上級者の店 その3 | 群衆コラム

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耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

堅苦しいルール無用で寿司を食べられるのが、

回転寿しである。

ルール無用であるだけに、

小さな子どものいる家族連れは気軽につれて来られる。

しかし考えてみると、

ルール無用というのはどこの世界でも

かなりの上級者のみに許された領域である。



誰だったか忘れたが、歌舞伎の役者さんで、

「若いころははやく型を身につけたいと思っていた。

型を身につけないと、それを破ることができないから」

と言った人があった。



まず型を身につけた人だけに、

その外側へ出ることが許される。

型がある人ならば、

型がないところでも美しい所作で振る舞うことができるだろう。

型がない人は、ただ好き勝手するだけで、

なにも学ばない。

学ぶ方法が身についていないのである。



このように考えると、

回転寿しは子どもをはじめに連れて行く寿司屋として

適当ではないのではないかと思えてくる。

まずは回らない寿司やに連れて行って、

そこできちんと寿司が食べられるようにする。

寿司を食べる型が身についたら、

はじめて回転寿しに来られるというのが本来のような気がする。



多くの家族連れが回転寿しを選ぶのは、

安くておいしいものを気楽に食べられるからだろう。

子どもにも親にもうれしい場所である。

回らない寿司屋は、その正反対の場所にある。

安くておいしいものを気楽に、という選び方をするなら、

はじめに回らない寿司やが選ばれることはない。

ここは親の裁量が試されるところかもしれない。



寿司は本来、安い食べものではない。

回転寿しにつれてきてもらえる子どもたちは、

高いものとは思っていないだろう。

いや、子どもに値段は関係ないか。

値段の高い安いはともかく、

寿司なんて気軽に食べられるものと思っているかもしれない。


回転寿しは安くておいしいけれど、

将来的に高い買い物になりはしないだろうかと、

大人の端くれとして心配している。