出かけた先の駅、帰りの電車は1時間待たなければ来ない。
近くに文房具屋があるのを思い出し、ちょうどよいこの機会にと足を向けた。
昔ながら、と言ってよいだろう。
店のなかに余分な明かりはなく、薄暗い。
遠くからだと地味すぎて、そこに文房具屋があることに気づかれない。
近くまできても、なんとなく入るのに勇気がいる。
今回は3度目なのでそうでもないが、はじめてのときは、
ここやってるよねえ……、と恐る恐る自動ドアの前に立った。
下敷きはなかなか見つからなかった。
ここが文房具屋である以上、下敷きがないわけはない。
どんなにデジタルな世の中になっても、文房具屋に下敷きはあると思うし、
まして昔ながらのこの店である。
いずれ見つかる。
そうたかをくくって、店内をぶらぶらと歩く。
よく見てみると広い店で、品揃えがいいことに驚いた。
小さな町の文房具屋さんとばかり思っていたが、とんでもない。
この近辺の文房具屋の総本山といっていいほどの店だった。
文房具を見るのは楽しい。
そういえばノートがもうすぐ終わりそうだったなあ、
今度は方眼にしてみようかと考えながら、売り場のノートを手に取る。
整然と並んだノートが、
しっかりと文房具を扱うこの店の性格を物語っているように見える。
墨だナイフだと思い出しては見て回っているうちに、スケッチブックのところにいた。
スケッチブックはいま必要なものではない。
ただ、今度どこかへ行ったら、こまごまと記録がしやすい
小さめのスケッチブックがあったらいいなとは思っている。
スケッチブックの品揃えも見事なもので、
あれこれと手に取って開いていると、
横手から「お客さん、ポストカードサイズの紙ならここにありますよ」と声がかかった。
店主と思しき60代くらいの男性である。
どんな人でも、この人の顔を見たら真っ先にメガネに目がいくことだろう。
漫画のようにまん丸で太いフチのついたメガネである。
実在の人物だと、こんなメガネをかけているのは
作家の井上ひさしさんくらいしか知らない。
井上さんのは黒ぶちだったが、店主のはべっ甲のように黄色っぽかった。
その人が「ポストカードはここです」と言っている。
私は下敷きを探しに来たのであって、ポストカードに用はない。
でも店主の醸し出す
「わたしは何でも知ってます。あなた自身が知らないことでもわたしはお見通し」
という雰囲気に抗えず、
そういえば必要だったかなという気持ちになってしまい、
呼ばれた方へ歩いていった。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20141221/19/millionairehabit/a5/51/j/t02200168_0800061113165179579.jpg?caw=800)