時が過ぎ、使命を全うした後、人々から忘れ去られて昔を懐かしむように、だが声も出さず静かに余生を送るその佇まいは崇高であり、霊的でもある。
その隧道は初めて見る隧道だった。入口に向かって右側の壁は草木が覆い茂り、左側は少しなだらかな崖で、その向こう側は切り立った絶壁となっている。上空は秋晴れの眩いばかりの青空だった。
隧道の長さは比較的短く、しかも真っ直ぐなので、入口から見た暗闇の先に出口が見えた。隧道の入口と出口、それを囲む両側の壁。それらとそれらを取り囲む草木との調和は、自然と人工物が仲よく共存する絶好の撮影スポットだった。
早速、その隧道の入り口に立って、写真を撮った。
いや、正確に言えば撮ろうとした。というのは、その時になって突然カメラのシャッターが切れなくなってしまったのだ。それまでは全く問題なく撮影ができたのに、隧道の入り口に辿り着いた途端に撮影できないのだ。
「こんな大事なときに故障しやがって」
腹が立ったが、スペアのカメラがないので諦めるしかなかった。しかし、驚くことが起きた。同行している友人のカメラもシャッターが切れないのだ。
同時に故障。偶然とは云え、奇妙だった。
とはいえ、故障している以上、撮影は不可能なため、断念して廃線跡の道を後戻りした。
ところが、そこで奇妙なことが起きる。道を後戻りしながら、遠くになった隧道にカメラを向けると、シャッターが下るのだ。ちょっとした気まぐれ的な故障か。そう思って友人と共に再び隧道の入り口に戻った。
再びシャッターは下りない。友人のカメラも下りない。
試しに、隧道の入口をファインダーから外してみると普通にシャッターは下りる。しかし、入口に向けると、やはりシャッターは下りない。これはどういうことなのか。思わず、友人と顔を見合わせた。
なにか、不思議な力が働いているとしか思えなかった。まるで隧道が撮影を拒んでいる・・・
ふと、その時、初めてその隧道の入り口の横に荒削の石盤があることに気付いた。その石盤には文字が書いてあった。しかし、あまりにも古すぎて何が書いてあるのは読めない。だが、一文字だけは認識できた。「慰」という一文字・・・
さて、今夜、昨夜の続きとして、この謎を解き明かす続きの夢が見れるといいのだが。
