昆虫の運動能力評価 -支配する物理現象を正しく見極めること | プロムナード

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動物たち、特に昆虫の様な小動物の運動能力を評価する時、良く用いられる方法として人間のサイズに換算して評価することがあるが、適切な方法で換算しないと本質を見誤る。というか、根本的なところで人間に換算すること自体にあまり意味はない。

数字に換算して比較すると一見科学的に見えるのだが、単に数字だけの世界な場合がある。

子供のころ、ノミの脚力を評価する例えとして、彼等は体の大きさの約200倍も飛べるので「人間でいえば、一っ飛びで東京タワーを飛び越えるだけの脚力がある」と教わった。これは、ノミの体のサイズと飛ぶ高さの比率を人間の身長に換算すると、飛ぶ高さは約340mとなるという「数字上の比較」の結果だ。だから「ノミは東京タワー並みの高さを飛べる」という表現となる。計算的には間違いではない。ゴキブリの走る速度なども、「人間に換算すると新幹線並みの速度で走っている」といわれる。こういった評価方法の例は枚挙に暇がない。驚くべき昆虫たちの運動能力であることは確かなのだが、しかし、そこでこの比較方法を考えてみる。

我々人類の場合、運動を支配している自然の力は引力や慣性力などであるが、昆虫たちは蚊やハエが鋭角に飛べることや風に乗っていつまでも泳いでいる蝶などを見て分かる通り、引力や慣性力は殆ど影響はなく、人類にはあまり影響のない空気抵抗による摩擦や粘着力、あるいは静電気、表面張力といった物理要素が彼等には大きく関わっているのだ。

写真はアカタテハが逆さに留まっているところだ。いったい何を好き好んで逆さになっているのか聞いてみたいものだが、少なくとも人間のように頭に血が上るといったことはないのだろう。

アリは、どんなに高いところから地面に落ちても体に受けるダメージは全くない。その理由は、質量が小さいために引力の影響を受けないからなのだ。言われてみれば当たり前のことなのだ。

これを人間に換算して比較する場合には、万有引力の法則に則って質量(体重ではない)を考慮し、更に人類には殆ど影響のない空気抵抗や空気の動きといった様々な物理量を十分に勘案してから評価すべききとなる。

スカイツリーのてっぺんからアリが落ちた場合、もしも風が吹いていたら、まっすぐに落ちることはないだろう。もしも地上付近で上昇気流が発生していたら、そのアリは落ちるどころか落ちている最中に浮上するかもしれない。

この様に、

昆虫たちが支配される物理現象は、我々人類とは異なることを理解しておく必要がある。

転じて、昆虫たちの生活史も同様だ。人類の尺度で彼を見ると本質を見誤る。