愚直のおもみ | 群衆コラム

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耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

祖父からは尺八と一緒に、教本も譲り受けた。

教本は、中身を見てもさっぱりわからない。

楽譜はカタカナで筆書きされており、

古文書のようである。

いずれわかるであろうと思いしっかり見ていないが、

教本のなかにはいまわかるところもある。



教本の表紙の裏に、

尺八の稽古の心得みたいなものが書いてある。

これが尺八だけでなく、

すべてのことに通じているように見えておもしろい。

ぜんぶで七つあるが、最初の二つは特に重要である。



一、先づ何よりも不断の努力が大切です。

一旦始めたからには時間の許す限り、

毎日寸暇を利用して練習してください。



こんなの読んだら、おいそれと尺八を始められなくなる。

言っていることはもっともだけれど。



二、確実に出来なければ先に進まない事。

自信のない間に先に進んではいけません。

不完全な十曲より完全な一曲を、

不完全な一曲より完全な一行を、という心掛けで練習して下さい。



これを突き詰めると、

不完全な一小節より、完全な一音となる。

だから、やっぱり音なんだな、と思う。



素振りのできない人に、ヒットは打てない。

教本に書かれていることは至極まっとうなことである。

なにをいまさらということをわざわざ書いているのは、

軽んじられることだからだろう。



楽譜も読めない、

教本の意味もわからないからちょうどいい。

愚直に音を出すことだけ、繰り返す。