電撃蚊取ラケットの分解  - 知的好奇心をくすぐる道具 | プロムナード

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さすがに100円というわけにはいかなくても、数百円レベルの商品で十分好奇心を満喫させる道具がたくさんある。


写真は、以前から販売されている電撃蚊取り装置のひとつ。大体300円程度から800円ぐらいまでで、様々な種類があるようだが、ラケットを振る様にして蚊やコバエを捉えると、高電圧の電極に抵触してお陀仏になるという、こんなもので死んじゃうなんて蚊に生まれなくてよかったと思わせる品でもある。

カタログというか、包装パッケージの説明によると、およそ1200V~1500Vぐらいが発生するとあるが、乾電池2本、つまり3Vからの昇圧をどのように行っているかなど大変興味深い。要はスタンガンなどと同様の仕様になっていると思われるのだが、

とにかく高電圧というと妙に血が騒ぐので、早速分解をしてみた。

外見的には、できるだけ蚊がスルーできないようにラケットのネット金網に工夫がされており、あまり狭いと空気抵抗が大きくなって振り心地が悪くなるから、この辺りのバランスに試行錯誤したと思われるが、出来上がった製品としては振りやすいものとなっている。一方、人体が直接電極に振れない様に三層構造となっており、中間の電極がプラス、一番外側と内側がマイナス電極となっているようだ。

さて、分解してみると、グリップ部分に小基板が入っている。昇圧用のトランスとトランジスタ、それに幾つかの受動部品が使用されている。ICは使われてないので、回路図に落とすことが可能だ。

 


ということで、回路図に落とす。


回路図をじっくり見てみると、昇圧トランスへ供給する交流パルスの発生にはブロッキング発振回路を使っていた。ブロッキング発振は、トランジスタのベースとコレクタの間で、ベースがオンになってコレクタ電流が流れ、これに伴ってベースがオフになる一方、トランス一次側での逆起電力を用いて一度オフになったトランジスタのベースに電流を供給して再びトランジスタがオンになるという発振を生成する回路で、部品点数も少なくて済むことからよく使われてる発振回路だが、こんなところでも使われているとは知らなかった。実際の発振波形をオシロスコープで観測したものが次の写真だ。

トランジスタのコレクタ端子の様子

回路的にはこれをトランスで昇圧し、高耐圧のコンデンサに充電しつつ電極に高電圧を供給するという構成となっている。また、ブリーダ用の抵抗が並列に入っているので、電力供給が遮断された場合には、短時間で放電が行われるので、電極に触れても感電することはない(遮断直後は放電が完了していないので感電する)。

先に述べたように、このラケットは価格によって幾つかの種類がある。実際に購入したのは700円ぐらいのヤツと350円のヤツなのだが、電源電圧は同じ3Vなので、何が異なるのか調べてみた。

恐らく発生する電圧が異なるのだろうと思ったが、高電圧の測定器がないので、近傍での電界を測定してみた。結果、写真の様に、高価格のラケットの方が発生する電圧が高い様だ。従って、高価なラケットの方が致命率が高いということになるのだろう。また、ネット金網の目も高価な方が若干細かく、すり抜けされ難い様だ。

    

700円モノ                           350円モノ

その後、このラケットについてパテント関係がどの様になっているのか検索してみたところ、英語では「Electric Flyswatter」といい、どうやら台湾人が発明したようで、パテントはUS Patent 5,519,963 として取得済みとあった。このパテントを見ると回路そのものに関する記述はなく、形状と動作のみが記載されている。つまり、相当に「大雑把」なパテントなのだ。

こういう形、つまり回路とかではなく、いわゆる「ハエたたきのエレクトロニクス化」というだけ、というパテント取得方法は大変興味深い。要はあまり深いことを記述せず、高電圧を発生させて虫を瞬殺させる回路をラケットに封印したというパテントであり、こういうざっくりしたパテントの取得が可能ということなのだろう。

いい勉強になった。