市民ランナーのデザイン講座 | 群衆コラム

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耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

ロゴをつくりに行ってきた。

東京にある某芸術大学の公開講座である。



ロゴづくりには関心があって、いくつかつくったことがある。

どれもいまいちだった。

いいとか悪い以前の話で、素人臭くて使おうという気にならない。

作った本人がそう思うようなものを誰が使ってくれるだろう。



このような経験をすると、世の中にあふれるロゴとは

なんとよくできたものなんだろうと関心せざるをえない。

なんだかわからないけれど、我知らずして引きつけられるというか、

見た瞬間にイメージがぶわーっと広がってゆく。



使われるロゴと、自分がつくる使えないロゴの違いはなんだろうか。

それがわからず年月だけが経った。

自分がつくるものはかっこよく思えない。

それは間違いないけれど、じゃあどうすれば

自分で自分に惚れちゃうようなイカしたロゴができるのか。

もうこれは自分で考えててもあかん、という気持ちにやっとなったので、

いさぎよく教えてもらいに行ったのである。



ところが、先生はなにも教えてくれなかった。

いちおうはじめに講義の時間というものがあったのだが、

こんなロゴもあります、あんなロゴもあります、

という具合にロゴの紹介だけで終わってしまった。

じゃあ、いまのを参考にして作ってみてください。

これでもうつくりはじめなければならない。



一緒に受講した人はわたしを含めて7名いたが、

素人はわたしだけだったようである。

作業がはじまっていきなり、

「先生、わたしつくってきたんですけど、見てください」

と隣りの席で手が挙がった。

サングラスをかけたおばちゃんだった。

なにかの光を遮るのだろう。

気になるので、ちらちらと画面をのぞいてみると、

あなたどうしてこんなところに習いにきたんですか、

と言いたくなるほど見事な絵柄が描かれている。

先生と話をしながら組み合わせて、

あっというまに包装紙にでもなりそうなパターンができあがってしまった。

そりゃないよ、と思った。



先生は、

「パソコンを使う前に、まず手を動かしていろいろ書いたほうがいいですよ」

と言っていたが、そのとおりにやる人はなく、

皆いきなりパソコンで作業をしている。

パソコンの使い方を聞く人もいない。

質問と言えば「ここが線だと強すぎると思うんですよね」

などのいかにもデザインに関するものばかりで、

一段も二段も高い次元の話をしていらっしゃる。



そんななかで、わたしは朝から鉛筆で絵を描いていた。

自分の手を写真に撮って、それをみてスケッチをする。

先生の言葉を素直に聞いたのではなく、できることがそれしかなかった。

この日使うソフトは「Illustrator」という絵を描くソフトだった。

有名なソフトらしく、わたしでも名前は聞いたことがある。

でも使ったことはない。



この講座には受講条件というものがある。

「パソコンおよび使用ソフト(イラストレーター・フォトショップ)の

基本的な操作ができること」

わたしはこの条件に当てはまらない。

でもなんとかなるだろうと高をくくってきたのだが、どうもあてが外れた。

講義がはじまるまえにいじってみたが、ぜんぜん思うようにいかない。

似たようなソフト(のつもりだった)を使ったことがあるから

大丈夫だろうというのは、甘すぎる見通しだった。



このためパソコンでの作業はやりようがなく、

キーボードをディスプレイの後ろに片付けて、

パソコンの前で絵を描くしかなかったのである。

スタートラインの1キロ後方から走りはじめる市民ランナーの気持ちだった。