映画 | 群衆コラム

群衆コラム

耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

映画のロケで使われた居酒屋に行った。

映画のロケに使われたから行ったのではない。

そこを行きつけにしている人が誘ってくれたから

行ったのである。

しかし、ちょっとはミーハーな気持ちがあったことも

否定できない。



小道の角に建っている小さな居酒屋だが、

平日なのに超満員でおどろいた。

映画とは関係なく、いつもこうらしい。

店の中を見回してみると、

一応映画のパフレットが貼り出されてあったが、

ビールのポスターよりも目立っていない。

お客は映画の話などひと言もしていない。

かくいうわれわれも映画のことなどそっちのけで

自分たちのしたい話をしていた。

あ、ちょっとだけ映画の話もしたか。

お店の人も、

ごく普通に注文を取り、料理を運ぶ。

どこにでもある居酒屋の店内である。



見れば見るほど、本当にこの店が

あのパンフレットに写っている店なのか、と思う。

カウンターを挟んで

麻生久美子と安田顕が向かい合っているだけで、

映画っぽくなるなら世話はない。



このどこにでもある普通の居酒屋が

映画のなかでドラマを紡ぎ出す渋い居酒屋になる。

映画の力、と思う。

すごい。

自分の目が見ているのはほんのわずかな風景で、

いいところをけっこう損しているのかもしれない。

まだやっているはずだから、

この映画は見ておこう。