映画「2001年宇宙の旅」  - 小生のモノリス | プロムナード

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<ネタバレあり注意!> 今後この映画を見てみようとお考えの方はご注意ください。

小生のお気に入りの映画の一つに2001年宇宙の旅という映画がある。中学生の頃、学校行事として銀座だかどこだったかは忘れたが、学校単位かクラス単位で、見に行かされた映画だ。

当時の印象としてはストーリがさっぱりわからなかったことや、画像が幻想的でインパクトがあったことぐらいだったのだが、今、考えてみれば、現在の仕事や趣味も併せ、小生の将来を暗示するような映画だった様な気がするのだ。

人類の誕生場面、コンピュータを始めとする電子工学、そもそも探検という行為すらも、小生の価値観や興味対象はあの映画から始まっていた。もちろん、そういったことに対しては映画を見る前から小生の興味対象ではあったのだが、あの映画がある意味直接的なトリガーになっていることは事実の様だ。

まず冒頭の、

「人類の誕生」
何をきっかけとして類人猿が猿人となったか。
それは人類史上の大きな謎のひとつでもあるが、あの映画の中ではうまく描かれていた。相当にベタな演出ではあるが、誕生の説明がキチンとされているから、「そんなものだったんだろう」と納得させるだけの説得力がある。

小生は中学1年の頃から地学部に所属していて、地質や天文に関するテーマに親しんだ。
また、それから転じて洞窟探検をするようになり、大学で有志とともに地底研究部を創立するころには洞窟学の権威諸兄とも交流を持つようになった。古生物学、人類学の先生方とも親交を持った。

小生、実は有史以降の歴史については子供が驚くほど疎く、戦国武将など名前ぐらいは知っていても、誰と誰が戦ったのかとか、そもそもいつの時代のことだったのかなど、ほとんど理解していない。もっぱら歴史の興味対象は、人類有史以前、少なくとも旧石器以前の人類史だけである。

そのあとは現代。それもコンピュータが発明されてから以降だけだ。あの映画に描かれている人類も、猿人の誕生以降と木星探索が可能になった人類の話であり、その途中は割愛されている。まさしく小生の対象範囲と合致している。

「コンピュータの叛乱」
これも今だに人類にとって不気味なテーマの一つでもある。
さすがに2001年を超えた現代でも、彼らの叛乱に遭遇してはいないが、「完全なるコンピュータとは何か」というテーマも含めたコンピュータとの付き合い方については、人類はこれからも悩み続けていくことだろう。

映画の中で描かれていた「人間が与えたミッションを遂行するために、人間を排除しなければならないという矛盾」に悩むコンピュータ、HALの姿は、あまりにも人間的で、ある種のブラックユーモアの様にすら感じてしまう。

とにかく、小生が大学でコンピュータ工学を専攻した根底に、あのコンピュータがいることも確かだと思うのだ。

「ソプラノ、メゾ・ソプラノ、1つの混声合唱と管弦楽のためのレクイエム」
それと、映画を見ているときは臨場感に圧倒されてしまい、バックの音楽まで意識が届かなかったのだが、いくつかのシーンで出現するモノリスにはそのテーマとなるバックミュージックがあった。いや、音というべきか。リゲティと云う作曲家の前衛音楽作品だ。

手元にあるサウンドトラック盤によると、タイトルは「ソプラノ、メゾ・ソプラノ、1つの混声合唱と管弦楽のためのレクイエム」とある。

あのサウンドはまさしくモノリスそのものであり、音楽というより何処かへと引きずり込まれて行く際に聞こえるであろう、ある種の空間音の様なサウンドであって、もしも諸説あるようにモノリスが「神」であるならば、この楽曲とモノリス出現とのコラボは、神秘的という言葉だけでは言い表しきれない緊迫感を呼ぶものだった。逆に言えば、このサウンドはモノリスのためにあるし、モノリスはこのサウンドがあって初めてプレゼンスがある、と言ってしまっても決して過言ではないと思う。

後日、その曲の楽譜を見たときは驚いた。
まさしく前衛音楽の楽譜というやつで、こんなものを作曲した人がいるということにまず驚いたし、憧れもしたものだった。学生時代、小生はロックバンドやジャズのバンド活動をしていたのだが、ジャズのインプロビゼーションに魅かれた理由の一つに、あのサウンドがあったと今でも思う。

       


映画を見た後で買ったサウンドトラック盤

当時はBDとかDVDはおろか、VHSだって無かった時代だから、映画と云うものロードショーが終われば、何処かの場末映画館で再放映するか、TVで放送されるまで見る方法は全く無かった。だからサウンドトラックを聞きながら回想するしかなかったわけだ。

考えてみれば、当時の方が感性が豊かに育てる土壌があったかもしれない。


ところで、先日、海外出張の折に機内のVODでこの映画を見る機会があった。いくつかの新作映画を見たのだが、どれもつまらないものばかり。いい加減飽きたところで、他の映画を探しているときにこの映画があることを知り、久しぶりに見た。

おりしも飛行機は目的地に到着するタイミング。
ひょとすると最後まで見れないかも、と思ってみていたのだが、なんと映画のエンドロールが終了するタイミングと、飛行機が着陸してエンジンを停止するタイミングが、それこそ1秒も狂わないほどぴったりと合ったのだ。

これには我ながら驚いた。神が時間を巻き戻して小生に映画を選ばせ、VODのスイッチを入れさせたとしか思えなかった。再び、何か運命的なものを感じて止まないものがあった。

縁とは不思議なものだ。

人には、その時は気づかなくても、人生を暗示させるできごとが必ずある。小生の場合は、一本の映画だったのかもしれない。