。

お彼岸の墓参である。



うちはお寺に墓があるので

いわゆる墓石の墓である。

そこに誰が眠っているのかは

よく知らない。

よく知らないけれど不思議なもので

なんとなくあの人かなとわかる。



墓前の花に水をやり、

墓石に水を打ち、

線香を手向け、

手を合わせていると、

この人はだれかと思う。

自然とそういう話になる。

戦争で亡くなったとばかり思っていた人が、

じつは戦後に病死したらしいとわかった。

そんな話があっちのお墓こっちのお墓で

ぽつりぽつりと出る。



人間は二度死ぬをいう話がある。

一度目は肉体の終わり。

二度目は人の記憶からの消滅。

お墓があるおかげで

二度目の死を引き延ばすことができる。

死んでしまえば関係ない、

とも思う。

一方で、

死んでしまっても思い出してもらえるのは

うれしいかもなと想像した墓参りだった。