強くて美しい箸 | 群衆コラム

群衆コラム

耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

いいレストランに入ったとき、

注目しているものがある。

注目したうえに、

気に入ったならばいただいてくる。

店から勝手にものを持ち出すとは穏やかではないが、

先方はなくなったことにさえ気がついていないと思う。

たぶんお客さんにあげるつもりで出されているのに、

ほぼすべて戻ってくる。

それは二度と使われることなく、

捨てるしかないもの。

わたしがいただくのは、割り箸である。



使ったら捨てるというのが、割り箸の使い方である。

使い捨ての割り箸に対して、

いつまでも洗って使ってもらえるきちんとした箸もある。

気に入った箸を買い求めるほどこだわりはないし、

まして衝動買いするほど

一膳の箸に惚れ込むこともない。

どんなに高級でも、

どんなにクールなデザインだったとしても、

どんなに運がよくなるのだとしても、

わざわざ箸を買うことはないだろう。

もっと人生が落ち着いてきたら

そういう心境にもなるかもしれないが、

いまはそのときではない。



だから、うちにある

きちんとした箸もまた買ったものではない。

どこかでもらったものである。

どこでもらったものかはもう忘れてしまった。



何度も使える箸は、当然割り箸よりも見栄えがいい。

さすが、と言われそうななりをしている。

しかし、このよそ行きなところが

うちで使うにはうまくない。

食べるだけに使うならいいけれど、

うちでは料理もするのである。

なりのいい箸は

料理に使うとさきが潰れてすぐだめになる。

せっかくいいかっこして出かけたのに、

農作業をさせられた人のようで、

これは残念というほかにない。



お客が来たときにだけ使うという手もあるが、

あいにくうちにはめったに客が来ない。

たまに来た客にも、

つい使い慣れた割り箸を出す。



料理にも使えて、

お客に出してもなんとか持ちこたえられる。

そんな強さと美しさを兼ね備えた箸があるのだろうか。

あるのである。

続きは次回で。