三ヶ月漬け | 群衆コラム

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耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

冷蔵庫のコンセントを抜いたら、部屋が静かになった。

いまのところ変化はこれくらいである。

コンセントを抜いてしまえば、

冷蔵庫はただの食糧貯蔵庫となる。

冷蔵も冷凍も関係ない。

冷凍室に玉子を入れても構わないのは、新鮮である。

急に冷蔵庫が大きくなった感じがする。



いまは冬。

うちのなかが冷蔵庫みたいなものなので、

べつに困ることもないが、

問題は気温が上がってきたときである。



世の中にはすごいひとがいくらでもいる。

わたしが考えるようなことは

たいがい誰かがもうとっくにやっている。

冷蔵庫なしの生活もまたしかり。

2、3そういう人の暮らしを図書館でのぞいてみたが、

例外なくやっていることがあった。

干物と漬物を作ることである。

このふたつなしには、冷蔵庫なしの生活は成り立たない。



いや、食料は全部コンビニで済ませています

というひとなら成り立つけれど、

それはまた別のお話。

ちなみに友人のなかには

本当にコンビニを冷蔵庫にしているひとがいる。

だからうちには冷蔵庫がない、と言っていた。

こちらにも先人がいるのだった。



放っておいても食品が傷まない冬は、

冷蔵庫から離れるいい機会だった。

何の知恵も技術も持たず

真夏のただ中にコンセントを抜いたなら、

物資が途絶えた前線なみに

耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ暮らしを

することになっただろう。

がんばればなんとかなる。

でもやっていて楽しくはない。

楽しくないものは続かない。

冬を待たずに

コンセントを入れていたかもしれない。

冷蔵庫はやっぱり必要だったねと言いながら。



冬の一番寒いときを迎え、

これがしばし続きつつも

だんだん緩むほうへと向かっていく。

暖かく感じるようになるまで3ヶ月。

この時間で干物を作り、漬け物をつける。

いまは漬け物を食べもしないが、

いくらかでもできる人にならなければならない。



ものを手放したら、学ぶ機会が転がり込んでくる。

それが豊かということだろうか、と思う。

冷蔵庫を手放さなかったら、

干物を作ろうなんて絶対に考えない。



音のしない冷蔵庫を開けたら、

整然と漬け物や干物の瓶詰めが並んでいるのを想像する。

生鮮食品がぎっしりとつまった冷蔵庫より

ずっときれいでほれぼれとする。

作る前からほれぼれしている。