東京には「谷」と付く地名がたくさんある。四谷、市ヶ谷、千駄ヶ谷をはじめ、雑司ヶ谷、下谷、或いは小生の実家の近くには谷中という地名もあるし、くだんの渋谷もそうだ。これらの名称は恐らく地形から付いた名前だと推測できる。つまり、周りの土地に対して低い位置にあるためにそういった地名がついたのだろう。
因みに東京には荒川や江戸川、多摩川といった著名な川以外にも川はたくさん流れている。これらは殆どが暗渠となっているために目に入らないだけで、実は多くの川が存在しているのだ。東京の位置を地形的に見ると、東京は武蔵野台地の周縁に位置するし、東京都内の領域は関東平野の一角であるため、日本列島的に言えば平坦な土地なので台地に降った雨水が地下に浸透した後、東京近郊で染み出し、平坦な土地の上を縦横無尽に流れてもおかしくないわけだ。流れるところが平らに近ければ近いほど、その流れ方はカオス的である。
そんな中から、今回は渋谷にある渋谷川を散策してみることにした。
宮益橋から下流をみたところ
渋谷川は渋谷駅に程近いところにある。センター街などのある繁華な街角とは対側にあるため、知らない人もたくさんいるかもしれないが、渋谷川にかかっている宮益橋という橋から渋谷駅のホームが見える。
なお、この橋の上流は暗渠となっており遡上は不可能。即ちこの宮益橋が渋谷川の最初の橋となる。
なので、以降、下流に向かって歩くことにした。
写真の様に、川の水の色は赤褐色である。地質学的に言うと、この地域には伊豆、富士辺りの火山活動による火山灰が降下した火山灰質(凝灰質)の渋谷粘土層がある。この上を関東ローム層(第四紀更新世の火山灰層)が覆う。渋谷粘土層は粘土層であるために雨水などの土壌への浸透が妨げられ、行き場の無い水は地上に流れ出る。そのひとつが渋谷川だ。
赤く見えるのは酸素と結合して酸化鉄になっているため。つまり、この川が赤褐色なのは渋谷粘土層を覆う関東ローム層が鉄分を多く含有するからなのだ。因みに渋谷の井戸から検出される鉄分(つまり、関東ロームの主要構成成分)は他の地域の数十倍に及ぶという。
図で言えば、赤の部分が渋谷粘土層となる。
出典:東京地質コンサルタント
この図によると、現在の渋谷川の水源は新宿の上落合にある落合水再生センターで処理された再生水らしい。それが地下暗渠として山手線に沿いながら南下し、渋谷駅辺りで渋谷川として開渠になるというわけだ。
川沿いに歩くと、東京電力の渋谷変電所という地下に造られた配電変電所横を通り、流路を東へと進める。
その後、渋谷川は小さな蛇行を繰り返しながら少しずつ川幅を広げ、天現寺にて「古川」と川名を変えて進む。この辺りになると、川は首都高速道路の下を流れるようになるのだが、いや、川の上に高速道路が建設されたと言うべきか、とにかくこの辺りまでは、ほぼ明治通沿いとなる。古川は渋谷川という名前に変わるこの辺りまでマンションや雑居ビルの間を縫う様にして流れているのだが、こんな一等地で開渠のままというのは珍しい気がする。
麻布十番までくると古川は突如として流路が90度変わり、東へと流れていく。この辺りで東京タワーが見えてくる。浜松町が近いということだ。
かつてこの辺りはこんなだったらしい。
川幅は更に広くなり、将監橋まで来れば釣り船が停泊しているのが見える。
更に下ると、大きな船も停泊しているのが見えてくる。屋形船だ。
かつて、神田川はとんでもなく汚れた川だった。小生の記憶では、昭和40年代に於ける万世橋辺りの腐敗臭気は数ブロック離れた秋葉原駅まで漂っていた。川底からはメタンガスがボコボコと噴出し、殆ど死の世界だった。無理も無い。水源こそ井の頭公園であれ、生活排水垂れ流しだったのだから。目黒川も同じようなものだった。あの臭いの根源は生活排水に含まれる硫化物臭だ。この渋谷川こそ当時実際に見たわけではないが、およそ想像は付く。
その後、行政や地域住民たちの努力の結果、神田川は鯉が棲息するまで水質が改善した。渋谷川は川底が低いせいか鯉は見当たらなかったが、水質は改善されていると思う。因みに渋谷川にあった元々の水源は、現在までにすべて下水化させ、渋谷川への流入をなくしたそうだ。従って生活排水の流入は封鎖されたということになる。
閑話休題
屋形船が見えてくる辺りになると、川幅は広くなり、河口の予感がしてくる。やがて程なく橋の上を山手線や新幹線が通るのが見える。浜松町だ。これらの線路の下を通る小さな道が写真。
これを抜け、東芝ビルや東京ガスのビルを見上げながら行くと、行く手に海が見えてくる。浜崎橋、新浜崎橋を経れば、橋の欄干に
集うカモメたちを見る東京港だ。遠くに台場の観覧車が見える。右手は日の出桟橋。潮の香りが漂う。
渋谷を出てほんの10数キロ程度の道のりだが、ここまで到達すると何か達成感を感じる。行程上で寄り道するところもあまりないし、水の流れは不可逆なので道を誤ってぐるぐる回ってしまうことも無く、散歩には良いコースだと思う。
さて次はどの川を辿ってみようかと、思案中。











