オミクロン株の感染力と重症化のなぞ - 免疫細胞の働き | プロムナード

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オミクロン株の浸食により、東京でもついに1万人以上の感染が認められる事態となった。

 

しかしながら、オミクロンの感染力が強いにも拘わらず、なぜか重篤になるケースが圧倒的に少ないのか、そしてなぜブレークスルー感染が発生するのかということについて、国内外の幾つかの文献を拾い読みしているので、まとめてみよう。

 

出典: 米国立アレルギー感染症研究所

 

ウイルスを迎撃するのは、体内の白血球にある免疫細胞。この免疫細胞にはマクロファージ、T細胞などの様にウイルスを直接攻撃する細胞と、B細胞や樹状細胞などの様に抗体物質を産生する細胞がある。このT細胞などによる免疫力を「自然免疫」といい、罹患やワクチン接種によって得られる免疫を「獲得免疫」と言う。

これらのうちT細胞は、これまでのデルタ株の様な変異株のみならず、オミクロン株に対しても有効である。ただし、感染を抑えるという働きは弱いらしい。

一方、B細胞が産生する抗体やワクチンによって生成される抗体である中和抗体は、オミクロン株に対する働きは弱いためにブレークスルー感染が発生する。

 

これがオミクロンによる感染が止まらない理由の様だ。

さらに、オミクロンの場合はデルタに比べて発症までの期間、シリアルインターバルが短いために、等比数列である感染者数は桁違いな拡大となる。

 

しかし、なぜ重症化は少ないのかということだが、重症化の原因はB細胞などで産生されるサイトカインの産生が過剰となることにより、血管や胚細胞などの人体細胞まで攻撃する「サイトカイン・ストーム」という、免疫暴走による災害が発生するためとされている。

オミクロンに感染した場合、先に述べた様に獲得免疫による抗体があまり有効ではないため、自ずからサイトカイン・ストームの発生も少ない。そのため、幸いにして重症化する確率が低いということになるらしい。

つまり、オミクロン株の場合には、T細胞などによるウイルスへの攻撃は行われるので、免疫力さえ強ければやがて回復する。しかし感染力の抑制力は弱いので、感染は広がる。一方、抗体の効果は弱いのでブレークスルー感染も起きるが、サイトカインの暴走による重症化は少ない。

この様なことから、オミクロン株による感染は、感染速度は速いものの、感染時の重症化が少ないという傾向となっている様だ。

こういう状況で我々が出来ることと言えば限られている。即ち、これまでと同様に手洗い、マスク着用、三密の回避、そして換気。感染しない方法は、感染者に近寄らないこと。どんなに感染力の強いウイルスでも宿主がいなければ勢力拡大はおろか、自分の生存も危ぶまれる。

とはいえ行動には限度がある。どこでどの様に妥協するか、そこが政治の手腕が問われるということになるのだが、我々としても自衛手段を取らないと、感染するリスクはあるのだ。しかも不顕性罹患者も多くいるそうなので、いつの間にか感染し、いつの間にかウイルススプレッダーになってしまうこともあるわけだ。

ところで、先日「マスク着用反対運動」だか「ワクチン接種中止運動」だか、そんなデモに遭遇した。自分の考えで行動することは悪くないのだが、価値観の押し付けは如何なものか。「マスクは無意味」とシュプレヒコールを繰り返していたのだが、無意味というのは「着用してもしなくても同じ」ということを言っているのだろう。であるならば、その根拠を定量定性的に説明して欲しい。これまでマスクの効果については富岳の様なスパコンを用いて拡散状態をシミュレーションして示していたが、あのような説明があれば良いのだが。

しかし、デモを遠巻きに見ている人々に対して、マスクをしないまま大声で「マスクは無意味ですよ」と呼びかけるその姿を見ると、その人が不顕性罹患者であった場合には、多くのウイルスをまき散らしていることになるので、極めて危険な気がした。

先に述べた様に、自分の考えで行動することは悪くない。色々と考え、自分なりの結論を以って行動していることだろう。しかし、その行動によって他人に危害を加えることは避けるべきだ。良識者としての行動規範が問われるところだろう。